<情報収集>
島への上陸は必要物資の調達が目的だ。割り振られた仕事をこなすため、船員たちは個々に別れる。船に残るもの、街へ行くもの。
いつも上陸する際に割り振られる名前の仕事は、なぜ呪われた人魚が存在するのかその情報収集だった。
手掛かりは自分の首に残る雫のような特徴のあるアザと、海の色をした青い刀だけだ。ここ10年様々な場所に行ったが、これといった情報は手にいれられていない。期待は出来なかった。
「シャンクス、行ってくる。」
一緒に行くか?と言われたが、名前は四皇と歩くと目立つと断った。
一人になりたいと言うこともあったが、一緒にいることで好きという気持ちが、大きくなりそうで怖かった。
「気をつけるんだぞ。夕方に街の外れの酒場で待ち合わせだ。」
「刀を持ってくし、大丈夫だよ。わかった。じゃぁ、また後でね。」
名前は最近、世間一般には赤髪の女と言うことで知られている。命を狙われるまでは無かったが、捕まえて赤髪の命を狙うためのエサにしようという海賊は、これまでもたくさんいた。
名前は自分の身は自分で守りたいということで、もっと強くなれるようシャンクスに剣の稽古を付けてもらっていた。そのおかげで今では並大抵の海賊じゃ歯がたたない、実力を持っている。
最も、普段は仲間が守ってくれるので、その実力は知られていないが...。
海岸そばの森を少し歩き街に着くと、早速情報収集を行う。
「このアザについて何か知らない?」
何人もの街人に聞いたが、返ってくる答えは同じ。名前の美貌に心を奪われるか、首を横にふるか綺麗だね、ほんとにアザなのかい?と答えるだけだった。
街一番の図書館に足を運ぶが、これといった古文書も見当たらなかった。だんだん空も赤くなり、シャンクスとの約束の時間が近くなる。
「結局何もなかったな...。」
この結果は分かっていたものの、実際に体感するとやはり辛い。はぁ、と小さくため息が漏れる。少し立ち止まった後に名前はそろそろ行かなくちゃ、と街の外れの酒場を目指した。
約束の酒場に着くと、街の外れということにも関わらず、賑やかな声が外まで聞こえていた。
(もう始まってるんだ...。)
みんな鼻の下を伸ばしながらお酒を楽しんでいるんだろうなー、と思いながらドアを開く。
カランカランーーーーッ。
客が来たことを知らせる音が鳴るが、店の中は雑音だらけ。名前が来たことなど誰1人気付かない。
そんな中をカウンターを目指し、名前は歩いていく。どの船員たちの顔を見ても久しぶりの女に喜びを隠しきれないのか、だらしがない顔をしている。
(......やっぱりね。)
名前は店内を見渡せる席に移動すると、青の刀と少しばかりの荷物を肩からおろした。
(シャンクスはどこかな...。)
見渡す視線の先に見つかった彼は、両側に綺麗な女性をはべらしている。
片方の腕は女性の肩に、もう一人の女性はシャンクスの体に纏わりつくように手を添えていた。
女たちに酒を飲ませてもらいながら、デレデレした男のだらしない顔にとても苛立ちを覚える。
(ただのエロ親父!!バカシャンクス!)
私にはあんな風に言っておきながら、結局のところ大人の女性がいいんだと、だから島での宴は嫌なんだ、と名前は思っていた。
苛立つ気持ちを抑えるために体の向きをかえて、カウンターの奥を見つめるよう名前は腰を下ろす。そこへ、一人の女が席に近づいてきた。
「あら、いらっしゃい。ずいぶん可愛いお客様ね。」
そう声をかけてくれたのは、いかにも大人の女性という雰囲気のとても綺麗な人だった。
「何か飲む?」
「............きれい。」
「え?どうかした?」
その女は優しく笑う。グラスを扱うその指の先までもが、とても繊細で美しかった。
「あ、ごめんなさい。とても...綺麗な人だなって思って。」
名前は直視できず、そっと顔を逸らした。
「フフ、面白い子ね。顔をあげて?」
「......っ。」
「貴女は可愛いわ。ちゃんと自信を持ちなさい。」
「え?」
「あなた、船長さんのこと好きなんでしょう?」
「なんで.......っ。」
「可愛い子が入ってきた、と思って店に入ってきたときから、貴女のことをずっと見ていたのよ。」
その女性は微笑みながら、水の入ったグラスをそっと手渡してくれた。
「すぐに分かったわ。彼のところにいかないの?」
「...私は娘らしいから。」
名前は、ぽつりとそう言った。
それを聞いたその女性は、カウンターごしに名前を軽く抱きしめ頭を撫でる。
「そう、辛いわね。こんな可愛い子に辛い思いをさせるなんて...。本当に男は勝手な人ばかり!」
女性は深く話を聞いてこなかったが、名前の話をよく聞いてくれ、そして自分の話も少しだけしてくれた。