自覚してないホモな三人組と暑さ対策



「あつい……」

 八月中旬。高校生にとって、ある意味一番の大イベントである夏休みも、後半に入った。短い一生にも関わらず、運命の相手を見つけるべく鳴き続けるあの虫が、特に騒がしくなってきた頃。当たり前のように宮地の家には、伊月、森山、そして家主の宮地が集まっていた。
 三人はリビングの机を囲み、揃って机に突っ伏したまましばらく沈黙を保った。
 机が冷たくて気持ちいい。
 もちろん、そんな感想を抱いていられたのも、机に顔を触れさせて、最初の二分程度。徐々にあの三文字が心の中を支配してきた。口に出してしまえば、さらに膨れ上がるだろうその感覚から目を逸らすために、三人は口を閉ざし続けていた。
 しかし、堪えられなかったのだろう、ついに森山がポロリ、とその三文字を口にしてしまったのだ。――――……「あつい」、と。


「おいコラ森山ぁ……お前が『暑い』とか言ったせいで余計暑くなっただろうがどうしてくれる」
「言っても言わなくても気温なんて変わんないよ暑いもんは暑いの!!」
「そうか、そんなに暑さを紛らわしたいなら……お前のすることは一つ、だよな?」
「いーやーだー」
 森山の一言により一気に騒がしくなった部屋の中。伊月は机から顔をゆっくりとあげて、二人の様子をぼんやりと眺める。
 二人ともこんなに暑いのによく大声出せるなぁ……。
 そう思って再び顔を伏せるが、やはり止むことのない二人の声。
「いやだ、じゃねぇんだよ!!お前がやれよ!!」
「嫌だよ面倒だし!!つか、普通、宮地がやっておくもんだろ?!」
「はぁ?何で俺が」
「いや、だって宮地でしょ?!




 『スイカがあるから俺の家に食べに来い』ってメールしてきたのは!!!」





 ……そう、今、話の中心となっているものは、『スイカ』だ。
 森山の話の通り、伊月と森山は、宮地からのメールを見て宮地宅へと集合した。スイカを分けてくれる、という甘い誘いを、誰が断ろうというのか。しかし、宮地の家に着くと、そこに待っていたものは。
 一玉のスイカ。それがゴロン、と目の前に置かれていて。目を丸くしてそれを見つめる伊月と森山に向かって、宮地はなんてことのない風に言い放ったのだ。
 「お前らのどっちかが、このスイカ切れよ」と――――……。




「俺はお前らのどっちかが切るなら食べさせてやる、って意味でメールしたんだよ」
「そんな話どこにも書いてなかったけど?!」
「まぁ今初めて言ったからな」
「わー、さすが宮地君!!」

 伊月は二人の言い合いを聞きながら、手を伸ばし、未だ誰にも触れられず、机のど真ん中に寂しげに置かれたスイカの表面をするりと撫でた。
 目の前にあるのに食べられないなんて……おあずけ食らってる犬の気分だ……。
 別にスイカを切ったことがないわけではない。でも、既に切られた状態のものをすぐに頬張れると思って、暑い日差しの中、スイカだけを求めて宮地の家に来たこちらの身にもなってほしい。ダメージがでかい。

 うー、と唸って再び机に顔を引っ付ける。もうこのまま溶けちゃいそう……。ぼんやりとそんなことを考えていると、後頭部に何かが触れるのを感じた。
「伊月、大丈夫か?」
「あ、はい、一応……生きてます……ハッ、定期利用して生きる!キタコレ!」
「別に生存確認したんじゃねぇよここで死なれても困るわ。あとなにもきてない」
「あぅっ」
 キタコレ、の台詞と同時に顔を勢いよくあげると、突然おでこからパシン、といういい音が響いた。それと同時に微かな痛み。目の前を見ると手があって、その手を辿っていくと宮地がいた。どうやら宮地にでこぴんされたらしい。少し痛かったため、文句の一つでも言ってやろうと思ったが、続けて頭をぽんぽんと優しく撫でる手の動きが気持ちよくて、力が自然と抜ける。べちゃっ、と崩れるように顔を机につけた。

「……まぁ、伊月もこんな感じだし、スイカは森山が切るしかねぇな」
「え、何で俺一択?宮地は?宮地は切らないの?」
「森山さん……スイカ食べたいです……」
「伊月そんな甘えた声で俺の名前呼ばないで、スイカ切りたくなっちゃうでしょ!!」
 いや切りたいならぜひ切っていただきたいのですが。っていうか甘えた声ってなんですか。
 なんとなく解せなくて、頭を机につけたまま睨みつけたら「上目遣いしてお願いしたってダメだからね!」と顔を真っ赤にして言われてしまった。もう嫌だこの人訳わかんない。

「でもさ、スイカ食べるより確実に涼しくなる方法があると思うんだ!!」
 森山の言葉に、宮地は溜め息を吐いた。どうせたいしたことないのだろうと思っているようで、その表情は呆れたものとなっている。まぁそうですよね、森山さん滅多にまともなこと言いませんもんね。
 宮地が視線で続きを話すように促すと、森山はわざとらしく咳払いをした。

「冷房の設定温度を下げればいいんだよ!!」
「却下だ」

 森山がどや顔で言い切るのと同時に、宮地はその提案の受け入れを拒否した。……宮地さんのことだから、最初から森山さんの提案は受け入れない気満々だったんだろうけど。
「えー良いじゃんちょっと下げるくらいー」
「良くねぇよ、お前地球の気持ち考えたことあんのか?」
「地球の気持ち?いや別に……え、あ、地球温暖化的な意味で?あ、そういうこと?え、なんかごめんね??」
 森山さん謝っちゃったよ。いや俺も謝りたいよ?絶対宮地さん小さい頃「地球さんの気持ちも考えてあげてよ!」って言ってたタイプだな、とか思っちゃったよ??宮地さん可愛すぎる。

「……まあ、確かに冷房あんま効いてる感じしねぇけどな……」
 宮地はそう言ってリモコンを手に取った。そのまま気温を下げるのかと思いきや、難しい顔をしたままリモコンと睨めっこ。
 もしかして元々低めに温度設定してて、さすがにこれ以上下げたくない、とか……?
 そう考えて伊月も横から覗き込んで見る。しかし、そこに表示されていたのは『28』という数字。……そうですよね28℃が一番良いって言われてますもんねそれを律儀に守る宮地さんイケメンすぎますよ。

 でも、森山の言う通り、この暑さをどうにかするには、冷房の温度を少し下げるのが一番手っ取り早い。……森山さんの言う通りっていうのが、少し癪だけど。
「あの、宮地さん。1℃だけ下げてみません?それだけでだいぶ変わると思いますし……涼しくなったらまた28℃に戻せば大丈夫なんじゃないですか?」
 一か八か。期待を込めた眼差しで宮地を見上げると、宮地は短く唸る。
 ……やっぱり地球を大事にしてる宮地さんに設定温度を下げろっていうのはちょっと酷、かな……?
 そう伊月が少し諦め始めた頃だった。宮地は意を決したようにこちらに向き直って。
「……ちょっとの間だけな?」
「ありがとうございます宮地さん!」
「ちょ、宮地って伊月に甘すぎない??なんなの、宮地は伊月が好きなの??ホモなの??」
「ん?なんだ、森山寒いのか?おっし、毛布大量に持ってきてやるからそこで大人しく待ってろ」
「ごめんなさい何でもないデス」
 
 宮地がリモコンを操作すると、ピッという音が鳴った。多分少しすれば涼しくなってくるはずだ。ほっと息をつき、机に頬をつける。もう机は自分の体温でかなり温まってしまっている。…………暑い。

「宮地さん、扇風機とかってあります……?」

 俺の家にはあるけど……もしかして宮地さんの家にはないのかな。
 自分の家ではいつも稼働してるものがないことに気付き、暑さに耐えられずそう尋ねた。すると、宮地は思い出したように「あ」と声をあげ、立ち上がる。

 あ……扇風機の存在忘れてたんですね……。

 宮地は何も言ってない、というように口をきゅっと引き結んで、隣の部屋に姿を消す。そして、がた、という音がしたと思うと、すぐに戻ってきた。もちろん、扇風機という救世主をつれて。

「……忘れてた訳じゃねえから」

 ですよね、宮地さんが忘れる訳ないですよね、暑さに耐えられなくなるギリギリまで俺達を焦らしていただけですよね、はい、そういうことにしておきます!!

 コンセントを刺し、電源を入れると、宮地は元いたところに座って、扇風機の様子をじっと見つめた。ちゃんと全員のところに風が届いているか、確認しているらしい。
 さすが宮地さん、本当に紳士だなぁ……。
 さりげない優しさに頬が緩んでしまう。


 ―――……と、和んでいるところに。いつも通り、あの問題児が行動を開始してしまった。






「ワレワレハ宇宙人ダー」








 沈黙が、やけに長く感じられた。


 伊月と宮地の視線の先。そこには、勢いよく風を起こしてくれている扇風機の前にどかりと座り込む森山の姿。
 ……いや、予想していなかったわけではない。きっとあの人なら、やらかすのではないか、と思っていた。でも、そう思いながらも、まさかそんな子供じみたことやるわけないよな、と。どこかで思い込んでいたのだ。


 ………思い込んでた俺が馬鹿だったのか……!!


 安定すぎて、もう言葉が出てこない。
 しかし、沈黙に耐えられなくなったのか、森山が一度こちらにチラッと視線を寄越し、再び扇風機に向き直り。


「わ、ワレワレハ宇宙人ダー……」
「森山さんもうやめてください、心が、心が痛いです……!!!」
「悪い、森山。すぐに言葉が出てこなかった。えっと、その我々ってのに俺と伊月も含まれてるのかー……?」
「宮地、やめて、そんな弱々しいツッコミやめて、同情しないで、お願いだから」
「え?……えーっと、自分の星に帰れー、とかの方がよかったか?」
「宮地さん、森山さんを思うならもうやめてあげてください、森山さんが恥ずかしさで死んじゃいます」
 扇風機の前には身体を丸くして転がる森山。髪の毛の隙間から見える耳は真っ赤に染まっている。あ、これは森山さん死んだな……。
 隣では、宮地が「すぐツッコミ入れてやればよかったのか……?」と本気で心配している。宮地さん、こういう時に天然発揮しちゃダメですよ、いつもの鬼畜な宮地さんはどこに行ったんですか!!カムバック、鬼畜な宮地さん!!!

「……お前、今失礼なこと考えてないか?」
「まさかー」

 あはは、と営業スマイルを向ければ、かなり訝しげな顔をされたが、やがて諦めたようにそっぽを向かれた。いつもの鬼畜な宮地さんが戻ってきたみたいだ、よかったよかった。

「……伊月?」
「な、何も考えてないですよ」

 ……危ない。素敵な笑顔を向けられてしまった。思わず背筋をぴんと伸ばしてしまう程、素敵な笑顔。うん、確実に怪しまれてるな、俺。
 このままではパイナップル……いや、この目の前のスイカを投げられてしまう。そう思って話を逸らすため話題を探していると、ふと外が賑やかなことに気が付く。
 今日、近くで何かあるのかな……?
 窓の方を眺めると、伊月の考えていることに気がついたのか、宮地が「そういえば」と言った。
「夜、近くで祭りやるらしくてな。たぶん今準備始めたところ」
「あぁ、なるほど」
 そうか、夏だもんな、そんな時期か……。
 賑やかな外の声を聞きながら、窓を眺め続ける。と、伊月は「あ」と声を漏らした。

「それなら三人で一緒にお祭り行きませんか!!」
「無理」
「何でですか!?」

 せっかく楽しそうなイベントだというのに。すぐに却下されてしまった。
 宮地さんお祭りとか嫌いなタイプには見えないのに……。
 少し唇を尖らせ、不満げに宮地を見つめると、盛大にため息を吐かれる。

「……考えてみろよ。俺と森山と伊月で、そのお祭りに行ったとする。当然、この近くに住んでる奴らも集まる訳だ」
「そう、ですね」
「例えば、伊月の部活の後輩とか、同級生、俺の学校の奴らも来る可能性はあるよな?」
「……はい」
「そんな奴らが、何故か最近異常な程つるんでいる俺等、三人が一緒に歩いているのを見たとしたら……」
「………あ」


 確実に誤解が、生まれる。


「………すみません、俺が間違ってました」
「おう、わかればいい」

 ……そうだ、最近本当に部活の皆から怪しまれているんだ。宮地さんや森山さんとはどんな関係なのか、って。……いやいや、先輩と後輩の関係だよ??それ以上でもそれ以下でもないよ??本当、本当にそうなんだって……!!

「まぁ外は暑いし、部屋の中に籠ってんのが一番だろ」
「そうですね!」

 わざわざ暑い外なんか出てもつらいだけだよな、部屋の中なら涼しいし……!!!……涼しい、し……?



「……宮地さん、なんか暑くないですか……?」
「奇遇だな。俺も同じこと考えてた」
 おかしい。冷房の設定温度も1℃下げて、さらに扇風機まで持って来たのだ。ここまでしたら、さすがに涼しくなる、と思っていたのだが。

 ……むしろさっきより暑くなってない……?!

「もしかして冷房壊れたか……?」
 夏場にそれは困るだろう。宮地の頬には暑いせいか、うっすらと汗が浮かんでいる。
 どうにか原因を突き止めなくては。そう思って、あたりを見回す。すると、扇風機の前で丸くなっていた森山がごそり、と動いた。森山もこの暑さに耐えられなくなったのだろう、むくりと起き上がって徐に扇風機の風の強さを最大にした。こちらまで強い風が流れてくるが、空気自体が温かいため、温い風が身体に当たるだけだ。……暑い。


「………なぁ、宮地」

 例の『ワレワレハ宇宙人ダー』と言った時と同じ声が聞こえてきた。しかし、その声の調子は少し深刻そうで。思わず宮地は低い声で「どうした」と返す。





「………これ、暖房ついてね……?」





 森山の言葉を聞いた瞬間の宮地の動きは、バスケの試合を思わせるほどのものだった。
 リモコンを手にした宮地は、リモコンを上の方へと掲げ、ピッという音を鳴らしてから、再びそれを元あった場所へと戻した。

「宮地、さん……?」
 一連の動きを無言で見届けた伊月は、恐る恐る呼びかける。


「……………いや、何もなかったぜ」
「待ってください宮地さん、なんですか今の間は?!」
「つか今ピッて鳴ったよな?!なぁ、今お前、ピッて鳴らしたよな?!」
「ハハハ、伊月も森山も面白いなぁ」
「何も面白いこと言ってませんけど?!?!」
 宮地さんの目が虚ろだ。これはもう何を言っても駄目なやつだ。


 どちらにしろ、これ以上宮地を責めても仕方がない。それに、こういった間違いはよく……まぁ、それなりにはあることだ。
 とにかく今は、この暑さをどう凌ごうかを考えるのが最優先だ。
 一応、しっかり冷房に切り替わったようで、冷たい空気がたまに肌に触れる。部屋が涼しくなりきるには、もう少し時間がかかりそうだ。

「あー、そうだ、宮地。氷くれないか。氷食えば、少しはマシになるかも」
「あ、氷、いいですね」
 あまりの暑さに森山も冗談を言う気にはならないらしい。かなりまともな提案をした。……あれ、もしかして森山さんって結構まともな人……?なんて一瞬騙されそうになったけど、やっぱそれはない。今までの言動思い返したら全然そんなことなかった、気のせいだった。
 宮地は伊月と森山の言葉を受け、素直に氷を取りに台所へと向かった。素直にすぐに動いたのは、暑いためか、それとも先程の自分の行動を反省しているためか。……まぁ宮地さんのことだから後者だろうな。

「はいよ、氷」
 恐らく冷蔵庫で自動的に作られるのだろうブロック状の氷がゴロゴロと入れられた器が一つ、机の真ん中――…ではなく、そこに置かれたスイカの横に置かれた。森山は我先にと氷へと手を伸ばし、二つ程一気に口の中に放り込んだ。
 伊月は器から一つ氷を手に取り、視界に入るスイカを見て苦笑する。
「結局どうしましょうね、このスイカ……」
「大丈夫、森山が切ってくれる」
「へ、おへほんら」
「あー、もう森山さん、氷食べ終わってから喋ってください」
 そう言ってから伊月も口の中に氷を放り込む。じゅわ、と音でも出るんじゃないかと思う程、口の中の熱が一気に下がった。ひんやりとして気持ちがいい。吐く息も冷たくなって、先ほどよりも体温が下がったような気がする。
 小さくなった氷を最後にガリッと噛むと欠片が口の中に広がって、すぐに溶けていった。
 あっという間になくなってしまった氷。すぐに次の氷を、と手を伸ばそうとした時、肩をとん、と叩かれ、森山の声が伊月を呼んだ。
「なんですか、森山さん」
 器に伸ばしかけた手を引っ込めて、森山の方を見る。森山は右手に氷を一つ持って、それをこちらに差し出していた。

「えっと……?」
「伊月、舌だして」
「……………はい?」

 ついに暑さにやられたかこの人。ほぼ反射的に後ろに下がる。

「大丈夫大丈夫、変なことしないから、ちょっと実験するだけだから」
「大丈夫って言葉と実験って言葉を並べないでいただけますかね、すごく怪しいです」
「いや、本当にちょっとだけだから、ね、お願い!!」

 伊月が下がるとその分森山が距離を詰めてくる。いや、それより森山さん、手の氷溶けてきてるんですけど。
 それを目で訴えると、言いたいことが伝わったようで、森山は自分の口にそれを放り込んだ。

「全く、伊月が言うこときいてくれないから……」
「え、俺のせいなんですか?!」

 明らかに怪しいことをしてこようとする森山さんがいけない気がするのですが。え、俺が悪いの?
 そう戸惑っていると、「しょうがないなぁ」と言いながら、森山が再び右手で氷を一つ掴んでこちらに向けてきた。

「ほらー早くしないと溶けちゃうよー」
「……そう言われましても、ですね」

 躊躇っている間にまたもや溶けていこうとする氷。森山の手を伝う滴はきっとそのまま床へと落ちていくだろう。
 しかし、ここが森山の家だったら自業自得ということで問題ないが、ここは宮地の家。宮地の家の床を無意味に濡らすわけにはいかない。

 ああ、もう、本当森山さんったら……!!

 後で宮地さんの家から出たら回し蹴りでもしてやろう、そう決めて、伊月は舌をちろりと唇の間から覗かせた。

 ……それにしても恥ずかしい。舌を出せ、と言われて出すのは、よくわからないけど、とにかく恥ずかしい。耳がじん、と赤くなっていくのを感じて、さすがにもういいだろう、とすぐにその舌を引っ込めようとした。
 が、一歩遅かったらしい。


「……っ?!」


 目の前の森山がにやりと笑ったかと思えば、右手に持った氷を伊月の舌に押し付けてきた。突然舌に冷たいものが触れ、身体がびくりと震えた。思わず舌を引っ込めたが、森山は氷を伊月の舌に押し付けた状態を保ったために、今端から見れば、伊月が森山の指を咥えているような光景が――……。
 それを考えて、さらに頬が熱くなる。今頬に氷を押し付けたら一瞬で解けるのでは、と思う程に。
 あまりの恥ずかしさに意識が遠のき始めた。ちょうどその時だった。


「おー、すぐに溶けた……!!」

 キラキラと目を輝かせた森山は、伊月の口の中から指を出す。
 もう口は閉じることが出来るというのに、なかなか口を閉ざせない。

「あ、あの……森山さん……?」
 一体何がしたかったのかを尋ねるために呼びかけると、森山は楽しそうに笑って答えた。



「いやぁ、伊月が何秒でこの氷を溶かすことができるのか実験したくて!!」



 ……たぶん、何のために、とは聞いちゃいけない気がした。
 恐らく森山の様子を見る限り、本当にただの好奇心でやっただけのことなんだろう。目の前で「俺は伊月よりもう少し溶かすのに時間かかったんだよねー」とのんびり話す森山に、伊月は静かに顔を覆うことしかできない。

 森山さんの好奇心のためにあんな恥ずかしい思いをしたとか……!!死にたい……!!!

 穴を掘って埋まりたい気持ちの中、さらにそれに追い打ちをかけるように。




「……あ、お前らそういう………あっ、俺スイカ切ってくるわ」



 宮地さん何でこのタイミングでまた天然発揮した?!?!

 あんなにスイカを切るのを嫌がっていたというのに、大事そうにスイカを抱えて台所へと消えてしまった。宮地さん動き素早いなぁ……じゃなくて!!



「宮地さん?!スイカは後でいいんで!!いや俺がスイカ切るんで!!とりあえず待ってください!!!」







 結局、伊月が半泣きになりながらホモではないことを訴えて、なんとか宮地に納得してもらい、三人で宮地の切った不規則な形のスイカを無言で頬張ったのだった。その後、俺達はホモじゃないもんな、という謎の自信の元、祭りに出かけたら、案の定厄介な知り合いと出会い、一悶着あったのは、また別の話。





[memo]
 今年の夏も暑かったので。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -