<ハート海賊団 船長の誕生日!>
「みんな、ローへの誕生日プレゼント決まった?」
「「いやーまだー。」」
「一体何が欲しいんだろう?」
名前は甲板でペンギン、シャチ、ベポを集め、明日に控えたローの誕生日について話し合っていた。
ちょうど今は、大きな街のある島に停泊している。ここなら、だいたいの物なら一通り手に入りそうだ。
「オレ知ってる!」
皆が分からないと首を傾げる中、ベポが腰に手を当てふふん!と得意げに言った。
「まじか、ベポ!」
「うん。キャプテン、この前ずーっと昔に読んだ絵本がまた読みたいって言ってた!!」
「医学書とかじゃなくて?」
ローが絵本?意外な言葉が出たものだから、みんなが不思議そうな顔をする。
「それ、本当?どんな絵本なの?」
「寒い雪国の話で...。仲間とか贈り物とか言ってたような。」
「内容覚えてないのかよ!」
「すいません。」
おい!っと突っ込みたいところだが、船長ローの欲しいものらしい。
手がかりになるのだから、思い出せーっとベポを揺さぶる。
「えっとー...。」
「うんとー...。」
あっ!
「その絵本!表紙に虹があるんだ!」
「虹?」
「そうそう!雪国の虹の絵!」
ベポはこれだけは自信がある、と言わんばかりに身体を乗り出す。
どうやら信じても良い情報のようだ。
「みんな知ってる?ローと一緒の北の海出身でしょ?」
「いや〜知らねェなぁ。」
「俺も知らねェ。」
横に首を振るペンギンとシャチ。
その後ローに気付かれないように他の船員たちにも聞いて回ったが、この船には誰一人その絵本について知る者はいないようだった。
「誰一人知らなかったね。」
「......手がかり無しか。」
かと言って、他に欲しい物があるのかと言われても分からない。
幸いここは大きな街がある。きっと大きな本屋もあるだろう。みんなはベポからの情報を元に、街へと駆け出した。
全ては喜ぶローの顔が見たいから。
どの船員たちも皆、ローのことが大好きなのだ。
*
大きい島だから〜と思っていたが、絵本探しは難航を極めた。
大きい本屋はいくつも回ったが、そのどれを回っても無い、知らないと言われるばかりだ。
「もうこの島の本屋回り尽くしたんじゃねーの?」
「うーん...。」
もう日も落ちてきて、あたりは暗くなり始めている。
今日は夜からローの誕生日の前夜祭ということで宴をする予定だ。その準備もあるため、
そろそろ船に戻らなければならない。
あと少しの残された時間で、見つけなければならなかった。
「本屋に無いってことはさ、もう今はその本、作られてないってことなんじゃないの?」
名前の発言に皆がハッとした顔つきになる。
「確かに...。」
「じゃあ、どこ探す?」
「んー、ほら。あそことか?」
そうして向けられた視線の先には古本、古美術、骨董品が書かれた看板を掲げる古家だ。
「すみませーん!」
名前はその重めかしい雰囲気にも負けることなく、声をあげる。
しばらく音の無い空間が広がったが、部屋の奥のほうからはい、っと老婆の声が聞こえた。
「探してるものがあるんですけど...。」
「探しもの...か?」
「本なんです。表紙が雪国で虹の絵が描かれた...。」
その老婆は少し何かを考えたあと、おもむろにそばにあった棚をゴソゴソとやりはじめた。
あれでも無い、これでも無いと呟きながら、何かを探す彼女を名前たちはただ見ているだけだ。
おお、あったあった!と取り出された一冊の本。
「お前らが探しているのはこれか?」
「「「それはっ!!」」」
老婆から差し出された本の表紙には確かに探している本の通り、雪国の虹の絵が描かれている。
(ローが欲しいと言っていた絵本...。)
いくらですか!?と財布を取り出しながら名前が言うと、その老婆はニヤリと笑みを浮かべた。
*
ちっ、胸糞悪ィ。ペンギン、シャチ、ベポそれに名前。
あいつらどこに行ったんだ?
俺の誕生日の前夜祭やろう!と声をかけてきたのはお前らだろうが。
帰ってきたらただじゃおかねェ。
そうしてローは眠りに着く。宴の最中、日付が変わり、船にいる船員たちに祝いの言葉をいくつもかけてもらったが、肝心の名前たちがいない状態ではどこか嬉しさに欠ける。
何かあったか?と少し心配もしたが、ペンギンとシャチ、それにベポもいる。事件や敵の可能性は薄そうだ。
朝になり目が覚めても名前たちの姿は無く、戻ってきた気配すら感じられない。
「おい、あいつらは帰ってきたか?」
「ロー船長。いやー...まだ見てないッスね。」
「..........そうか。」
一段とローの機嫌が悪くなる。それを察したのか、船にいる船員たちは寄り付いて来ない。
気遣いか恐怖から来るものなのかよく分からなかったが、その態度がますますローの機嫌を悪くしていった。
「最悪の誕生日だ。」
自室に篭ったローはポツリと呟いた。そうしている間にも辺りは暗くなり、窓から差し込む月明かりが夜の訪れを知らせる。
「......はぁ。」
俺は別に誕生日なんてどうでも良かった。
誰かが年を取ろうが、自分が年を取ろうが何も思わない。
だが、あいつらが名前が。
「船長!もうすぐ誕生日ですね!」
「じゃあ、お祝いしなくっちゃっ!」
「めんどくせェ。」
「ダメだよ。誕生日はその人に産まれてきてありがとう!って感謝する日だから。」
ローは俺は産まれないほうが良かったとか、そんな風にいつも考えてるかもしれないけど、私はローが今ここにいてくれて嬉しい。
そばにいてくれてありがとう。
産まれてきてくれてありがとう。
そんな風に感謝したい。
あんな風に言うから誕生日を、満更でもないと思っていたのに。
「まだ帰ってこねェのか。」
時計に目をやると、あと15分もすれば10月6日。
今日と言う日は終わりを迎える。
いてもたってもいられなくなったローは、気が付くと船の甲板にいた。空は満天の星空という言葉が、ぴったりなくらい星が溢れている。風が少し冷たかった。
心にもその風が吹いたかのように、どこかぽっかりと穴が空いたような感じがしている。
陸へと足を一歩出した時、船長ー!ロー船長!!と向こうから声が聞こえた気がした。
最初は不確かだったそれも、名前たちの姿が見えてくることで確かなものへと変わる。