<ずっと会ってみたかった>
「くそ!取り押さえろ!!」
「無茶いうな!」
「傷口か広がったら!!」
(ん...朝から騒がしい...。)
外から聞こえる大きな声に目を覚ます。いつものように起き上がると、下腹部にズキっと痛みが走った。
(そうだった...。)
昨日の夜はローと...。あのときのローの言った言葉は、ただの聞き間違いだったのだろうか。記憶が飛んで曖昧だ。
軽い痛みに耐えつつ、身支度を整えた名前は外の様子を見るために甲板へ向かった。
「どうしたのっ!?」
森の入口で倒れている船員達を発見。ひどい怪我はしていないようだが、殴られた跡が目立つ。
「麦わらが、暴れ出して...。」
「また傷口が開いたらヤバいって言うのにあいつ、聞かなくて。」
「森の奥に行ったの?」
「ああ、でも名前ちゃんは行かないほうが...って、あぁ!!」
*
「すぐ会いてェ......。」
あいつらに会い゛てェよォォォ!!!
麦わらのものと思われる声が、森の中に響き渡る。その声を頼りにたどり着くと、そこにはルフィとジンベエがいた。
「麦わらのルフィね?」
「なんじゃ名前、来たのか。」
「ジンベエ。もしよかったら、私と彼を二人きりにさせてくれない?」
お願い!と名前は、顔の前で両手を合わす。
「よかろう。森の外で待っておく。」
ジンベエが席を外すと、名前はルフィの横に腰を下ろした。
「誰だ、おめェ...。」
ルフィは弱弱しい声で言った。
「初めまして、私は名前。赤髪海賊団の船員よ。今はローの船に乗ってるけど。」
「赤髪って...。」
「そ、シャンクス。」
目を丸くして驚くルフィに、名前は優しい笑顔を向けた。
「シャンクスから貴方のこといろいろ聞いたよ?だから一度会ってみたかった。」
「シャンクスが俺のことを?」
「うん。面白い子だってね。本当に嬉しそうに話してたんだよ。」
「そっかー...。シャンクスにも会いてェな。」
名前は頂上決戦のときのことをルフィが傷つかないように、できるだけエースのことには触れずに、シャンクスが戦争を止めたことを話した。
ルフィは最初ただ驚くだけだったが、名前とのシャンクスの話に花が咲いたことも有り、時々笑顔が漏れた。
*
「そろそろ戻ろう?きっと皆が心配してる。」
「...あぁ。そうだな。」
二人が森を抜けると、そこにはレイリ―とジンベエ、ハートの海賊団が船に乗って待っていた。
ローの顔が怒っているようにも見えるが、気にせずに声をかける。
「ただいま。」
「遅い。」
「ごめんね?」
そう言いながら名前はローの船に乗り込む。
「おい、麦わら屋!俺達はもう行く。あと2週間安静を続けろ!じゃねェと、死ぬぞ。」
「ああ!分かった!!トラ男、ありがとう!」
ルフィはニカっと笑う。手配書通りのその笑顔に、少しだけ安心感が得られた。この男もまたきっと強くなる。
「船を出せ!」
ローの一言でハートの海賊団は、再び海へと帰っていく。
じゃあなー!ありがとうー!と麦わらのルフィが大きく叫んでいるのが聞こえた。
「Dはまた必ず嵐を呼ぶ...」
意味深な言葉を残し、ローは小さく笑った。
*
女ヶ島を離れて、航海も落ち着いた数日後
「確かめたいことがある。こっちへ来い」
「何?急に...」
連れてこられたのは甲板。そこにはペンギンが真剣な顔付きで立っていた。
「名前、使え。」
そうやってローから手渡されたのは一本の剣だ。名前は訳が分からないといった表情を見せた。
「今からペンギンと戦ってもらう。」
「え、なんでっ!」
「なんでもだ」
「船長。ほんとにやるんですか?名前ちゃん、剣使えるの?」
「ごちゃごちゃ言うな。フフ、万が一怪我しても治してやるよ。」
ペンギンがゴクリと唾を飲み込んだ。相手は剣が使えるかも分からない、ただの女の子だ。
今朝、ローから名前と戦え、と言われたものの未だその意図も掴めない。
(ローの確かめたいことって...。)
名前には大体検討が付いていた。この状況に置かれては、もう覚悟を決めるしかない。剣を身体の前に構える。
「ペンギン、手加減しないで。」
「名前ちゃん...?」
ペンギンも決して弱くは無い。名前が剣を構えた姿から、只者じゃないことくらい感じられた。
「行くよ!」
名前は華奢な身体を活かし、スピードと柔軟さで攻め込んでいく。剣と剣がぶつかり合う、甲高い冷たい音が響いた。
ペンギンは名前からの攻撃を受け流すので、精一杯だ。このままでは名前の勝ちだろう。
「ごめん、ペンギン!」
名前の速さが増し、戸惑ったペンギンの剣に向かって剣を下から振り上げた。
「.......痛っ」
その攻撃の重みに思わずペンギンは声をあげる。そしてペンギンの手から離れた剣が宙を舞った。
あ!とペンギンが目線を奪われた時にはペンギンの足を、名前が払いのけた。
バランスを崩した彼は、さらに名前に肩を押されて仰向けに転んでしまう。
「ハァハァ、勝負あったね。」
剣の先をペンギンの喉元に当てる。
「.......強い。俺の負けだ。」
「やはりな。」
今まで何も言わなかったローが、声を発した。名前のほうをじっと見つめる。
「名前は赤髪海賊団、その船員に間違いねェな?」
「なっ!船長、何言って!」
「ペンギン、お前は黙ってろ。どうなんだ?名前。」