帰りのホームルームを終えて、今日はあと部活に行って、日向の家に行くだけとなった。
 たくさんの人に祝ってもらった、最高の誕生日だったな……。
 そう幸福感を噛み締めながら、部活の準備をしている、と。突如、視界の端から手が伸びてきて、俺の右手首をがしりと掴んだ。反射的に顔を上げると、なんとまぁ今日はよく俺の前に現れるものだ、俺の恋人、日向がそこにいた。
「伊月、今日はこのまま俺ん家来い」
「え、部活は?」
「大丈夫だ、カントクには許可貰ってきたから」
「でも、そんな簡単に部活休める訳……」
 別に部活終わってから日向の家に行けばいいのに。そんなに急がなくちゃいけないことでもあるのか……?
 日向の考えてることがわからず、頭に疑問符を浮かべるばかり。それに、あのカントクがあっさりと部活をサボることを許すだなんてありえない。
「……って、ま、まさか……」
 カントクの顔を思い浮かべたと同時に浮かんだ一つの可能性。背筋が凍ったような気がした。どうかそれを否定してくれ、という願いも、日向の口角が上がったのを見て、音を立てて崩れ落ちる。
「今日休む代わりに、明日の練習が五倍になるだけだ」
「いやいやいや!!何が『だけ』だよ!!だいぶ困るよ!!俺部活行くから、部活終わってから日向の家行くから!それでいいだろ!!」
「大丈夫、俺と一緒に五倍、頑張ろう。な?」
「無理、絶対頑張れない……!!」
 素敵な笑顔で囁いてくる日向。でもな、どんなにそれがかっこよくてもな、あのメニューを五倍は絶対嫌なんだ。
「最初から無理っつーのはよくねぇよ。お前が五倍、ちゃんとこなせるように引っぱってやるから」
「良い主将みたいな台詞だけど、そんなの最初から部活さぼったりしなければ…………って、日向っ、ちょっと!!」
 俺が話している途中だというのに、奴は面倒だと言わんばかりに、俺の右手首をぐいぐい引っ張りやがった。しかも、かなりの力で。……どうやら、無理矢理俺を家に引きずり込もうという魂胆のようだ。
 っていうか、日向ってこんなに力、強かったっけ……?!
 昔はただのヘタレなひ弱い眼鏡で、こんなに力の強い奴じゃなかった気がするのに。いつの間にこんな男らしくなったのか、なんて暢気な頭がこの状況を他人事のようにしてぼんやりと考える。
「ほら、もう諦めて俺の家来いって」
 ずるずるとその力に体が引きずられていくのに、どんだけ強引なんだよ、と思った。



 結局、廊下まで引きずり出されたあたりで俺も負けを悟り、素直に日向についていくことにした。……明日の練習、耐えられるかな……。






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