<少女>
「許してくれ!俺たちはまだ死にたくねェ!」
「頼むからっ!」
「まだ海賊をやりてェんだ!」
そこから聞こえてきたのは、むさ苦しい男たちの声。必至に命乞いをする姿からは、この海賊がいかに小物かということが伺える。
「あなたが船長さん?」
名前が一番先頭に立つ、身体の大きな男に声を掛ける。身長は2メートルくらいだろうか。肉付きの良い身体だ。
腰に刀を2本挿している。
その男はシャンクスのことを横目でチラリと見ると、「あぁ。」とだけ答えた。
「悪いけど、貴方の命私がもらう。」
青い剣に手をかけた。チラリと見えた刃は青く、見る者の目を惹きつける。それを見た船長は声をあげて笑った。
「ハハハ、失礼。何の冗談を。俺の命をもらう?お前がか?」
「冗談じゃない、本気よ。シャンクスは手を出さない。」
「ハッ、信用できねェな。第一俺たちに戦う意思はねぇ。 だからこーやって白旗をだな...」
「降参しているとでも?」
「ああ、そうだ!許してくれ。まだ海賊をやりてぇ!」
「私たちは海賊。馬鹿言わないで。そんな願い聞くわけないでしょう?」
敵の目つきが変わった。と、同時に空気も少し重たくなった。
今にも戦いが始まってもおかしくないそんな雰囲気が漂っている。
「おいおい、こういうときは情をかけてやるもんだろ。」
「そんな必要は無いわ!シャンクスは後ろに下がってて。ここから先は私だけでやる。」
「おう、頑張れよ!」
シャンクスはそう言うと、後ろに下がり船の端のほうで腰を下ろし胡坐をかいた。その行動は敵の海賊たちを挑発する。
あちこちでカチャっと武器が整えられる音がした。
特に船長の男の眉間には皺がたくさん寄り、血管も浮いている。今にも暴れ出しそうな表情だ。
「お嬢ちゃん...あまり俺たちをなめてもらっちゃ困るんだよ。」
「それはこっちの台詞。女だからって甘く見ないで。」
「あの世で後悔するんだな。」
*
カチャンーーーッ。
一体、何が起こったのかシャンクス以外誰も分からなかった。
風が吹いたような一瞬の出来事だった。
あの後、男は剣を抜いて前で構え、今にも名前に襲いかかろうとしている。
タイミングを見計らいながら二人の間合いを詰めようとダッシュしようとしたとき、なぜか船が大きく傾いた。
そのために敵の船員たちは船長も含め大きくバランスを崩し、多くは尻もちをつくところだった。
そして今、船長の男の首もとに名前の剣がギラギラと光っている。
「甘くみないでと言ったでしょう?」
ツーっと赤い血が刃を滑るように下へと落ちていく。
「女ァ!一体何をした...!」
「別に何も、波を起こしただけよ。」
「波を?」
「これ以上言う必要は「おい!」」
突然、名前を呼び止める声がした。
何?と目線をそちらにやると、船内から一人の少女を連れてきた男がいた。
見たところ性奴隷といったところか。
今にもあそこが見えそうなくらいに、短いボロボロのワンピースを着ている。
首にナイフを突きつけられ恐怖に怯えたその顔は可愛らしい少女とは、程遠い。今まで静かにしていたシャンクスが動きだす。
「おい、その子を離せ!」
こういうことが1番嫌いな彼は怒りを必死に抑えた様子で、男に声をかける。
覇気を使っても良かったのだが、悪い奴らが目の前で倒れていくことで、少女により深い精神的ダメージを与えてしまうかもしれない。そう思うと踏み切れなかった。
男の手も緊張からか震えていたが、「船長を離せば離してやる」と名前のほうを見た。無言の駆け引きが続く。
「海軍だっ!!」
沈黙の世界を破った声だった。名前達も敵も辺りを見回す。
すると少し遠いところではあるが、肉眼で確認できる位置に確かに一隻、海軍の船が見えた。
海軍も馬鹿では無い。
一隻で赤髪に挑もうとはしないだろう。狙いは明らかに目の前の海賊、彼らだと言う事がはっきりと分かる。
「追いかけてきやがった...」
「あっ!」
下っ端らしい男の手に握られたナイフが、少女の首により強く触れた。とても怖いのだろう。彼女の目から涙がこぼれ落ちた。
「お姉ちゃん...助けて...」
「時間がねェ。早く決めろ!」
「分かったわ。こいつの命は諦める。その子と交換よ!早く離してあげて!」
「最初からそうすりゃいいんだ!余計な手間とらせやがって。お頭が先だァ...。へへ、俺は約束は守るぜ?」
明らかに疑わしい目だ。だが、少女のことを思うと男の指示に従うしかなかった。