でも、あれのどこが悪かったんだ……?
 俺としては変な台詞ではないと思ったのに、周りの先輩達が「火神、伊月に何するつもりなんだ?!」とか騒ぎ出してしまって……結果、俺の家には呼ぶ予定のなかった人達まで集まってしまった。
 さすがに追い返すわけにもいかず、俺は足りないだろう材料を買い足して、全員に料理を振る舞ったのだ。

 俺は、はぁ、とため息をついて、テーブルの方へと足を進める。すると、そんな俺に気付いた日向先輩と小金井先輩が嬉しそうに笑いかけてきた。
「火神、ありがとな」
「めっちゃうまかった、ご馳走様ー!!」
 ……やっぱり、自分の作ったものが他の人から評価される、というのは純粋に嬉しい。最初こそ「伊月先輩だけに作るつもりだったのに」と思っていたけれど、食べてくれる人がたくさんいると思うと、ますます腕が鳴る。そして、こうして喜んでもらえるならば、これ以上の幸せはない。
「喜んでもらえてよかった、です」
 素直にそう言うと、二人揃って笑った。

「いやぁ、それにしても火神が突然伊月を夜に呼び出すから、なんかあるのかと思ったら……夕飯食わしてやるって話だったんだな」
「そうっすよ……!逆に、他に何があるんすか」
 日向先輩のからかうような言葉にそう返せば、何故か突然真顔になった。そして、そのまま、同じく真顔の小金井先輩と顔を合わせた。え、なんだ、俺なんか変なこと言ったか……?
 今日の俺は、変なことを言ってばかりなのかもしれない。先輩達の考えていることがよくわからない。
 首を傾げて日向先輩達を見ている、と。
「……火神がバカガミなの忘れてた」
「え、は、ちょ、先輩?!いきなりなんなんですか!!」
 どうして俺は罵られることになったんだ。何でだ。
「いや、まぁ、うん、火神がまさかそんな先のことまで考えてるわけねぇよな……」
「火神が先に大人の階段のぼるわけないよ!なーんか早とちりしちゃったね!!」
「は……はぁ……?」
 日向先輩と小金井先輩は、どこか安心したようにニコニコと笑いながら話しているけれど。全く何の話をしているのかわからない。全くついていけない。
 やっぱ俺、変なこと言っちまったのかな……。
 そう自分の言葉を思い返そうとしていると、不意に微かに服が下に引っ張られる感覚がした。

「火神」
「あ……」

 声のする方を見れば、すぐ隣で床に座っている伊月先輩が、こちらを見上げていた。それも、俺の服の裾を掴んで。角度的に若干上目遣いになっているのが堪らなく可愛くて、思わず動きを止めて、伊月先輩に見入ってしまう。
「……火神」
 もう一度呼びかけられて、再び服の裾が引っ張られる。どうやら座れ、ということらしい。伊月先輩の隣に座るだなんて、なんだか緊張してしまう。でも、ここで座らなかったら、絶対変に思われる。「失礼します」と声を掛けて座ったら、笑われてしまった。伊月先輩の笑顔は今日も可愛い。
「え…っと……」
「火神ありがとな、夕飯ご馳走してくれて。すっごく美味しかった」
 ふわり、と伊月先輩が微笑んだ。その表情が、俺一人に向けられたものだと思うと、途端に言葉では表せないほどの喜びが込み上げてくる。今日、伊月先輩を家に呼んで、本当によかったと心の底から思う。じわじわと感動に包まれる。
「あの……ありがとう、ございます。伊月先輩に美味しいって言ってもらえて、すごく、すごく、嬉しい、です」
「美味しいものを美味しいって言うのは当たり前だろ。ありがと」
「こ、こちらこそ、ありがとうございます」
 お礼を言い合っているのがおかしく思えたのか、伊月先輩がくすくすと笑いだす。それにつられて、俺もつい笑ってしまった。こうして二人で笑い合えるのが幸せで、さらに笑ってしまいたくなった。
 ……が、そんな幸せな空間を知ってか知らずか。


「んで、伊月と火神はどうすんだ?」

 そう日向先輩が話しかけてきた。もちろん、俺と伊月先輩は、二人で話していたため、日向先輩達が今まで何を話していたのかなんて、知らない。ぶっちゃけてしまえば、俺は伊月先輩に夢中で、他の人達がいることを忘れていた。
 ぽかん、としたまま日向先輩を見ていると、盛大に溜息を吐かれる。

「だから、花火だよ、花火」
「は、花……火?」

 どうして花火なんかの話に。つか花火がなんだっていうんだ。
 俺が理解できていないことに気付いたらしい。黒子がわざとらしく咳払いをした。
「今日、近くで花火大会があるらしいので、ちょっと皆で外に行って見てこようかと」
「あぁ、そういうことか……」

 確かに今日は花火大会がある。というか、それを狙って、今日伊月先輩を家に呼んだ、というのもある。
 二人で飯食って、二人で花火を見る。それが、今日の俺の予定だった。
 まぁ、結局最初から全然予定通りにいかなかったけどな……。
 苦笑が漏れる。でも、こうなってしまったことは仕方ない。今回は今回で、誠凛バスケ部のメンバーで遊んだ、ということで、普通に楽しめばいいか。ここまで来たら、そう割り切ることができた。それに、誠凛の皆は好きだし、これもこれでいい思い出となるだろう。

「んで?火神は行くのか?」
「もちろん行きま」
 す、と言おうとした時、右足に鈍い痛みが走った。ばっと見下ろすと、右足の上には自分のものではない足――…黒子の足が乗っていた。

「おっま、黒子!!!何して…!!!」
「え?火神君お腹痛いんですか?それは残念ですね、では火神君抜きで行きましょうか」
「はぁあ?!」

 何勝手に話進めてやがんだ黒子……!!
 そう叫んでやりたかったが、黒子の足が俺の右足をぐりぐりと、って痛い痛いいたいいたい。
 痛みで涙目になりながら黒子を睨みつければ、黒子が小さく溜息を吐いた。そして、小声でこんなことを言ってきた。


「ここから先は、火神君次第ですよ」


 俺次第、と言われても。一体どういう……。




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