<味>
「いつもと味が違う...。」
「分かるの!?」
「当たり前だ。今日の朝食は全ていつものコックの味じゃねェ。特にコレはな...。」
少しニヤついた顔でローはもう一つおにぎりを手にとると、口に運んでいく。
「それにお前の動き...バレバレだ。」
さすがはロー、勘が鋭い。
「おい、明日からの分も作れ。」
「それって...。」
ポンポン―――ッ。
大きな手で、優しく叩かれた名前の頭。
「...美味いと言ってるんだ。」
不意打ちだった。
まさか自分の作ったおにぎりがローに認められるとは思っていなかった。
褒めてくれたことは素直に嬉しい。だが今はそれ以上に、目の前にあるローの笑顔を見て、心が強く拍動していることが苦しかった。
愛されたい。
好きになればなるほど、その欲求は強くなっていく。
でも、ずっとここにはいられない。いつかはこの船を降りなくてはならない。
自分の帰るべき場所は赤髪海賊団。シャンクスの率いる、たくさんの家族がいるところだ。
その葛藤が名前の心を苦しめていた。
*
「これは......っ!!」
突然、ローが声をあげる。それは小さな声だったが、ローらしくない。
新聞を眺める表情は、どこか険しく驚いているようだ。
「荒れるぞ......。」
ただならぬローの顔につられ名前は前に乗り出し、新聞のほうへ目をやった。
そこには一面を飾る″火拳のエース公開処刑″の文字。
火拳と言えば、白ひげ海賊団の2番隊隊長である。それを処刑しようものなら、白ひげが動き出す。そんなことは余程の馬鹿ではない限り、誰にでも分かることだ。
「ロー...これって...。」
「ああ、戦争が起こるだろうな。」
こんな時でもローは冷静だ。名前は不安になった気持ちをぶつける。
「私たちはどうするの?」
「何もしねェよ...今はな。」
つまらねぇ戦いには参加しない。あいつらが殺り合うなら、それも結構。俺たちには関係ないことだ。
ローらしいと言えばローらしい。だが、本当に大丈夫なのだろうか。
白ひげは世界を滅ぼす力を持っている。この世界に生きている限り関係ない、などと目をそらすことは不可能に近い。
名前は記事にもう一度、目を移す。公開処刑の日は今日からちょうど一週間後。
場所はマリンフォードだ。
(.........戦争が始まる。)
名前は思いつめたような顔をして、喉をゴクリと鳴らした。
シャンクスは大丈夫なのだろうか。以前、白ひげとは顔馴染みだと言っていたような気がする。
そしてシャンクスは、誰よりも平和を好む男だ。きっと何らかの形で、この戦争に絡んでくるはず...。
名前は、その不安な気持ちを拭い去ることはできなかった。