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(寒.........。)

冷たい風に晒されながら、薄手のコートに身を包みメモに書かれた通りに***は公園でローを待った。

まさか誕生日を覚えてくれてる?

そんな期待を抱かずにはいられない。ハートビル前の公園はデートスポットとしても有名だからだ。
もうすぐ公園の時計は18時。







18時ちょうど。***は辺りを見回した。しかしどこを見ても、ローらしき人物はいなかった。

(手術でも入ったのかな...。)

ローは外科医だ。急患が運ばれてくると、帰宅などできる場合ではない。そういうことはよくあるんだと、ローは講義中にも言っていた。

***は近くのベンチに腰かける。冷たい風が身体に沁みて、冬の訪れを痛いほど感じていた。

「遅いなー。」

思わず声が漏れる。1時間2時間とただひたすら“悪い、待たせた”と走ってくる姿を想像しながら待っていた。
何の気なしに、公園の入口を見つめる。

「...........。」

その時、見えたもの。それはあまりにも残酷で、***の心を勢いよく引き裂いた。
ブランド物に身を包んだ華やかな美しい女性。その女性と腕を組み歩くローの姿。

「な...んで.......。」

ツーっと一筋の涙が頬を伝う。しかし、次の瞬間***の目からは大粒の涙が止まることを知らないほど、勢いよく流れだした。

「........っ。」

声を出して泣きたい衝動に耐え、必至で口を手で覆う。漏れでそうな嗚咽を我慢し、***は下を向いた。
真っ白なスカートに落ちた涙は黒い染みを残していく。

(化粧が落ちてるんだ...。)

必死に***は、ローと関係の無いことを考える。だが突きつけられた現実に、***はその場で涙を流し続けた。

(何これ。わざわざこれを見せつけるために、こんな...?先生を諦めろってこと?)

「分からない...もう、分からないよっ!!!!」





次の週、***は学校を休んだ。単位がどうとか、レポートがどうとかそんなことはどうでもよかった。
とにかく顔を見たくなかった。

時計を見るとちょうど講義の時間だ。

(先生は私が休んでいてもどうでもいいんだろうな...。)

そもそも一生徒の自分が先生の雑用係になれるなんて、運が良かっただけなんだ。仲良くなったなんて、自分の勘違いだったのだろう。
先生の中では、ただの教師と生徒。その関係にすぎなかった。

「う......っ。」

再び涙が溢れだす。あの出来事から1週間。毎日毎日、目が腫れるほど泣いた。もう泣けなくなるんじゃないかと、そう思うくらい。

ブブブブブ―――ッ

突如鳴り響いた携帯のバイブ。ディスプレイを見ると知らない番号だった。

(消そ...。)

***は涙を拭いながら、受話器のボタンを押した。そして、枕もとに携帯を投げて、ふわふわの枕に顔を埋める。
お気に入りのコロンの香りに包まれリラックスしてきているのか、身体の筋肉が緩んでいく。

「***か?」

ローによく似た声さえ聞こえる。幻聴が聞こえだした、なんてことを***は考えていたがそれにしては何度も聞こえる。
ふと携帯の画面を覗くと、通話中となっていた。

「***?」

自分を呼ぶ声。まさか、と何度も画面を見直したがやはり通話中。だが、先生の声を思われる声は、明らかにそこから聞こえていた。

意を決して、***は携帯を耳に当てる。

「はい。」

「おせェよ。」

「先生...?どうして私の番号...。って言うか授業中じゃ...っ!」

声が上ずる。でも聞きたいことがたくさんありすぎて、そんなことはどうでもよかった。

「ククっ。」

「笑ってるの?先生。」

「お前のことなら何でも知ってる。」

「なんの冗談...「今。」

「今、お前のマンションの下にいる。3分以内に降りてこい。じゃあな。」

「なっ!!」

ガチャっと一方的に切られた電話。お前のマンションの下にいる、そんなことどう信じたらいいのだろう。
住んでる場所なんて一度も話したことがない。携帯の番号も...。

“お前のことなら何でも知ってる”

意味が分からない。でも、***には悩む必要なかった。頭で考えるよりも先に、身体が動いていた。





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