外す気はありませんから




「この通りっス!!」

 そう言って黄瀬はその場に正座をすると、形のいいおでこを勢いよく床へと激突させた。がつん、という非常に痛そうな音が鳴り響いた。それでも黄瀬は、その状態からびくともせずに俺の返事を待ち続ける。床につかれた手は、指を揃えてピンとまっすぐに伸ばされていて。見事に綺麗な土下座が俺の目の前に完成した。明日も撮影があるって言っていた気がするけどあんなにおでこを強くぶつけて大丈夫なのか、とか、相変わらず綺麗な手だな、とかそんなことをつい考えてしまったが、黄瀬が求めているのはそんな言葉じゃないことくらいわかりきっている。
 そして、わかりきった上で俺はこう返事した。


「嫌だ、無理、断る」
「そこをなんとか……!!」


 このやり取りもかれこれ十回目。そろそろ黄瀬も諦めたらいいのに。
 俺は、ソファの背凭れにぽふりと身を委ね、頑なに譲らない様子の黄瀬に小さく溜息をついた。

 だいたい、何でこんなことに……。

 天井を仰いでゆっくり目を瞑る。そうすると、こんな状況を作り上げることとなった原因である、あの日のことが鮮明に瞼の裏に映像として映される。


 あの時、簡単に黄瀬の話を信じたりしなければ……。








[次→]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -