<選べねェ ※ややグロ>
「ローっ!!」
「「「トラファルガー・ロー!」」」
宙に舞う男たちの中を、ローは名前のほうへ一直線に歩いていく。
「悪い。遅くなった...。」
名前の傷ついた肌にそっと触れる。ローの顔つきがひどく怒ったような、冷たい顔になった。
「こいつらがやったのか...。」
「......ロー?」
「お前はしばらく後ろを見ていろ。すぐに終わる。...お前らにはここで消えてもらう。」
ローは鞘から刀を抜くと、男たちのほうを見た。刃が鈍く光っている。
「ちょっと待て!話をしよう。」
リーダーの男が焦ったように話かけた。
「うるせェよ。」
ビュッ―――。
部下の男たちの身体が真っ二つに切れる。
しかし、ローは更に刀を左右に振り抜き、宙に浮いたままの彼らを切り刻んだ。
サークルの中にいるため死ぬことはできず、ただ指の先や眼球などの人間のパーツのみが、静かに動くだけだった。
「ひっ...!!」
リーダーの男が情けない声をあげる。彼の顔は血の気がひいて、すでに死人同然だった。
「...殺さな「生きる価値もねェよ」」
″メス″
取り出されたのは男の心臓。死への恐怖を感じているのだろうか。拍動が早く力強い。
ギュウ―――――ッ
「グァァァァァァア!!」
叫び声が部屋に響き渡る。ローが男の心臓を握っているからだ。握っては緩めを繰り返し、男の反応を楽しんだ。
「クク、情けねェ声だな。」
「グァァ、や、め...。」
「なんだ?辞めて欲しいのか?」
男は目に涙を浮かべ、必死に助けをこうように何度も頷いた。それをローは嘲笑う。
「終わりにしてやるよ。」
ブチュ――――ッ。
手のひらにすっぽりと収まったそれは音にならない男の声とともに、ただの赤黒い肉片へと変わる。
床へ崩れ落ちた肉片のかけらは数回ピクピクと動くと、もう二度と動かなくなった。
「汚ねェな......。」
弱い奴は死に方も選べない。
ただ強者の下で、虫ケラのように死んでいくだけだ。
虫が1匹、2匹死んでも誰も気にしないし困ることもない。
「こいつに手を出したことあの世で後悔でもするんだな。名前、そのまま後ろを向いていろ。」
この光景は少々キツいだろうからな。
しかし、身体じゅう傷だらけだ。もう少し早く見つけていれば...。
「切られたのか?」
「......うん。」
ローは傷の確認をする。名前が切られたのは胸と太腿、そして背中の三カ所だ。
服もボロボロになっており、ただの布切れと化している。
「痛むか?」
「んー...少し痛いかなぁ...。」
「船に戻るぞ。手当てしてやるよ。」
ローはそう言いながら、帽子を取ると、上着を脱ぎだした。見慣れない黒髪と、チラリと見えた腹筋にドキリと心が鼓動する。
「.........っ。」
どこを見ていいのか分からない名前は、さっと目をそらした。
布のそれる音が聞こえる。
「着ろ。」
頭の上に降ってきたローの服。手に取るとほんのりと暖かい。
「え?どうして...。」
「いいから着ろ。」
「やだ、私の血が付いちゃうよ。」
上着を突き返すと怪訝そうな顔でローは名前を見つめ、手を頬のほうへと伸ばした。
「名前......。」
じっと見つめられ近付いてくる顔に、思わず名前は目を瞑る。キスかな?と淡い期待が湧き上がる。
「...........ロー?」
「痛ァっ!」
しばしの沈黙の後に響く声。キスかなと言う淡い期待は裏切られ、かわりに小さなデコピンをくらう。
ジンジンと痛むおでこに、名前は両手を当てる。
「着るんだ。」
「でも...。」
「汚れりゃ、また洗えばいいし服を新しくすればいい。それよりも俺が嫌なのは...。お前の肌が他の奴に見られることだ。」
真顔で、その恥ずかしい歯の浮くような台詞をローは言う。
名前は顔を赤らめて、彼の言う通りに従うしかなかった。
「おっきい...。」
それもそのはずだ。ローは191センチと高身長。名前が着ると袖が余り、全体的にダボっとしている。
「クク、そそるな...。」
「ちょっと、またそんなっ!」
「...立てるか?」
差し伸べられた手に捕まり立ち上がろうとするが、先程の戦いで無理しすぎたためだろうか。足首の痛みで顔が歪む。
「ちっ、仕方ねェな。」
見えねぇように深く被っとけとローの帽子が手渡される。それを言われた通りに被ると、ふわりと名前の身体が浮き上がった。
背部と膝のあたりに手を回され、いわゆる、お姫様抱っこの状態になる。
背中に回された腕は上手く傷を避けるように、そっと添えられた。
一つ一つの行動に優しさが伝わってくる。
意地悪だと思えば優しくなって、今のように守ってくれる。
出会ってからあまり日も経っていないが、常に名前の心は翻弄されっぱなしだ。完全にローのペースに引き込まれている。
「船へ戻るぞ。」
「うん...。」
名前は抵抗することもせずに、ローの胸元へと体を委ねた。
(私...たぶんローのこと...。)
シャンクス、ごめんね。好きなのは変わってない。でも...。
きゅうっとローの身体を強く抱きしめた。
「どうした?痛むか...?」
「...違う。違うの。」
「じゃあ、なんだ。」
「なんでもない......。」
名前はローをただただ抱きしめ、その温もりを感じていた。微かな振動が心地良かった。
「...怖い思いをさせて悪かったな。」
心が押し潰れそうなくらい、きゅううっとなる。
「ううん。助けに来てくれてありがとう...。」
ローはふん、と小さく鼻を鳴らした。きっと照れ隠しなのだろう。
名前のローを抱きしめる力がもう一度だけ、きゅっと強くなった。