<それぞれの想い>
ハート海賊団の船はこの日、朝から騒がしかった。
「船長っ!これ見て下さいよっ!」
「凄いんだよっ!」
「あァ?なんだ、うるせェ...。」
朝一番。ローの部屋にいつもの3人が、新聞を持ちながら乗り込んできた。
いつもなら寝起きの悪いローを恐れ、近寄らない彼らもこの日は違う。
「ほら、これ!」
シャチが差し出した新聞の一面と、賞金首リストの紙。ローの動きが止まる。
「億ですよ!?億!あー名前ちゃんに会いたいなぁ。」
「キャプテンてば勝手に「おい。」」
ローの表情を察してか、はしゃぐシャチとベポをペンギンが止めに入った。
「お前らちょっと戻れ。まだ仕事残っていただろ。」
「え?いいじゃんか!後で...」
「いいから。」
シャチとベポが向き合う。二人の意見は一致したようだ。
「ちぇー。今度プリン奢れよ。」
しぶしぶながら二人が部屋を出て行くと、ペンギンはローに話しかけた。
「本当に良かったんですか?」
「何がだ。」
「名前ちゃんのことですよ。あの時、貴方の能力なら、無理に連れて帰ることもできたのに。」
「今の俺に赤髪程の力が無いのは事実に変わりはない。」
「だからって諦めるんですか!?船長は好きなんでしょうっ!それに、皆別れの挨拶くらいしたかったって言ってましたよ。それは...俺もですけど。」
船長の名前ちゃんを見つめる目は、いつも優しくて、見たことのない表情で...
二人はお似合いだと思ってた。
名前ちゃんが赤髪の元に返ってからは、船長はいつもどこか不機嫌で楽しそうじゃない。
不満をぶつけるかのように、以前よりも残虐に敵を倒していく。
懸賞金も上がり、それゆえに船長の首を狙う奴らとの戦闘に明け暮れる日々。そしてまた懸賞金があがる。
その繰り返しだった。
こんな船長は見たくない、ペンギンの言葉に力が入る。
「誰が諦めたと言った?」
「えっ。じゃあ、船長は...。」
「また船に乗せるやつに、別れの挨拶はいらないだろ。」
「船長...。」
「分かったらお前もさっさと持ち場に戻れ。」
あぁ、良かった。荒れているように見えていたが、船長なりの考えがあるらしい。
何よりも名前ちゃんのことを諦めていない、その気持ちがペンギンはとても嬉しかった。
「はい!失礼しました!」
この上ない笑顔でキリのよい返事をし、ペンギンは笑顔で駆けて行く。馬鹿か、とローは呟いたが悪い気はしなかった。
「名前。」
賞金首になるなんて、と小さな苛立ちを覚える。ただでさえ、その力は人を惹きつけるに違い無いのに。
「目立ってどうするんだ。」
もっと力がいる。
守ることのできる力が。
ローのリストを持つ手に力が入った。つい最近のことなのにこの顔を見たのが随分、前のことに思われる。
寂しい、というのだろうか。
今まで感じたことのないような感情が、胸にあるのを感じた。
あれだけ冷たくしたにも関わらず、名前の耳に未だ輝くピアスに想いを馳せる。
まだ自分のことを想ってくれている、そんなメッセージなのだろうか。
*
一方、レッドフォース号ではーーー。
今にも寝ようとしている名前に起きてるか?と聞く声。
その声の持ち主はシャンクスだ。
「起きてるよ?もう寝ようと思ってたけど...。」
「朝は悪かった。つい見惚れて何も言えなかった。」
「シャンクス...。」
シャンクスは名前の横に腰掛け、そっと頭を撫でた。
「今の俺は名前が強くなることは、いいんじゃないかと思ってる。昨日の戦闘を見ても、今の実力なら新世界にも通用する。だけどな?」
「何かひっかかるの?」
「やっぱりお前に血は似合わねェ。昨日のことで、そう思った。俺はこの綺麗な手を汚したくない。」
「それって...。」
「今まで通り特訓はしてやる。でも、お前のその力は傷つけるんじゃ無くて、誰かを守るために使うんだ。汚い仕事は俺がやるから。つまり、なんて言いたいかというとだな...。」
そう言いながらシャンクスは口篭る。
言いたいことがあるのに、言葉にならない。上手く伝えることができない。
それでも彼は必死に言葉を紡ぐ。
「俺は名前のことが好きだった。だけど、王から預かった身だし、父親にならないとと思ってた。でもそれは本当は、名前と向き合うのが怖かっただけなんだ。
名前がいなくなって、どうしようかと本当に悩んだ。
あの時受け入れなかったことを、とても後悔もしたんだ。それから、悩んで悩んで向き合おうと決めた。
でも少し、遅かったみたいだな。」
シャンクスは名前のピアスを、とても悲しそうな目で見つめた。
それに気付いた名前が、シャンクスの名を呼ぼうと口を開けると視界が突然ぐらついた。
寝ていた名前の身体は、手を引き寄せられた衝撃で起き上がり、背中に回されたシャンクスの腕は苦しいほど強く抱きしめている。
「お前は賞金首になった。命を狙われる機会も増える。名前の心に俺はいないかもしれない。だけど、俺が守ってやる。」
「ずるいよ、今言うなんて...。」
「すまない。だけど、お前が大切なんだ。愛してる。」