腐男子伊月君は計画通りに



 自分が受けになるのもアリなのかもしれない。


 今までずっとそんなことはない、と否定し続けてきたが、一度そう思ってしまえば、違和感なく心にすとん、と落ちてきた。これは間違いない、事実だ。
 まさか俺、ホモを見るのが好きなだけじゃなく、自分もホモに……前まではそんなことなかったはずなのに……。
 どこか遠く昔のことを思うかのように伊月は心の中でから笑いをする。

「伊月」
「は、はい、なんですか……?」

 ベッドに寝かされ、こうして宮地に跨がられ。少しでも気を抜いたら唇と唇が触れ合ってしまいそうなほどの距離で名前を呼ばれ、伊月は身体を固く強ばらせる。

「森山が今見てるわけじゃねえんだぞ?……それなのに宮月やってもいいのか」
「え……いや、それは、えっと」

 ……ちょっと待てよ。これってなんて答えればいいんだ?ここでもし「宮月俺も好きになっちゃいました!」なんて言ったら、襲ってくださいって頼んでるようなもんだよね??それってビッチだって誤解されるよね??俺ビッチじゃないよ!!!
 もちろん、伊月の考えていることなんて宮地にわかるわけはない。宮地は少し不安そうに瞳を揺らしていた。それを見て伊月の心臓がどきり、と大きく跳ねる。
 ……ここで、やめてって言ったら、宮地さんは優しいからやめてくれるだろうけど……さっき、自分が受けになるのもいけるって自覚したばかりだからなのか続きしてもらいたいとか若干思ってるし……ってだから俺はビッチじゃないんだってば!!

「伊月……?」
「え……えーっと確かこの部屋って監視カメラあるんですよね?森山さんにはそれで撮ったやつを見せてあげれば……」
「……つまり、伊月自身は俺に襲われたい、と?」
「…………」

 何の為に俺が遠まわしな言い方をしたと思ってるんですか宮地さん。
 わざわざ直接的な言い方に直した宮地に、伊月が返事できるのはイエスかノーかの二択。イエスを選べば、ビッチ認定されてしまいそうだし、ノーを選べば、恐らくこのまま何も起こらない。
 一体なんて答えれば……。
 視線を宮地の目から逸らし、必死に返答を考える。その間もずっと鼻先の触れそうな距離でいるのだから落ち着いて考えてなんかいられない。羞恥でうまく回らない頭で悩んでいる、と。




「………ふっ……くくっ……」



 堪えた笑い声が降り注いできた。



「み、宮地さん……?」
「あ、悪い悪い。あまりにも伊月が計画通りに……」

 宮地はそこまで言って、しまった、というような顔で言葉を止めた。小さく首を傾げると、宮地はバツが悪そうに唇をきゅ、と固く結んだ。
 以前も聞いた計画、という言葉。なんとなく嫌な予感がして、今まで自分から内容を聞くことを避けてきたが。
 俺に関わることみたいだし……そろそろ聞いてみてもいい、よね……?
 いつまでも放置していられることではない。二人の様子を見る限り、その計画とやらは着々と進められているようだし、それならば、自分の身、または身の回りで何が起こるのかくらい知っておかないとむしろ不安で仕方がない。

「あの、みや」
「なあ、伊月」

 計画とは何か。それを聞こうとしたのだが、宮地に遮られてしまった。伊月は大人しく宮地の話を聞こうと口を閉じる。



「森山に押し倒された時と、今俺に押し倒されてんの。どっちのがドキドキしてる?」
「えっ……?!」



 ……突然何を言い出すのかと思えば。
 ど、どっちの方がドキドキするって、そんなのわかんない……っていうか、宮地さんついさっきまでちょっと不安そうな顔とかしてたのに!!何で今そんなに楽しそうな顔してるんですか!!小悪魔ですか!!それも可愛いですけど!!!

「どっちかわかんないなら、俺がイロイロ試してわからせてやろうか……?」
「ちょ、どこのエロ同人ですか!!って、さり気なく服に手を入れないでください!!」

 妖しげな笑みを浮かべた顔がさらに近づいてきて。鼻先がちょん、と触れ合う。ひんやりと冷たい手に脇腹を撫でられて、って、え、ちょっ、待っ……。








「はーい!!皆のヒーロー由孝とーじょー!!」


 勢い良くドアの開く音。それが聞こえた方を見なくても誰が入ってきたのかがわかった。ご丁寧に自己紹介のようなものまでして入ってきた人物に視線を向けることもなく、宮地が舌打ちをした。一気に不機嫌になってしまったようだ。……宮地さん、表情が地上波で放送できないほど恐ろしいものになっているのですが。

「……宮地?舌打ちしっかり聞こえてきたからね?」
「そりゃあお前に聞こえるようにやったからな」
「ですよねー……っていうかこれはどういう状況なのかな」

 伊月が視線を少しだけ森山へと向けると、口の端をひくつかせた森山がこちらへと近づいてきているのが見えた。どうすればいいのか、意見を求めようと宮地に視線を戻す。すると、宮地は何も心配するなと言わんばかりに伊月の頬を包み込むように優しく撫でてきた。

「どういう状況って……見たまんまだろ」
「いや……まあね?俺を無理矢理部屋から追い出した時点でこうなることは予測してたからね?できるだけ急いで帰ってきた訳なんだけど」

 森山はベッドのすぐ横まで来ると、宮地の頭をがしりと掴んだ。

「なんなの?宮地、発情期?発情期なの??」
「あぁ?人の部屋でもどこでも盛るような万年発情期野郎に言われたかねえよ風呂に沈めんぞ」
「え、宮地さんと森山さん一緒にお風呂入るんですか?!それ覗いてもいいですか?!あ、お二人の邪魔にならないよう静かにしてますので!!」
「んー、伊月ー?俺そんなこと言ったかー?言ってないよなー?つかそんな状況でお前が静かにしていられるわけねえだろ」

 くぅ、せっかく二人のイチャイチャな入浴シーンを見れると思ったのに……!!
 確かに宮月や森月も好きになってしまったが、やはり森宮、宮森は捨てきれない。目の前で二人がイチャついてくれるなら喜んでカメラを構える。ぶっちゃけ、今の二人の喧嘩っぷりも撮りたいくらいだ。あの森山さんが宮地さんの頭を掴んで喧嘩を仕掛けるみたいな!!レアすぎる!!森宮可愛い!!!

「んで、森山。そろそろ頭から手離してもらえるか?じゃねえとお前のこと殴りにくいんだが」
「殴られるのは嫌かな、うん!!……まぁとりあえず伊月の上から退きなよ?」
「だが断る。つか先に計画無視したのお前だろ」
「えー、そうだけどさー……」

 宮地に睨まれ、渋々ながらもその頭から手を離した森山。不満そうに唇を尖らせ、でもどこか興奮したように目を爛々と輝かせているのは、間近で森山の好物、宮月を見ているからなのか。
 んー……相変わらず二人の様子が時々理解できないんだけど……これも計画の内容を知ればわかるもんなのかなあ……。
 伊月の記憶が正しければ、森山は宮月が好きなはず。だから、こんな状態の伊月と宮地を見たのなら、両手を上げて喜んでもおかしくないと思うのだが。
 確かに俺と宮地さんに目が釘付けになっているあたり、興味がないわけではなさそうなんだけど……喜びと不満半々って感じ……?
 森山の様子に違和感を覚え、しばらく考察していると、途端に森山の表情が明るくなった。


「そうだ!俺も混ぜてもらえばいいんだ!!」
「は?」

 これぞ名案!とばかりに自分で頷く森山に宮地は怪訝そうに顔を顰めた。勿論、伊月も何を言っているのかわからなくて首を傾げるだけ。

「はーい、ちょっと失礼ー」
「え、あ、も、森山さん……?!」
「ばっか、シングルベッドに三人乗るとか信じらんねえ!!」

 何をするのかと思いきや。ただでさえ男子高校生二人が乗っていてベッドが悲鳴を上げているというのに。森山まで宮地を奥に押しやり、ベッドに乗り上げてきた。これはさすがに狭い。

「いいじゃんいいじゃん!!宮地も3Pのほうが盛り上がるでしょ?!」
「勝手に人の趣味決めつけてんじゃねえよ轢くぞ!!」
「あ、あのっ森山さん?!宮地さん?!」

 伊月が名前をそれぞれ呼べば、森山は楽しげな笑みを浮かべ、宮地は呆れたような溜息をついて。二人揃って、ベッドに仰向けに押し倒されたままの伊月を静かに見下ろしてきた。
 嫌な予感……いや、別に嫌ではないっていうかむしろ嬉しいけど……って何言ってんだ俺恥ずかしい!!!……じゃなくて!……これって。もしかして。

「伊月顔真っ赤ー」
「まあそんな緊張すんなよ」

 二人が首やら脇腹やらをゆっくりと、しかもいやらしい手付きで撫でてくるものだから、体温が一気に上昇していく。あまりの暑さに頭も目もぐるぐると回る。
 何でこんなことになってるんだっけ……?目の前には宮地さんと森山さんがいて?森宮と宮森を見るために俺はここに来て?俺は森宮と宮森が好きで??宮地さんは森月が好きで……森山さんは宮月が好きで……それで俺は森月と宮月も………。
 だんだんと視界がぼやけていく。突然のことに状況を飲み込みきれなくて、無理矢理働かせた頭がオーバーヒートを起こしてしまったようだ。ふわふわとした感覚が身体を包み込んでいき―――……やがて、ぷつり、と意識が途切れた。












「ん……」

 真っ暗な闇に白い光が差し込んできた。強い蛍光灯の明かりが目に入ってきてほんの一瞬目に痛みを感じ、一度瞼を閉じる。少しして再び瞼を持ち上げれば、先程よりも視界がはっきりとしていて、馴染みのない天井をぼんやりと見つめる。
 俺の部屋じゃ、ない……?
 起きたばかりでまだ覚醒しきれていない頭。身体を動かせば脳も働くだろうと、ころりと右を向くように転がる、と。

「っ……!!」

 思わず声をあげそうになって自分の口を両手で覆う。


 なっなんで森山さんが俺の隣で寝て……?!?!


 間近にある森山の顔に鼓動が速くなるのを感じる。黙っていれば本当にただのイケメンであるため、眠っているその姿を見れば誰もが恋に落ちたような感覚に襲われるだろう。まさに今の伊月もその状態にあった。
 お……おちゅちゅけ俺……と、とりあえず森山さんから離れて……。
 起こしてしまわないように、と森山の顔を見て様子を窺いながらゆっくり後ずさる。すると、背中にとん、と何かがぶつかった。
 もしかして壁……?それにしては少し柔らかい感触だったけれど。
 不思議に思い後ろを振り返ってみる、と。

「みっっみ、宮っ……」
「んー……?」


 な、なな、何でこっちには宮地さん……が……?!

 口をぱくぱくとさせていると、伊月の声で夢の世界から引きずりだされてしまったのか、宮地がうっすらと目を開けた。

「んだよ伊月……もう起きたのか?」
「へっあっ……あのっえっ?!」
「ん……?あれ、伊月も宮地ももう起きたの?」
「なっ森山さんまで!」

 何で二人ともこのタイミングで起きちゃうんですか!!……いや確実に俺が騒いだことが原因だけど!!
 前後を起きている二人に挟まれては逃げにくいことこの上ない。しかも伊月が自分から下がったことにより、背中は宮地と密着しており、目の前の森山も目を開けると少しずつこちらににじり寄ってきた。

「あ、あのちょっと、狭いんですけど……」
「しょうがねえだろ、シングルベッドなんだから」
「いやそうじゃなくてですね……!!」
「大丈夫大丈夫!!記念に、ね?」
「記念ってなんのですか……!!」

 背後から伸びた手にさりげなく服を捲し上げられそうになって、その手を抑え込む。森山はというと、伊月の質問に少しだけ悩んだ素振りを見せてから。

「計画成功記念、かな」
「そうだな。ってことで」
「あの!!だから、計画って何なのかを……!!」

 しかし、伊月の声はもう二人に届いていないのか。二人は続きをしよう、と言わんばかりに伊月に手を伸ばしてくる。
 何で森山さんと宮地さんは二人で通じ合っちゃってる感じなの?!二人は付き合ってるから??付き合ってるからなの?!?!
 もぞもぞと這い回る手が伊月の脚に触れたとき。伊月の中で何かがぷつり、と音をたてて切れた。


「だから!!!!計画について詳しい説明を求めます!!!!」












「それで……一体どういうことなんですか」

 伊月はベッドのど真ん中に腰を下ろし、床に正座をする森山と宮地を見下ろした。二人とも頭やら腰やらを押さえているのは、伊月が先程、勢い余って密着してきた二人を突き飛ばしたら、森山はベッドから転落し、宮地は壁へと激突したからである。……話も聞かずに密着してきた二人が悪いんだ、俺は悪くない。

「いや、別に難しい話じゃないんだけどな……?計画っつーのは……」
「え、宮地その視線何。俺が続き言わなきゃなの?」
「当たり前だろ……計画名考えたのお前だろ」

 ぐずぐずと話を進めようとしない二人の様子を見て、伊月はわざとらしく咳払いをする。すると、二人揃って背筋をぴんと伸ばすのだから可愛いったらない。
 少しして、意を決したように森山がこちらと目を合わせてきた。



「計画名は……『伊月を合意の上で襲って涙目&赤面を見ようプロジェクト』だ!!!!」
「ちょっと森山さん恥ずかしいので今すぐその計画名変更してもらっていいですか??いやお願いだから変更してください!!」



 何ですかコレ新手の羞恥プレイですか、ちょっと穴はどこですか、あったら今すぐ入りたいんですけど。
 宮地がこの計画名を言いたくなかった理由はわからなくもない。伊月だって聞いていて恥ずかしいのに、これを口にするだなんて、宮地には耐えられなかったのだろう。もちろん、森山は堂々と言ってのけたが。

「この『合意の上で』っていうのが重要でね。合意を得るためにはどうしたらいいかってことで……伊月を受けに目覚めさせることを目標に俺達は頑張っていたのさ!!!」
「俺を……受けに、目覚めさせ……?!」

 つ……つまり、俺は……二人の手により受けに目覚めさせられた……ってこと……?!
 それを考えると一気に恥ずかしくなってきて顔にぶわっと熱が集まる。自分の意思でその道に踏み込んだのならまだしも、他の人の手によって自分が変えられてしまう、というのは言ってしまえば、開発されてしまった、というのと同義なのでは……ってナニソレ恥ずかしすぎる。
 こんなにあっさり二人の思う通りに変えられてしまったなんて……もう俺お婿にいけない……まぁ腐男子の時点でちょっと相手が見つかるかわからないけど……。っていうか、さっきまでぐずぐず言い淀んでいた森山さんが胸を張って若干興奮気味に計画について語っているのがなんとなくむかつくんですが。

「まぁ、森山のせいで途中から予定してた通りには進めらんなかったけどな」
「そう、なんですか……?」
「あぁ。本当は部屋に森山と伊月を二人きりにした時、伊月にあの箱の中身をさりげなく見てもらう予定だったんだが……森山が突然盛りやがって」
「箱……」

 そういえば、ベッドの下にあった箱……結局取れなかったんだっけ。
 宮地の部屋に何かあるんじゃないか、と森山と共に部屋を捜索したのを思い出す。ベッドの下に確かに怪しげな箱が置いてあったのだが。伊月では届かなくて、森山に手伝ってもらおうとした時に……森山に襲われてしまったのだ。

「箱の中って、何が入ってるんですか?」
「ん?……俺が書いた森月と宮月の小説がごっそりと」
「そ、それはそれは……」

 ……ちょっと読んでみたい、と思ったのは心の奥にしまっておいた。

「ったく……じわじわ伊月に伊月受けの良さを見せつけていこうって話だったのに……森山の奴は……」
「いやーだって、宮地が俺と伊月を部屋に二人っきりにするんだもーん。ムラム……ドキドキしちゃうよねー!」
「森山さん今ムラムラって言いかけました??言いかけましたよね???」

 身の危険を察知し、反射的に森山と距離をとる。冗談だよ!と言われたが、一体誰がその言葉を信じようか。
 しかし話を聞く限り、どうやら宮地の部屋に来るまでは全て計画通りに事が進んでいたようだ。……つまり、俺が二人を遊びに誘ったあの時から、マジバに行ったり撮影会をしたり……それも全て俺を受けに目覚めさせるために……ってそれってなんかめっちゃ恥ずかしいそんなことも知らずに宮森とか森宮で騒いでた俺超恥ずかしい。


「あれ……ていうか何で森山さん俺に対してムラムラしたり、宮地さんが宮月小説書いたりしてるんですか?森山さんが好きなのは宮月で、宮地さんが好きなのは森月………ですよね?」


 撮影会の前に説明してもらった時に確かにそう聞いた。そして、伊月は森宮と宮森が好きだから、それでお互いの萌えに協力をしよう。そういう話だったはずなのだが。
 首を傾げて尋ねると、森山と宮地は目を瞬かせてお互いに視線を交わして。少しして伊月の方を見た。





「……気づいてなかったの?確かに俺、宮月好きだけど………森月も大好物だよ?」





 ………はい?





「えっと、あの、すみません、今なんて……?」
「いやだから、俺は宮月も森月も大好物なんだって」
「え…………ええええ?!だって、そんな話一言も……!!」
「いや普通気付くだろ。…ちなみに俺も森月好きだが、宮月へも愛を注いでる」



 突然のカミングアウトに思わず毛布を引き寄せ後ろに下がる。……だってアレだよね?森山さんが森月好きで、宮地さんが宮月好きって……それただのホモじゃん……?!
 怯えたような伊月の様子に一瞬困った顔をした森山もすぐに笑顔になり。

「でも、伊月だって宮月と森月も好きになったでしょ?」
「え、あ………うぅ…」

 図星をつかれた。はい、なんて素直に言うこともできなくて毛布をぎゅっと抱きしめて目を逸らせば、二人で「計画成功!!」とかハイタッチしたのが視界の端に映った。今なら恥ずかしくて死ねる気がする。


「まぁそういうことで成功記念に伊月を襲いたいんだけど」
「そこに話戻るんですね……」

 森山だけでなく、宮地も目をギラギラと輝かせて獲物を狙うかのような視線をこちらに向けてくる。二人のその視線に胸が高鳴るのを感じ、なんとも言えない気持ちになる。伊月が少し後ろに下がれば、床に座ったままだった森山と宮地がつられるように伊月のいるベッドの方へと身を乗り出してきた。っていうか!!何で今日の二人はこんなに俺に迫ってくるんですか!!俺をどうしたいんですか!!……いや襲うつもりなのは知ってますけど!!
 別に襲われるのが嫌とかじゃなくて、今突然っていうのはさすがに心の準備がっていうのもあるし、それより前に、二人に開発?されたのが恥ずかしいし悔しいしで……!!
 ベッドの上へと乗りあげてきた二人に思わず唾を飲み込む。自分の身を守るように腕の中の毛布をさらに強く抱きしめる。今の状況から逃避したくて目を瞑ろうとした、その時。伊月はふとあることを思い出して「あ」と声を漏らした。






「そういえば俺、まだ濃厚な森宮と宮森、見れてないんですけど」






 沈黙が、部屋の中を支配した。


 それも仕方がない、こんな状況で伊月がそんなことを言ってくるだなんて、誰が予想できただろうか。目の前で完全に動きを停止して口をぽかーんと開いている二人がその答えを示している。


「……いや、あの、伊月さん?何故この流れで森宮と宮森をご所望で?」

 沈黙を破ったのは森山で、しかも何故か敬語で言われた。違和感しかない。

「俺、確かに森月と宮月も好きになっちゃいましたけど……森宮、宮森好きは健在ですよ?」

 そう言って微笑めば、明らかに二人の顔が強ばったのがわかった。そして心なしか、伊月からじりじりと距離をとっているように見える。別に俺は取って食ったりしませんよ、お二人が取って食い合うことはあると思いますが。もちろん性的な意味で。


「お、落ち着けよ伊月。森宮と宮森がなくてもお前には森月と宮月があるんだからそれで十分だろ?そうだろ?」
「宮地さん何言ってるんですか、俺の目標は森宮と宮森を広めて、アンソロを出して、さらに布教することですよ?」

 別に推しCPが変わった訳じゃなくて増えただけだ。俺はいつまでだって森宮と宮森を愛し続けるつもりですよ。
 しかし二人の様子を見るに、森宮と宮森をやる気がない、というか、したくないようだ。やっぱり自分が受けになるのって恥ずかしいですもんね、俺も自分が下になるなんて、なかなか受け入れられませんでしたから。





 ……でも、俺だけが恥ずかしい思いをするだなんて、やっぱり不公平、ですよね?





 伊月は離れて行こうとする二人の手を片方ずつ掴み、恐怖を顔に滲ませる二人に向けて、飛び切り可愛く笑って見せた。










「二人が森宮と宮森を好きになるように、俺が開発してあげますね!!」












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