<くまたん>
「ん......っ。」
目を覚ますとベッドの上だった。確かに部屋の角で寝たはずだ。彼が移動させたのか...?
「トラファルガー...っ!!」
いない。彼はどこで寝たのだろう?ドキドキと鼓動が早くなった。
「私どれくらい寝たんだろう?」
窓の外を見ると青空が見える。どうやら海面に出たようだ。綺麗に毛布を畳み、服や髪を軽く整えて廊下へ出る。名前は一先ず食堂へ向かうことにした。
「お、おはよー!名前ちゃん。」
「よく眠れた?」
食堂を覗きこむと、船員たちが笑顔で名前を出迎えた。
「みんな、おはよう。私、寝過ぎちゃったみたいだね...。」
「いいって!船長が夜、寝かせてくれなかったんでしょ?」
「おい、シャチ!辞めろ...っ!!」
シャチが嬉しそうに飛び込んできて、昨日の夜の質問を始める。その後ろでペンギンが心配そうに止めに入っていたが、満更でもなさそうな雰囲気だ。
「寝かせてくれないって?」
「...え?えぇーっと...そりゃー...なァ?ペンギン!」
「うぉっ!そこで俺に振るか?!」
「ねぇ、どういう意味?」
慌てる2人に、名前はきょとんとした顔でそう答えた。純粋なのか、ただの天然なのか。2人の顔が赤くなる。
そしてシャチは辺りを見回してローがいないことを確認したあと、名前のほうを時々向いては目をそらす、を何回も繰り返した。
「だから...その...つまり...夜、船長と...ヤっ「あっ!!」」
突然出された名前の大声に、シャチとペンギンは飛び上がるほどびっくりする。
まさか船長か!?
身体をバラされることを覚悟しながら、名前のほうに視線をやった。思わず閉じた目をそーっと開く。
「くまたんだー!」
「「えっ...?」」
もうその頃には名前はベポに抱き付いており、ふわふわ〜と満足気だった。
((羨ましすぎるぞ...ベポ...!!)
「くまたんじゃない。ベポだ!」
「ふふ、ゴメンゴメン。」
「...っ別にいいけど...。」
普段メス熊にしか興味のないベポも、この時ばかりは動揺したようだ。さらに名前に抱き締められて困っていたが、どこか嬉しそうだった。
((裏切り者...っ!!))
その様子を見ていた2人が、羨ましそうに指を咥えていたのは言うまでも無い。
「おい、邪魔だ...!!」
シャチとペンギンが後ろを振り返ると、そこにはローが立っていた。その視線は、名前とベポのほうへと向けられている気がする。
((船長...?))
ローはしばらく2人の様子を見るとふん、と鼻を鳴らし、いつもの席へと移動した。そして無言で新聞を読み始める。
「おい、シャチ。俺の気のせいかもしれないが船長、何か怒ってないか?」
「いや、俺もそう思う...。」
ベポのやつ、ヤバいなと2人でヒソヒソと話す。名前はベポに抱きつきながらずっと話しており離れようとしない。そればかりか軽いキスまでした。
((あーっ!!!!あいつ、やべェぞ!))
そーっと2人は視線をローに移す。ベポのためにも見てないことを祈ったが、ばっちりその現場を見ていたようで、いつもにも増して眉間のシワが深い。とてつもなく不機嫌なオーラが発せられている。
「おい、ペンギン...。」
「はっ、はい!!」
「ベポに伝えろ。今から貯蔵庫の掃除をしろとな。ホコリ1つ残すんじゃねェぞ...!!」
「はい、船長!」
「それと...朝食は抜きだ。」
急いでペンギンはそれを伝えにいく。ベポは何故そうなったのか、理由を理解はしていなさそうだったが、朝食抜きという言葉に激しく落胆した。
名前はベポの変わりにローの元へ抗議に向かう。
「なんでベポが掃除に朝食抜きなの?」
「あァ?知らねェよ。」
「トラ...ローが言ったんでしょ?」
「いい加減慣れろよ、名前。」
ローはどこか嬉しそうに笑うと、名前の頭をポンポンと軽く叩いた。
「ん.....っ。」
「そうだな、朝食抜きは許してやる。」
「キャプテン〜...。」
「ベポ、良かったね!」
ぎゅーーーっ!!
再び名前はベポを抱き締める。ローの顔がまた不機嫌になった。
「おい、ベポ...覚悟はで「船長!」」
「島が見えましたっ!!」
「ちっ、分かった。今すぐ上陸の準備を始めろ。」
(助かったーー...。)
ベポはそっと胸を撫で下ろすと、準備を始めた船員達に紛れ、逃げるようにその場をあとにした。