<シャンクスSide>
泣いたっていいんだ…!乗り越えろ!!
「お前達、行くぞ。」
船の階段を一段一段と上がる、その足取りは重い。
白ひげとエースの弔いも済み、道がそれたが早く名前を探さなければならない。
手掛かりは無かった。
部屋に置かれた剣と荷物は、ずっと持ち主に触られることなく、ひっそりと置かれている。
時代が動いても、この海に吹く風は何一つ変わらない。空も太陽も月も同様だ。
「お頭、ちょっといいか?」
「なんだ?」
ベックマンがシャンクスを呼ぶ。ここじゃダメだ、と親指を背後の船長室へと向ける。
*
「酒、飲むか?」
シャンクスはベッドに腰を落とすと、そのすぐ脇に置いてあった酒に手を伸ばす。
(全くこの人は…。)
名前がいなくなってから、飲む酒の量がますます増えた。今じゃ寝酒が習慣らしい。
ベッド周りには、たくさんの空き瓶が転がっている。
「お頭、少しは綺麗に…。」
「あーいいんだ。どうせ俺だけの部屋だ。」
名前がいなくなる前までは、この部屋も綺麗だった。シャンクスが毎日名前のために掃除をしていたことを、ベックマンは知っている。
「それより、なんだ?話って。」
ゴクゴクと酒がシャンクスの喉を、音を立てて流れていく。平然を装ってはいたが、今回の戦いはシャンクスの心にも、深い思いを抱かせていることがその様子から伺えた。
「頂上決戦。俺はあの時、名前を見た。」
「なっ!!ブフッ…ゴホッ、ゴホ!」
シャンクスは口に含んでいた酒のほとんどを、吐き出してしまった。気管に入ったようで、勢いよくむせこんでいる。
「ゴホッ!ケホッ、ゴホッ!!」
「大丈夫か?」
「コホ、それよりっ!!どういうことだ!?詳しく話せ!」
ベックマンはシャンクスに、あの時のことを詳しく話した。
「ルフィがバギーによって、トラファルガー・ローの船に乗った時そこに名前がいたんだ。」
「何?」
「見間違いなんかじゃねェ。ベン!と俺を呼んだ。」
「レイリーさんの話は本当だったのか。」
シャンクスはハーっと大きなため息と共に、ベッドの上に倒れ込む。しばらく反応のないシャンクスを心配したベックマンは、お頭?と声をかけた。
すると彼はムクっと起き上がると、満面の笑みを見せる。
「よかった!本当に良かった。名前は無事なんだな!!」
「あんたって人は...。」
怒ってしまったのかと思ったが、まさかここで笑うとは。
名前が元気なら、いる場所は関係ないということか。いいのか、それで。
(まぁ、だから好きなんだけども...。)
「だが今やトラファルガーと言えば残忍だ、と言われているが?」
「ハハ、大丈夫だ。」
「なっ!何を根拠に。」
「なんでもさ。」
ベックマンにはシャンクスのこの余裕さが、理解できなかった。
ルフィのこともあるからか?それにしてはあまりにも簡単に、彼のことを信用しすぎな気もする。
あの時と今は違う。
「とりあえず行くか。」
シャンクスが起き上がり、ドアノブに手をかける。
「どこに?」
「決まってるだろ。ハートの海賊団の船だ。」
目的の場所が決まったとなると、話は早い。赤髪海賊団の力を持てば、海賊団の一つや二つ見つけることはそう難しいことではない。
シャンクスは扉を開けて、大空へ叫ぶ。
「おい!野郎どもー!!名前の居場所が分かったぞ。」
「「ほんとか!?お頭!!」」
「目標はハート海賊団。北の海のルーキー!トラファルガー・ローの船だ!!」