<海賊と海兵>

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「フハハッ、助かったぜ。」

歯を剥き出して笑う姿が、不愉快極まりない。

「約束だ。」

トンっと少女を前に押し出した。ろくに食事も取らせてもらえていないのだろう。痩せこけて骨が見えている姿が、とても痛々しい。
名前はそっと手を伸ばす。

「おいで。」

「お姉ちゃ...「おおっと!!」」

「「なっ!!」」

シャンクスと名前は思わず声を漏らした。敵の船長が船の外へ、その少女を突き飛ばしたのだ。
名前が覗きこんだ時には、もう遅かった。ザブン!という大きな音と共に、少女が海に落ちた。

「俺たちは海賊だぜ?約束なんて守るわけないだろう。フッ、ハハハハ!!」

「下衆が。」

「ハハハハ.......ぅぐっ!?」

名前の投げた剣が、船長の心臓に突き刺さる。
男は小さな呻き声を漏らし、その場にドサっと倒れるとすぐに動かなくなった。

「「船長!?」」

下っ端の男たちは何が起こったのか、状況を受け入れれていないようだ。
ザワザワとざわめく。

「シャンクス、あとは頼んだから!」

「お、おい。名前!?」

名前は躊躇無く、海へ飛び込む。
シャンクスもそれに驚いた顔をしたが、残りの処理を任された立場だ。覇気を剥き出しにし剣を鞘から抜くことなく一人残らず、彼らを気絶させた。

「名前!?大丈夫かっ?」

海の中へ落ちた2人のことが気になる。
船の産んだ海流に飲まれたら...そう考えると、怖かった。
が、それを打ち消すようにシャンクスー!と呼ぶ声が聞こえる。声のほうを見ると少女を抱いた名前がいた。

「私、今からこの子を海軍に渡してこようと思う。彼らならなんとかしてくれるでしょ?」

「なら、船で...」

「遅いからいいよ。」

「遅い...?」

名前の言っている意味が分からなかった。しかし、名前はとてつもない速さで海軍の船へと泳いでいく。

「まさかっ!」

シャンクスの頭にレイリーの言葉が過る。本当に?と少し疑いたくなるが、それしか考えることができなかった。

シャンクスは視線を変えて倒れた男を見る。
綺麗に心臓に刺さった剣。そこから、名前の技量が伺えた。

名前に剣を返すためにシャンクスがそれを引き抜くと、赤い血が勢いよく噴き出した。

「本当にこれでいいのか...?」

シャンクスの心が揺らぐ。あんなに心優しい名前に血は似合わない。
強くなりたいという意思を尊重したが、それとこれとは違う気がした。





倒れた下っ端の男たちを置き去りにし、シャンクスはレッドフォース号に戻り、名前が帰ってくるのを待つ。
いろんな考えが頭を巡るが、何一つ答えは見つからない。

「お頭、名前が帰ってきた!」

仲間の声がシャンクスの思考を止める。名前が帰ってくるのに、時間はそうかからなかった。

「無事だったか!?」

シャンクスは一目散に駆け寄った。そして、元気に手を振る名前を見て、安堵の表情を浮かべ、胸を撫で下ろしていた。

「うん、大丈夫だよー!」

「すぐに引き上げるっ!おい、誰か縄をっ!!」

さっと海へと投げられる縄。名前はそれを頼りに船の側面を登っていった。

濡れた長い髪が、どこか艶やかしい。服も身体に張り付いて、名前の身体のラインを強調させている。
船員達の鼻の下が伸びた。

「あの子は海軍が家族のところへ返してくれるんだって!あいつらも捕まえるらしいよ。さすがに海軍の船、一隻じゃ私たちには手が出せないって嘆いてた。.......って、あれ?どしたの?」

皆の反応があまり良くない。シャンクスの頬も、赤みを帯びているように見えた。

「ねぇ!シャンクス?」

「名前...。」

「ちゃんと私の話聞いてる?皆の反応もイマイチ良くないし。」

シャンクスは自分が鼻の下を伸ばしていることに気付いたようだった。他にも何か気付いたように周りを見渡す。
すると目に入るのは、同じように鼻の下を伸ばす船員達の顔だ。


「お前ら、見るなっ!!」

名前の後ろに立ちはだかり、彼らを睨み付けながら自分のマントで覆い隠した。

「お頭だけズリーっすよ!」

「俺の名前だ。そんな目で名前を見るな!!」

「お頭のもんじゃないでしょー!」

「いーや!俺のもんだっ!!」

「やれやれ、また始まった...。」

こうなったシャンクスは、ただのうるさい親父でしかない。船員たちは半ば呆れた表情で、自分たちの持ち場へと戻っていった。






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