<やってみろ>
青い空の下、地平線まで見渡せる海に、ぽつんと一隻の船が浮かんでいる。
目に三本のラインの入ったドクロが大きく描かれた旗が、バタバタと音を立てて風になびく。
ハァッ!ヤァッ!と高い女の声と一緒に、響く剣と剣のぶつかり合う音。それを煽る男たちの低い声。
それらはこの船の活気さを表していた。
「甘い!もっと脇をしめろ!」
「く.......っ!」
「すぐに剣を構え直せ!次の攻撃に間に合わないぞ。」
この稽古は、ここ最近毎日のように繰り広げられている。仲間の協力とシャンクスの指導によって、名前は着実に力をつけていった。
しかし、男と女では力の強さが違う。シャンクス達にも、その違いから指導出来ない部分があった。
「さっきの感じ、いいんじゃないか?もう一度やってみろ!」
(攻撃を受けないで流す...。)
「ヤァッ!!」
「よし、その感じだ!」
そんな中で名前が身に付けたのはまともに攻撃を受けるのでは無く、攻撃を受け流し相手の力を借りて反撃に出る攻撃の仕方だ。
水のように滑らかに、かつ相手を飲み込んでいく。海で産まれた名前にぴったりな方法。
何度も同じことを繰り返しながら、それを身体に覚えこませていく。
「......ッ、ハァハァ。」
「おい、名前。もう終わりか?まだまだこれか「お頭っ!」」
その時、見張り台の上にいる船員が大きな声を上げた。それに気付いたシャンクスと名前、練習を見ている男たちの目線が、一挙にそちらのほうに向けられる。
「3時の方向に海賊船が見える!」
「誰か分かるか?」
「あの旗は最近出てきた奴だな。確か賞金は8000万ベリー。」
シャンクスは名前のほうを見る。
息を切らしてはいるが、戦うだけの体力はあるだろう。それに、以前よりも実力はついた。相手もそこそこの額だが、ここいらで試してみるのも悪くない。
「よし、名前!俺が見ていてやる。お前一人であいつら相手にどこまでやれるか、やってみろ。」
「「お頭っ!?」」
皆が驚いた表情をする。
それもそのはずだ。今までのシャンクスからは、考えられないような発言。
“危ないから、後ろでじっとしてろ。”それがいつもの口癖だった。
「いいのか、お頭!相手の強さも未知数だぞっ!!」
「俺がついているんだ。それに名前も十分強い。なっ!」
「シャンクス...」
剣を腰におさめたシャンクスは、名前の背を大きく叩く。
力強いその感触に自分を認めてくれているような、そんな気がして名前は嬉しくなった。
「相手の船に乗り込む!船を近付けろ。」
*
相手の海賊は真っ直ぐ進んでくる。シャンクス達の船に逃げられないと悟ったのか、進路を変えようとはしなかった。
「怖いか?」
「うーん...怖くはないかな。なんていうか、不思議な気分。」
「ハハ、なんだそりゃ。」
「どこまで自分の力が通用するか、心配なところはあるんだけど...シャンクスと戦えることが嬉しいの。」
ふわりとシャンクスの手が名前の頭部へのせられる。
「あまり無理をするなよ。」
小さな海賊船に大型船のレッド・フォース号が追いつくのも、時間の問題だった。敵はもうすぐそこに見えている。
が、おかしなことに大砲すら敵は打ってこない。
「戦意無しか...?」
「どうする?シャンクス。」
シャンクスは難しい顔をしていた。ずる賢い海賊ならば、降参したふりをして反撃に出てくるそんなこともあるからだ。
だが、相手は少額だ。
名前に任せても大丈夫か、とシャンクスは答えを変えなかった。
「首を取りに行く。油断は決してするなよ。」
「分かった。」
特に動きの無いまま、船は敵船と横並びになった。
上から覗きこむと、船員達全員だろうか。両手を手に上げて、1人の男が白い旗をあげていた。
「行くぞ。」
シャンクスはそれに気付いていたが、名前の実力を試すことが今回の目的だ。
相手も海賊。白い旗を挙げたからと言って見逃してもらえるほど、この世界は甘くないことを知っているだろう。
シャンクスと名前の二人は、静かに相手の船の甲板に着地すると、船長らしき男のほうへ歩いて行った。