<後半 微裏>

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「キャプテン〜遅かったねー!!」

機嫌よく迎えるベポの後ろで、心配そうに見つめるペンギンとシャチ。

「ってあれ?何があったんですか?」

「名前ちゃん、顔に血が...。」

「後で話す。お前らは準備しておけ。」

そうしてローは名前を抱いたまま、まずシャワー室へと向かう。その場に名前を下ろすと、一枚のバスタオルを手渡す。

「見たところ傷は浅い。とりあえず汚れを洗いながせ。」

「うん...。」

「終わったら、そのまま処置室へ来い。着替えはまた用意させておく。」

ドアが閉められたのを確認して、服に手をのばす。

(ローの服......。)

彼の身体は刺青だらけだった。ハートの模様とDEATHの文字なんの意味があるんだろう?
私のこの首のアザも...。ローは何を知っているの?

蛇口をひねり、シャワーを浴びる。赤黒い汚れた水が流れていく。

(もっと強くならなくちゃ...。)

今までシャンクスに守られて生きてきた。そして今回もローに守られた。少し強くなったくらいで、自惚れていた。
足を痛めただけで、1人じゃ何もできないに等しいのだと自分の無力さを痛いほど感じた。

名前はきゅっと蛇口をしめる。そしてタオルを身体に巻くと、処置室へと向かった。





「ここへ来い。寝ろ。背中からだ。」

タオルがはだけないように注意しながら処置台の上へと上がる。ローの視線が気になって仕方がない。
名前がうつ伏せになると、背中にかかった長い髪をローがかきあげる。
そして、身体に巻かれたタオルへと手がいき、患部が見えるようにとタオルを緩めていく。

「.........っ。」

このただの動きでも、ローの指が背に触れるたびにきゅっと力が入る。

「傷は浅いようだが、広いな...。だが、心配するな。跡は残らねェ。」

(................。私が気にしてたこと分かるんだ?こういう小さな優しさがズルい。)

「ね、ロー...。」

「なんだ?」

「助けてくれてありがとう。」

「当たり前だ。お前は俺のものだからな。」

トクン――――ッ。

(それは船員としての意味?それとも...。期待しちゃうよ。)





たんたんとローは処置を施していく。

「ねぇ、ローの刺青...。どんな意味があるの?」

「なんだ、急に。」

「私のアザの何を知ってるの?」

カチャ...っ。ピンセットがトレーの上へと置かれ、冷たい金属音がなった。

「次は前だ。上を向け。」

「...背中だけじゃダメ?」

「当たり前だろう。」

「うぅ...。」

名前が嫌がるのも無理は無い。胸が切られているわけだ。タオルは取られるに決まっている。強くタオルを握り締めて上を向く。
うつ伏せとは違いローの顔がすぐそこに見えるために、余計に名前の心はドキドキとする。

「手をどけろ。」

「やっぱり恥ずかしいよ。」

「できねェだろうが...。」

「きゃっ。」

グッとタオルを握り締めた手ごと、下のほうへと下げられる。思わず両手で胸を覆った。

「おい、名前...。」

「無理!恥ずかしいよ。」

「安心しろ。怪我人には手はださねェよ。」

「ちが、そうじゃなくて....っ!!」

「クク、何が違うんだ?」

突然、名前の目の前が真っ暗になる。
唇に触れた柔らかな感触に、ローからキスされているのだと気付いたのは、数秒後のことだった。

「あまり俺を誘うんじゃねェよ...。」

それから何度も何度も口付けられる。上唇、下唇と吸いついてくるような、そのキスに甘い声が漏れる。

「んっ、ロー......。」

ローは自分の名を呼ぶために微かに開いた、名前のその間に舌を滑りこませた。
そして互いの唾液を絡めるように舌を絡ませると、名前から甘い声が漏れ出す。

「あ........、ん.........。」

クチュクチュと唾液が混ざり合う音だけが、2人の間に響く。
とろけるようなそのキスに、名前の強張っていた身体が、ゆっくりと弛緩していった。

「名前.......。」

「ん....、ロー.....っ.....、はぁ。」

吐息まじりにお互いの名前を呼ぶ。
つぅ、っと口の端から透明の雫が伝い落ちていく。
奥へ奥へと互いを求めるように、名前の腕はローの背中へと回されていた。





ローのキスは激しくも濃厚で、悩ましいほどに求めてくる。甘く絡みつく舌。

「んん.....っ。」

ローは自分のことをどう思っているのだろうか?ただヤりたくなっただけ?
俺のものだの意味は...?

しかし、そんなことを考えれるのも一瞬のうちだった。甘く切ない快感が口内へ広がっていく。
名前の目は潤み力を無くし、虚ろな瞳でローを見つめた。

今にも溢れだしそうな互いの唾液を飲み込む。ゴクっという音とともに、快楽の塊は身体の中へ流れていった。

「はぁ、はぁっ....。」

荒げた吐息に包まれて、お互いの身体が離れていく。 じっと見つめてくる瞳に、視線を外せずに見つめ返す。
そして、ローは無言のままピンセットを手に取ると治療を再開した。名前も抵抗することなく、ただローの瞳を見つめていた。

胸の治療が終了すると、太もものほうへと治療箇所が移る。しばらくの間、金属が当たる冷たい音だけが聞こえていた。
その空間を消しさるように、そっとローが呟く。

「hurt......。それが刺青の本当の意味だ。」

「hurt.......。」

苦痛を与える、傷つける。

heart―――
心臓。
そして愛情。

その裏に隠れた痛み。

「終わったぞ。また数日後に診てやるよ。」

そう言って、ローはタオルを上に被せた。

「ありがとう。」

「着替えはそれだ。着替えが済んだら食堂へ来い。」

指をさしたほうをみると、買い物袋が置いてあった。ペンギンと買い物したものだろうか。名前は手を伸ばした。





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