<島への上陸>
「島が見えたぞー!!」
「.............ん。」
名前が目を覚ますと、廊下を船員たちがバタバタと駆け抜ける音が聞こえた。どうやら島に到着したらしい。
名前が隣を見るとシャンクスは、まだ気持ち良さそうに寝ていた。
(とっても気持ち良さそう...。)
このまま寝かせておいてもよかったが、船員たちへの指示もある。起こすべく、名前はトントンと軽くシャンクスの肩を叩いた。
「ね、シャンクス。起きて。島に着いたみたいだよ?」
「......何っ?そうか!」
シャンクスの目覚めはいいほうだった。それに島への上陸となると、彼はいつも嬉しそうにしていたから今日は一段と目覚めがいい。
「今日は何するの?」
「とりあえず必要物資の調達だな。それが終わったら酒だ!」
「ふーん...。」
名前には酒という言葉が面白くなかった。海の男たちは必ずといってもいいほど酒だ、宴だと騒ぎ立てる。
楽しいことは名前も好きだ。海の上で潮風に当たりながらの宴は、最高といってもいいほど気持ちがいい。
しかし今回は島だ。いつもの展開からして、お酒を呑むのはきっと店だろう。女たちはここぞとばかりに群がり、その女たちに鼻の下を伸ばす男たち。
「どうした?行くぞ!」
その男たちの中には当然、目の前で新しい島への上陸に目をきらきらと輝かせるシャンクスも含まれていた。
名前は心の中で溜息をついた。
「名前?」
「あ、ごめ......っ。」
「早く来い!」
そのまま手をグイっと引っ張られ、名前たちは廊下へ飛び出した。
(普通、パパならこんな風に娘と手を繋がないよ...。)
名前は自分の手を握る少しゴツゴツした男の手を見て、そう思った。
「ちょ、っと!シャン...「お頭!」」
自分で歩けるから手を離して、と言おうとしたとき、廊下でベックマンに呼び止められた。
「あ?」
振り返ったシャンクスの後ろに、名前が見えた。よく見るとシャンクスが名前の手を握っている。
「お頭、その手。あんたまさか...。」
(あんな風に言っておきながら、結局手を出したのか?)
驚きを隠せないベックマンの視線に、シャンクスも目を向ける。無意識に握ったその手に気付いたのか、彼の顔が一気に赤くなった。
「い、いや!これはだな...!」
「言わなくても大丈夫だ。」
焦るシャンクスとは裏腹に、冷静に大人な態度をとるベックマン。
「違!こ、これには理由が!!」
「お頭、皆待ってる。早く行かなくていいのか?」
焦っているシャンクスに話を聞いても、ややこしくなるだけだと感じたベックマンは、彼を遠ざけるようにそう言った。
「そ、そうだったっ!」
先に行く!とバタバタと駆け足で、外へ向かうシャンクスを2人は見守る。その姿が見えなくなってから2人は顔を合わすと、あれでも船長かと笑った。
「名前、手を繋いでいたが?」
「あれはシャンクスが勝手に...。」
「話はできたのか?」
「うん。愛してるけど、それ以前に娘だって言われた。」
ベックマンはそうか、と頷き悲しそうに俯く名前の頭を撫でた。
「あの人は間違い無くお前のことを一番に考えている。それを分かってやっててくれ」
さっきの手だって悪気はないんだ、と小さく笑った。
「器用な人じゃないからな。」
「...それがいいところでもあるよ。」
「それもそうだな。」
こんな風に理解してくれる船員を持ち、シャンクスは幸せ者だなと名前は思った。そしてその船に乗せてもらっている、そのことにも幸せを感じた。
「だか、あまり無理はするなよ。」
「えっ?」
「俺たち皆、この船の男はお前のことを娘のように思っている。いつでも頼ってきていいんだぞ。」
「......ありがとう。」
ここには昔のように呪われている、呪われた子などと蔑む人間はいない。ちゃんと居場所がある、そのことを改めて実感した。