<贈り物>
場の空気が少し悪くなりかけたところで、ベポが何か抱えて近付く。
「名前〜。」
「どうしたの?ベポ。」
「なんだ、それ。」
「あ、これ...?」
じゃじゃーん!と名前の目の前に出された大きな箱。綺麗にリボンでラッピングされていて、どうやらプレゼントのようだ。
「俺からのプレゼントだよ。俺たちが仲間になった記念!!」
「わぁっ!嬉しいっっ!!」
開けていい?と聞いて名前はリボンに手をかける。Dear.名前と書かれたカードまで付いていた。
その箱の横に黒いインクでついた熊の手形があるのは、ここだけの秘密だ。
「可愛いーーっ!!」
出てきたのはベポによく似た白いテディベア。
「気に入ってくれた?」
「ベポみたい...大事にするね!」
「へへっ。」
照れ臭そうに鼻をこすりながら、ベポが笑った。
「あーあ...考えてることは一緒か。」
「ビックリさせようと思ったのに。」
ペンギンとシャチも、プレゼントらしき箱を取り出す。
「「俺たちは仲間だ!」」
それを見ていた船員たちも大きな箱、小さな箱と様々なプレゼントを持ち出す。
「お前らもかよ!」
「いや、だってさぁ〜...。」
名前は目の前の光景に、思わず目が潤んだ。発する声が少し震える。
「これ全部、私に...?」
「他にだれがいるんだよ!」
「あ...、りがとう...。」
みんなの気持ちが、とても嬉しかった。心がポカポカとあったかくなる。
ツツーっと涙が頬を伝う。だが、流れた涙には嬉しさの他に皆に対する罪悪感が混ざっていた。
何故なら本当は名前は、赤髪海賊の一員なのだ。
成り行きで船に乗ったとは言え、こんな親切で優しい彼らを裏切っていることになる。
(...でも本当のことは言えない。)
ごめんなさいと心の中で謝るが、皆の顔の笑顔がズキっと突き刺さるように痛かった。
この船で過ごした時間は短いが名前もまた、この船がローの率いるハートの海賊団が大好きになっていた。
「何、泣いているんだ。」
今まで黙って隣で見ているだけだったローが、冷静な口調で問う。
「グスっ、だって...嬉しくて...。」
嬉しさと罪悪感とで溢れでる涙を、ローの細く長い指がすくった。
「もう泣くな。これは...俺からだ。」
さらりと放たれたその言葉に、名前も含め船員たちが驚いた。
(まさかあの船長が...?)(本当か?)
ポケットから取り出した、小さな可愛いラッピングのされた箱。どうみても誰かの心臓などではなくプレゼントそのものなのだ。
あまりの驚きに涙が止まる。
「開けてみろ。」
「......いいの?」
名前は手渡された箱を、テーブルの上に乗せた。するりとリボンをほどく。
皆がなんだなんだと興味深々で見守る中、姿を現したのはローのしているピアスに似たピアスだ。
名前はそれがあの店の前で、見ていたピアスだということにすぐに気付いた。
「ロー、これって...。」
(私が欲しいと思いながらショーウインドウ見てるの知ってた?気付いてくれてたんだ...。)
「今ついてるの外せ。つけてやるよ。」
周りにたくさんの船員たちがいることにも関わらず、2人だけの世界がその場に広がる。
海の底で見つけた貝殻で出来た、小さなピアスをはずす。
ローの指が耳に触れることに少しくすぐったさを感じながら、つけてもらうのを待った。距離の近い顔にドキドキしていたためか、たった数秒がとても長く感じた。
「できたぞ。」
「ありがとう...。」
ローとお揃いの形をしたピアス。
ただそれだけのことなのに、とても嬉しかった。顔の筋肉が自然と緩む。
「船長...。」
恐る恐るペンギンが声をかけた。
「なんだ?」
「このタイミングでそれは辞めてくれませんか?俺たちのプレゼントが霞む...。」
ウンウンと後ろで頷く船員たちを、ローは鼻で笑った。
*
そのあと名前は順番に船員たちの元を回った。いろんなプレゼントとともに、優しい言葉が心を熱くする。
「みんなありがとう...。」
ローはその様子を端のほうで見ていたが、その瞳はどこか優しい。普段はとても冷たい目も自分の船員達と名前に対する視線だけは、いつも違っていた。
それを船員達はみんな知っている。だからどれだけの人を残虐に殺そうとも彼らはローについていくのだ。
「えーそうなの?」
「そうなんだよ!だからさ...。」
船員たちと仲良く話す名前の笑顔のすぐ横で、ローの渡した金色の小さなピアスがきらりと光る。
それを見て小さく微笑んだ彼の顔を、誰も気付くことはなかった。