<再会の時>
「な、何これ...。」
息を切らした名前の目の前に広がる何もない空間。思わず後ろを振り返る。
そこには確かに、青々とした木が生い茂っていて。
「森よね?」
もう一度前を見る。広がる根本だけが残った木。切り口はどれを見ても、綺麗に真っ二つ。先程の音は気のせいでは無くこれか、と名前は納得する。
「誰がこんな...。」
港にはシャンクスがいる。
しかし、彼はこんな風に自然を荒らすことは決してしない。だとしたら、別の誰か。
普通の海賊なら、恐れて決して近づかないことを考えるとこんなことをできるのは、名前の知る限りただ一人。
“トラファルガー・ロー”
「まさか、嘘...。そんな...っ。」
はやる気持ちを抑え、名前は走りだす。赤い太陽光が地平線に消えていくのが見えた。
その光景が近づくにつれ、砂浜に人影らしきものが浮かぶ。人影の数は2つ。
それを見た名前の心は、気分が悪くなりそうなくらい激しく脈を打ち始める。
(そこにいるのはローなの!?)
砂浜までもう少しといった時、一つの影が宙を舞った。
「ローッ!!!!!」
*
(...気のせいか?今、名前が俺を呼んだような。)
先程の勢いで、地面に叩きつけられたローは仰向けになっていた。起き上がろうとしたとき、あの姿が目にはいる。
「......名前。」
息を切らし、目を見開いた名前。
少し伸びた髪。見ない間に大人の女になった名前に、ローは言葉を失う。
「ロー...っ!」
名前の目から涙がこぼれた。
「どうしてここに?」
「お前を迎えに来た。」
そう言って笑みを浮かべる。
その笑みは以前と変わらない彼そのもので。
ずっと会いたくて、優しく抱きしめられたかった。
“大好き。”
この2年間押し殺していた思いが、止めどなく溢れ出す。言葉を交わす間も無く、名前はローの胸の中に飛び込んでいた。
「ッ、ロー...ろぉ...。」
音もなく砂の上に落ちた鬼哭。ローは優しく名前の背中に手を回す。
「泣くなよ。」
「だ、だって...。だって...。」
「分かったから。」
優しく甘い声が耳元で囁かれる。髪をなでる手が温かい。こうしてまたローの腕に包まれることを、どれだけ願っただろう?
(名前、やっと会えた...。)
ローもまた名前に会うのを心から願っていた。
決して望んで、あの時別れたわけではないのだから。
二年前――――
「認めろ。ロー、お前は弱い。」
「クッ。」
「名前から手を引け。」
「だ、だれが...。」
「名前が欲しかったら、俺から力尽くで奪うんだな。」
「...........。」
「本当に名前のことを思うなら、あいつを守れるように力をつけろ。強くなってみせろ!!」
「...2年だ。2年後の名前の誕生日。俺はその日、名前を奪う。」
そして今日、その約束の日。
名前を抱きしめるローの顔は、とても穏やかだった。
「ずっと待たせて悪かった。」
「忘れられたかと思ってた...。」
「忘れるわけないだろう。言っただろ、お前は俺のものだと。誰にも渡さねェよ。」
「ロー...。」
名前の目にたまった涙を、ローは指でそっと拭いとる。そして名前の肩に手をおいた。
「もう少し待っててくれ。俺には、やるべきことがある。」
そう言ってローは鬼哭を手に取ると、名前の前に立ち上がった。
ローの視線の先。
それは、シャンクスだった。
(まさかシャンクスと戦って...?)
「シャンクス!どうしてこんなっ!」
「名前は黙ってろ。これは男と男の約束なんだ。」
あまりの気迫に名前は、言い返すことができなかった。
シャンクスの表情がいつもと違う。こんな表情を見ることはなかなかできない。それだけシャンクスが本気だということが感じられた。
「後ろに下がってろ、名前。まだまだ、これからだ。勝負は終わっていない。そうだろう?ロー。」
「当たり前だ。」