腐男子伊月君のホモな撮影会


 ああ、なんで俺はこんなことをしているんだろう……。


「撮るよー!はいっチーズ!!」


 なんで、宮地さんと森山さんのホモな撮影会に参加してるんだろう俺……!!!


 伊月たちは先ほどから、ローテーションで写真を撮り合っていた。今は、伊月と宮地が撮られる側についている。森山さんの「はいっチーズ!!」があまりにノリノリすぎて怖い。どこぞの女子高生ですか。

「あー、じゃあ次、宮地が伊月の腰を正面から引き寄せるように……」
「んー、こうか?」
「そうそう!!ああ宮月可愛すぎるよ本当!!!」
「ちょ、森山さん足ばたつかせてる時間あるなら早く撮ってくださいよ恥ずかしいんですから!!」

 恥ずかしくて、宮地の胸元に顔を埋めると「あざといづきいただきましたー!」という愉快な声がきこえてきた。もう嫌だこの人。
 ……まあ俺も俺で森宮とか宮森の写真とる時はこんなテンションだけど!それはもう危ない人みたいなテンションだけど!!!

 森山さんの顔など二度と見たくない、というように伊月は宮地の胸に頭をグリグリ押し付ける。さすがにそんな態度を見るに見かねたのか、上から「しょうがねえなあ」という宮地さんの素敵ヴォイスが降り注いできた。ちっ、今の録音してあとで森宮MADにでも組み込めばよかった、失敗した…!

「……今恐ろしいこと考えてなかったか?」
「まさか、そんなわけありませんよ!」

 アハハ、と営業スマイルを浮かべつつ、話の続きを促す。宮地は少し不満そうだったが、あきらめてこちらの耳に唇を寄せてきた。



「……次の森月でお前が頑張ってくれたら、森宮、宮森どんなに激しいのでもご希望に応えるぜ……?」

 囁くように言われて、少しドキッとしたが、それより。


「えっ!!本当ですか!!嘘じゃありませんよね!!男に二言はないですよね!!」

 人生最大のご褒美だと言っても過言ではない取り引きの内容にすべてを持っていかれた。ああもう宮地さんまじイケメン抱いて!!
 宮地を見つめ、心を躍らせていると、伊月達の様子を少し離れたところで見ていたあの人が不満そうな声をあげた。

「ちょっとちょっと〜宮月で内緒話してるのも可愛くて萌えるけどさ、こうも仲間外れだと寂しいんだけど〜……」

 唇を尖らせブーブー言う森山に、伊月はため息をつき。


「ダメですよ、俺と宮地さんの秘密ですから」

 宮地を抱き寄せ、伊月は自分の人差し指を宮地の唇にぴとりと当てる。ですよね、と首をかしげて笑うとみるみる赤く染まる宮地の顔。そして隣から聞こえる鳴りやまないシャッター音。 恥ずかしさにわなわな震えだす宮地を伊月はしたり顔で見た。

「おまっ…!俺は森月の時にやれって……!!」
「だって、森山さんだけがあざといの見れないって可哀想じゃないですか」
「あざといって……お前なあ……」

 ……まあ本当はそうやって慌てる宮地さんが見たかっただけ、というのは言わないでおこう。

「じゃあ次は宮地さんが撮る番ですね」

 先ほどのことがまだ頭から離れないのか、未だに仄かに赤みを残したままの宮地の頬が視界に入る。それを見られたくないのか、さりげなく腕で顔を隠している姿があまりに可愛くて、失神するところだった。危ない危ない。



「……じゃあ、お前らが良いと思うポーズ好きにしろよ」

 宮地はそう言いつつ、視線で伊月に「約束覚えてんだろうな?」と問いかけてくる。それに対し、肯定の旨を伝えるために小さく頷いた。 不意打ちのほうが森山さんの自然な反応とか見れていいかも。そんなことを思いながら、どんなポーズにしようかと考える。

 と。


「え、あ、ちょ…?!」

 突然腰を引き寄せられ、森山と密着する形になる。

「ごめんね……?」
「えっ……?…ひぁっ…んっ!」

 謝罪の言葉を耳元で囁かれたと思ったら。森山の顔がさらに下に下がり、首筋に息を吹き掛けられ、甘噛みされた。 もちろん、そんなことをされるなんて思ってもいなかったし、されたことなんてただの一度もなかった伊月は、その初めての感覚に、思わず声を漏らした。

「も……もも…もりや……?!」

 羞恥やら驚きやらで混乱して口をパクパクと動かしていると、目の前の森山が妖艶な笑みを浮かべる。

「……卑猥な声あげちゃって」
「ひ……ひわっ……?!」

 改めて先ほどの自分の声を思いだし、顔がみるみる熱くなる。耳まで熱くなってきて、火がでそう。穴があったら入りたいとはまさにこの時のために用意された言葉なのでは。

「……真っ赤」
「っもう森山さん喋らないでください!!」

 半分ヤケになってそう叫ぶ。ごめん悪かったよと謝罪の言葉を並べる森山の声を聞きながら、伊月は自分の心臓の音を落ち着けようとする。しかし、頭にはやはり森山にされたことばかりが浮かんできて、心臓の音は速まるばかりだった。


 今の感じ……やばい、やばい。まさか。まさか。俺。









 自分が受けになるっていうのも、いけたりするの……?

 見るだけじゃなくて、自分がそこに混ざるのもありって……?



 そこまで考えて、伊月は心の中で大きく頭を振った。
 いやいや、まさかそんなわけない。俺はれっきとした森宮、宮森推しの普通の腐男子……!!そんなことがあるはずがないじゃないか。俺は森宮、宮森を布教していつかアンソロジーをだせるまでに人気にしようって心に決めてきたんだから…!!
 再びその決意を心に深く刻み込み、先ほどのような考えが二度と浮かばないように自分に言い聞かせた。


 その時、ふとあることに気づく。
 今一番騒いでいても可笑しくない人物の声が長い間聞こえてこない、ということに。


「……宮地さん何やってんですか」
「……………いや特になにも」

 何もないなら微妙な間を作らないで欲しい。慌てたように携帯を自分の後ろに隠さないで欲しい。

「宮地さんずいぶん長い間こちらに携帯向けてませんでした?」
「……ちょっと連写してみたくなっただけだ」
「その割にはシャッター音が聞こえませんでしたが」
「…………………」

 バツが悪そうに目を逸らされる。こちらを見もしないで、口をきゅっと結ぶ宮地。どうやらこれ以上話す気はないようだ。
 しかし、だからといって諦められるわけがない。これほどまでに頑なに教えることを拒むということはそれほど伊月にとってよくないことが行われていた、ということ。放っておけるはずがない。
 これは……手段を選んでる場合じゃ、ないよな。
 拳をぎゅっと力強く握り、身体中に力を入れる。そのまま右手をあげ、少し離れたところを指差して。


「あっ、大変だ!!あそこに俺の女装写真がっ!!」
「なんだと……?!どこだ?!」
「宮地、先に見つけた方にそれの所有権があるからな!!」

 簡単な嘘に引っかかってしまう二人が可愛くて仕方ない。釣るつもりはなかった森山さんまで反応してくれたおかげもあってか、必死に低姿勢でありもしない写真を探す宮地さんの手からは、いとも簡単に携帯を奪うことができた。しかも、携帯を奪われた事実にまだ気づいていないらしい。一つの物事に集中して周りが見えなくなってしまうだなんて可愛い。例え、集中する対象が、女装写真であったとしても。
 
 ……なんだか俺、随分と自分を売るようなことしたなあ…。
 我に返って少し恥ずかしくなる。
 でも、まあ目的のものは手に入れられたし……。
 伊月は改めて宮地の携帯と向き合った。
 と、そこに映しだされていたのは。

「森山さん……と、宮地さん?」

 っていうか、これって。

 伊月は視線を固定したまま、携帯を横へとずらす。視線の先に見えるのは、先ほど携帯の画面に映し出されていたのと同じ格好で屈む森山と宮地の姿が。

 ……つまり、カメラモードのままってこと?

 一瞬その考えが浮かんだが、すぐに打ち消した。カメラモードのまま放置していた、となると、宮地が長い間こちらに携帯を向けていた理由がわからない。それに、カメラモードにしては不自然な赤い丸が点滅しているような…。



「………………宮地さん、もしかして動画撮ってます?」
「えっあれ、携帯っ?!」

 伊月の言葉をきいて顔を真っ青にして焦り出す宮地の様子からして……正解で間違いないだろう。宮地は伊月の手に握られる自分の携帯を見ると、バスケの試合中にも見たことないくらいの素早さで携帯を奪い取った。そのまま録画終了ボタンを押し、データを確認しては、ほっと胸をなでおろしていた。

「ま、まあそう怒んなよ伊月、別にこれを悪用しようってわけじゃねえんだし」

 ただちょっと今夜…、と呟くように言われた言葉の続きは聞きたくなかったので聞こえなかったことにした。
 しかし伊月はその時ふと思いだした。

 宮地に先ほどの森月を撮られていた、ということは。
 それは、つまり。


 あの俺の変な声も撮られてたってこと……?!


 恥ずかしさに赤くなる顔を意識してさらに熱くなる顔。頭の中がぐるぐるして、目眩さえ起きそうになる。なぜだろう、羞恥からなのか涙が。

「と……とりあえず宮地さん、早急にそのデータを消していただけますか」

 涙目になりながらそう頼む。が。

「は?なんで?」

 ガチトーンで返されてしまった。何ですか宮地さんは俺の口から理由を話せと言うんですかそれただの羞恥プレイですよ俺相手じゃなくて森山さんにやっててくださいよ…!!
 ぐぐ、と唸って睨みつけると、ニヤリと素敵な笑みを浮かべられる。あっ、この人確信犯。

「本当恥ずかしいんで!!消してください!!」
「あー、わかったわかった、家に帰ったらな」
「それ絶対消さない人の言う台詞ですから!!」
「宮地!家帰ったら俺にそのデータ送って!!!」
「あぁもう森山さんまで何言ってるんですか!!」

 そしてさりげなく了承を示すポーズを森山に向ける宮地に頭を抱えたくなった。もう嫌だこの人達。

 ……だいたい森山さんも森山さんだ。なんであんなに積極的に俺を攻めてきたんだ……。
 伊月自身、森山も伊月と同じように宮地と取り引きしていたのかとも考えたのだが、あの時の森山の雰囲気からして頼まれたからというわけではなさそうだった。
 でも、それなら何で……。
 
 そう一人で悶々と考え始めたとき。
 伊月の視界の端に、宮地に近づく森山の姿が映った。
 こ、これはついに森宮きたか……?!
 伊月は期待に胸を膨らませながら、表面にはそれを出さないようにと静かに唾をごくりと飲み込んだ。
 森山は宮地の服の裾を引っ張り、意識を自分へと向けさせ、その耳に唇を寄せた。そしてその唇が紡いだ言葉とは……。




「俺達の計画もいよいよ終盤だね……!!」


 け……けい…かく……?

 何の話だ。俺が知らない間に後ろでなにか恐ろしい計画が進められていたというのか。
 ヒソヒソと話す二人の声は、漏らさずこちらに全て聞こえるほどの大きさであったが、伊月はそれをシャットアウトした。ここで計画とやらについて知ってしまったら、面倒なことに巻き込まれてしまう気がしたからだ。

 これは上手い具合に帰宅するように促すべきだな……。

 そう考え、声をかけようとしたところで。





「伊月、このあと時間あるなら濃厚な森宮か宮森やるけど」
「今夜は寝かせませんよ」




 もちろん、これも例の計画のうちである、ということに伊月は気付いていない。










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