<歓迎>
「俺の名前はペンギン。 こっちはシャチだ。」
「よろしく!えぇーっと...。」
「名前。よろしくね。」
そう言って名前は笑う。その笑顔にペンギンもシャチも、自然と鼻の下がのびる。
(何、この子...。) (ヤバい...。)
((可愛いすぎるだろっ!!))
そこからどこの海出身だとか、世間話をしながら船の中を回った。もちろん名前の出身は2人には秘密だ。
とりあえず、グランドラインのとある島とだけ伝えておいた。
「この船はほとんど海底を進むの?」
窓から見える暗い海を見て、名前は2人に聞いた。海の中にずっといられては、逃げ出すこともできない。
「うん?あぁ、普通はね。」
「普通は?」
「島が近付いてきたり、天気がいい日は浮上したりしているよ。」
「そっか......。」
名前は島に上陸したときが、逃げ出すチャンスだと思った。前を歩く二人の足がある部屋の前で止まる。
「ここが食堂。皆で食事する場所。これで船の案内は終わりだ。」
「俺たちは仕事に戻るよ。」
「2人ともありがとう。」
二人に別れを告げて、それからもう一度だけ船内を回った。船の構造を記憶しておくためだ。
ローには余計なことを考えるなと言われていたが、これから先、一緒にいる理由も無い。一刻も早くシャンクスの元に戻るためにも、逃げ出したかった。
夕食の時刻になると、シャチとペンギンが探しに来てくれた。食堂で2人から船員たちへの紹介をしてもらい、食事をする。
女っ気のなかった船に一人の美女がいる。それだけで船員たちはいつもより明るく騒ぎ、名前の元へ集まり話をしていた。
ローは船長室にこもっているらしく名前にとっても、都合が良かった。ここぞとばかりローのことや船のこと、逃げ出す際に必要そうな情報を聞き出した。
時は過ぎ、船員たちが少しずつ自室へと戻っていく。食堂には名前一人となってしまった。
名前は、どこで寝ればいいのかローに言われてなかったため、彼に聞こうと食堂を出て船長室へ向かう。その途中で廊下で話す船員達がいた。
「船長はなんで乗せたんだろう?」
「名前ちゃんのことか...?」
「そりゃ、アレだろ!船長の...道具。」
話の内容からして、自分のことだと感じとった名前は、出るに出られなくなってしまった。聞くつもりはなかったが、結果的に立ち聞きする形になった。
「あんだけ可愛いんだぜ?案外船長の一目惚れってことも...。」
「あの船長が?」
「夜の相手だろ!あー...っ!!船長、羨ましいぜ。」
「それだけで船に乗せるかよ。」
船員たちは話に盛り上がっており、そばにいる名前のことには全く気が付かない。話の内容を聞くにつれて、やはり夜の道具にされるのだろうかと、名前の不安が募る。
ローの話を船員から聞いた限り、真っ正面から逃げ出すことは不可能だ。
それに今、船は海底の中。彼を殺さなければ、逃げ出すことなど出来ない。しかし、戦って勝てるとは思わなかった。
こんなことならシャンクスにあの時、無理にでも抱かれるべきだったと名前は後悔した。
「おい.......。」
後ろからあの低い声が聞こえた。
「.........っ!トラファルガー...!!」
「そこで何をしている。」
そう言って名前が向いていたほうを、ローは見た。
「クク、立ち聞きとは...。趣味が悪いな」
「や、違っ。これには理由が...。」
「まぁ、いい。来い。」
「キャッ!」
グイッと手を握られ引っ張られる。
ドキ....力強く握られるその手に、シャンクスのことを思い出した。
そして、ローはそのまま船員たちが話をしているほうへ進んでいく。
「離して、逃げないから!」
「うるせェ。」
先ほどの話を聞いていたため、その船員たちの前を手を握られたまま通りたくはなかったが、ローはその手を離そうとはしない。
「船長......。」
案の定、船員たちは驚いた目で名前たちのほうを見ている。
ローは無言でその前を通りすぎた。彼から発する威圧感に、船員たちは何も言うことが出来なかった。
「入れ。」
しばらく歩いたところで、名前は再び船長室へと案内される。何冊かの本が読みかけのまま、机の上に放置されていた。
最初にこの部屋へ入ったときには無かったので、部屋に篭っていた理由はそれらの本を読んでいたからのようだ。
「さて...何か言いたそうな顔だな。」
「別に...。」
ふいっと顔を横に向ける名前に対し、ローはその距離を縮めていく。
名前は一定の距離を保つため、後ろに進むが数歩下がったが、ベッドの脚に踵が当たってしまう。
「あっ...!!」
その所為で名前はバランスを崩し、ベッドの上に仰向けに倒れこむ。ローはその上に覆い被さるようにして、名前を逃げないようにするとククっと笑いながら見下ろした。
「正直に言えよ。」
至近距離で見つめられた名前は、ローを直視することができなかった。
「やりたいならやれば...それが目的なんでしょう?」
彼の挑発的な視線に、負け時と名前も言い返す。
「それが俺がお前を船に乗せた理由だと思っているのか?」
「..........そうよ。」
ローの視線が胸のほうへ向けられていた。
何かを吟味するように、彼の目が身体を舐めるように移動する。
名前の心拍数が少しずつ上がっていった。
「........っ。」
ローの手が首元のボタンへと移動する。ビクっと名前の身体が反応し、力が入った。
プチ、プチ――――。
ボタンが外れていく感覚だけが、静かに伝わってくる。ローの手が首筋にあるアザに触れた。
「本当の理由を教えてやろうか?」
ニヤっとローは笑うとそう、名前の耳元で囁いた。