<体温>

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「何を言っている...?」

「名前をお前に任す、そう言ってるんだ。」

シャンクスは笑う。そこへ名前が駆け寄ってきた。

「ロー!シャンクス...っ!」

シャンクスは立ち上がりながら、鞘に刀をしまう。そしてマントについた砂を払いのけると名前を見て、また笑った。

それは悲しさと隠すための必死の抵抗。

「名前、お前は今日で船を降りろ。」

「えっ...!」

「パパの言うことが聞けないのか?」

「シャンクス...。」

もうこれ以上、二人の間に言葉はいらなかった。
船を降りろ、それがシャンクスの最後の船長命令。

「...っ、はい!」

名前は涙ぐみながら返事をした。

去りゆく大好きな男の背中をずっと見つめる。たくさんの仲間の命を背負いながら、幾千の戦いを乗り越えてきた大きな大きな背中。

シャンクスはずっと優しく守っていてくれて、時には海の厳しさも教えてくれた。
だが、それも今日で最後だ。

同じ船に乗り、同じ空間を過ごした。一緒に笑った日々も、喧嘩した日々も辛い訓練の日々も全部思い出に変わる。
そう思うと涙が溢れずにはいられなかった。

「あとで荷物取りに来いよ!」

シャンクスは振り返ることなく、自身の船へと向かう。
そんな彼の瞳も潤んでいた。

今日という日をずっと覚悟していたことだが、やはり別れというものは辛い。

(名前、幸せになれよ。)

「シャンクスっ!!!!」

自分を呼び止める名前の声に、シャンクスの足が止まる。

「シャンクス...船長。12年...っ、本当に...本当にっ、お世話になりました...っ!!!!」

「名前...。」

「この恩は...、絶対に忘れません。ありがとうございましたっ!!!!」

シャンクスは今にも涙がこぼれ落ちそうなのを必死に隠し、名前のほうに振り返る。
そして精一杯の笑顔を見せて言った。

「俺たちは家族だろ!!」

だから船長だとか、恩だとかそんな風に感じる必要は無いんだ。
船を降りても、家族だということに変わりはない。いつでも名前が必要とするなら、俺は守ってやるから。

そしてシャンクスはまた前を向いて、砂浜を歩き出す。その目からは誰にも知られることも無く、涙が頬を伝い落ちていた。

名前はそっと呟く。

「シャンクス...ありがとう。」





「名前?」

優しく自分の名を呼ぶ声に、名前は振り向く。
涙で潤んだその真っ直ぐな瞳に、引き込まれるようにローは名前を抱き寄せた。

お互いの吐息が顔にかかりそうな距離に名前の心が高ぶる。ローの瞳はただじっと名前を見つめて離さない。

「ロー、私...。」

「黙ってろ。」

その先に続く言葉を遮るように落とされた優しいキス。名前を抱きしめる力が強くなる。

「愛してる。」

耳元で囁かれたそれは、さらに名前の心を燻った。そしてローは噛み吐くようなキスを名前に落とす。

まるで会えなかった2年間を埋めるように激しく。自分の存在を名前が嫌でも感じるように、舌を絡ませる。
それによって生じた湿った音と、互いの吐息が混ざり合う。

甘い時間。

「ハァ...ん...っ。」

「名前。」

「っ、....ロー。」

二人は何度も名前を呼び合った。繰り返されるローの激しく甘いキスは、名前の身体にその存在を刻んでいく。

「ずっと会いたかった。ロー大好き。大好きだよ。」

「...もう何も言うな。」

そう呟いたローの瞳は、名前を真っ直ぐ見つめていた。

優しく微笑むロー。その顔は名前から言葉を奪い去る。そして、心までも。

(その顔、ずるいよ...。)

二人はその後、しばらく抱き合った。
何も言葉はいらない。ただ傍にいて、お互いの体温を感じる。
それだけで良かった。





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