<純白のドレス >
あの後、名前とローの二人は船のほうへと戻った。
そして荷物の引き渡しも済み、ハートの海賊団の出航準備が整う。これからシャンクスとは別々の航路だ。
シャンクスは自分の船に。
名前はローの潜水艇に。
お互いの船の上で別れの言葉を交わす。
「ロー、名前のこと任せたからな。」
「あァ。」
シャンクスに対するローの返事は、とても素っ気ない。
(また、こいつは...。)
ローらしいと言えばローらしいのだが、大切な名前を任せるのだ。
一言、任せろくらいの言葉は欲しいものである。
大きな溜息をつきながら、シャンクスはローの横にいる名前に目をやった。
「いつでも戻ってきていいからな。」
「うん!ありがとう。私もたまには、皆に会いに帰ってきたいなって思ってたの。」
「おう!そうしろ!!」
その会話を聞いたローの目が少し細くなる。シャンクスはそれに気付いていたが、大切な名前を奪われた身だ。ここぞとばかりに名前との仲の良さをローに見せつけた。
「.....ちっ。」
ローは苛立ちを隠せないのか小さな舌打ちをして、船の奥へと進んでいく。
「あ、ロー!どこ行くの?」
気付いた名前が振り向き声を掛けるが、ローの歩みは止まらない。
それを見たシャンクスがあっかんべーと舌を出し、ローを見ていたのはここだけの秘密だ。
「船長?」
名前が声を掛けたあと、ペンギンとシャチがローを呼び止めるが、彼はそれも綺麗に無視。
「キャ、キャプテンッ!!」
ベポはと言うとその後を追って、船内へと消えていった。
残されたペンギンとシャチの二人は顔を見合わせて難しい顔をし、名前のほうを見る。
それを見た名前は、口に手を当てながらクスリと笑った。
「あ、そうだ。名前、渡したいものがあったんだ。」
そう言って、シャンクスから投げられた包み。何が入っているのか分からなかったが、それは少し大きくて重い。
「お前の誕生日に渡そうと思ってた。俺からのプレゼントだ。」
「シャンクス...。」
「海に出たら、開けるんだぞ。じゃあな!しっかりやれよ!!でも忘れるな、俺達は家族だ。お前が困っていたら、いつでも俺たちが助けるから。」
「「そうだぞ!!!!」」
シャンクスの後ろから聞こえてきた大きな声。そして現れる船員、みんなの姿。
中には泣いている者もいて、その光景は名前をまた涙ぐませた。
「みんな...。」
「「元気にやれよ!!」」
「ありがとうっ!」
名前はシャンクスにもらったプレゼントを抱きしめながら、赤髪海賊団の姿が見えなくなるまでありがとうと叫び続けた。
ペンギンとシャチはと言うと、その別れに感動したのか、見るに堪えないほど汚い顔で涙を流している。
その後ろでは、同じように涙ぐむハート海賊団船員達の姿があった。
「なんで皆が泣いてるのよ。」
「だって...。なァ!!」
「っ、そうだよ。泣くなっていうほうが無理だ。」
「ふふ...ねぇ、ペンギン、シャチ。それにみんな。ただいまっ!!」
*
「お頭、名前行っちゃいましたね。」
「.......あァ。」
太陽も沈み、レッドフォース号の甲板に用意された名前の誕生日を祝う料理や、酒が寂しく月明かりで照らされている。
名前が乗った船が見えなくなっても、海を見つめるシャンクスを心配した船員達が声をかけた。
(やっぱり相当ショック受けてるぞ?)
(お頭は名前のこと、本気で好きだったみたいだからな。)
(うう...お頭ァ。俺も悲しいぜ!)
だが、そんな船員とは正反対にシャンクスは笑顔を見せた。
「どうしてお前ら、悲しそうに泣いているんだ?」
「えっ!?」
「今から飲むぞっ!今日ほどめでたいことはないさ。名前の旅立ち祝いだ!!!!」
「お頭...あんたって人は。」
「ほら、飲め!なっ」
シャンクスは酒を口に含んだ後、もう一度だけ海を見つめた。
名前。
俺はお前の幸せを願っているからな。
頑張れよ。
*
そして次の日。
名前はシャンクスのくれた包み紙の前に座った。
「なんだろう?」
シャンクスからの誕生日プレゼント。本当ならば昨日のうちに開けたかったが、ローがそれを許してくれなかった。
2年ぶりの再会なのだ。
久しぶりに会ったお互いを愛し合っている大人の男と女がやることと言えば一つ。
寝不足のせいで出るあくびを手で押さえ隠しながら、名前はその包み紙に手を伸ばした。
クシャ...と音をたてながら、その包み紙が開けられる。
「これって...!」
その包み紙の中から現れたもの。それは純白の布で、できていた。光沢のあるそれはキラキラと光を反射する。
名前は着ていた服を脱ぎ捨て、それに手を通した。
(シャンクス...。)
名前はローが迎えに来るから、昨日のシャンクスはいつもと違ってどこか変だったんだ、と思っていた。
でも、このプレゼントを見たことでその考えは間違いだったんだと気付く。
きっと彼はあの日、私を船から降ろすと心に決めていたのだ。だから前もって、このプレゼントを用意していたのだろう。
まるでウエディングドレスのような純白の白のドレスを。
名前が袖を通し終わった頃、コンコンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。
「入るぞ。」
その声の持ち主はローだった。
「......!?」
ドアを開けたローは、純白のドレスに身を包んだ名前を見てその場に立ち尽くした。
何かを言いたそうにしているが、名前に見惚れているのか、珍しく言葉に詰まった様子だった。
ローの疑問を察した名前が口を開く。
「シャンクスがね、最後にくれたの。」
「..........。」
「何か言ってよ、似合わない?」
ローは黙って名前に近づく。そして無言のまま、抱きしめキスを落とした。
「似合ってる...。」
それはあまりにも小さな声だったた、名前が、えっ?と聞き返す。
「綺麗だって言ったんだ...。」
それを聞いた名前が、すぐさまローの顔を見上げた。だが、すぐにローの手によって、目を覆われてしまう。
「ちょっと、ロー!?」
「うるせェ、でかい声を出すな。」
「前が見えないじゃない!」
「見なくていい。」
だが、名前には視界が暗くなる前に一瞬だけ見えていた。真っ赤に頬を赤らめるローの顔が。
「...くそ。もう絶対離さねェ。」
ローは名前にも聞こえないような、小さな声で呟く。そしてこれでもか、というくらい力強く名前を抱きしめてこう言った。
「名前、愛してる。」
Fin.