森山さんと高尾君がチョコの話をしています
*下品です。下ネタ注意。
「あれ、もしかして、海常の森山さんっスか?」
自分の名前を突然呼ばれ、ほぼ反射的に振り返る。
この軽い感じのしゃべり方、真ん中分けの前髪、つり上がった目…一言で言えばチャラい。そんな印象を受ける目の前の人物は。
「秀徳の…高尾か」
そう言うと、高尾は楽しそうに笑いながら、森山のほうへと近づいてきた。
「覚えてていただけるなんて光栄でっす」
ニカッと笑う高尾に、思わずひきつった笑いを返してしまった。
秀徳の高尾…この笑顔の裏になにを隠しているか、わからないからな…。
森山は少し警戒して、高尾との距離を多少置きながら笑いかける。
「いやあ、こんなとこで知り合いに会うだなんて、思わなかったなあ」
「俺もですよ、つかここに男がいるのも、ちょっと変な話っスよね」
そう言いつつ、高尾は目の前に高く積み重なっている箱の一番上から一箱取り上げた。そこには、『ミルクチョコレート』と大きく記されていた。
そう、今二人がいるのは、バレンタインデー近くになると設けられる、チョコがひたすらに並べられたコーナー。
普通だったら、恋する乙女や、友チョコをあげようと考える女の子が来るようなところ。男が来るのはあまりにも不自然すぎる。
「バレンタイン前日にこのコーナーにいるなんて、森山さん、自分から自分にチョコレートあげるんスか〜?」
「まさか。明日は女の子たちからたくさんもらえるだろうから。わざわざ自分で買ったりしないよ」
森山が言うと、高尾は「さすがイケメンですね」と愉快に笑った。なんだか馬鹿にされている気分だ。
ここはなにか仕返ししないと、と森山は考える。
「で、高尾はどうなんだよ?お前みたいなチョコたくさんもらえそうなイケメンがここに来るなんて不思議だな」
愛想笑いを顔面に張り付けたまま尋ねる。すると、ずっと生意気に笑っていた高尾の表情に少し変化が見られた。
が、すぐにいつもの笑みに戻り、「イケメンだったら嬉しいんスけどねー」と言う。
…今の感じだと、意味もなくここに立ち寄ったってわけじゃなさそうだな。
ふむ、と一人頷き、笑顔の高尾を見つめる。
さて、どうやって吐かせようか…。
そう考え始めたところで、高尾が「…まさか」と口を開いた。
「俺達、同じ目的でここにいたりするんスかね?」
こちらを伺うように顔を覗き込んでくる高尾に思わず一歩後ずさる。
確かに、同じ日に同じコーナー、しかもチョコレートのコーナーに同性がいたとしたら…考えることも同じなのかもしれない。
それに相手は高尾だし…こいつならありえない話ではないはずだ。
なんて言ったって、高尾はエース様好きで有名なのだから。つまり。
「…高尾って、緑間と?」
付き合っているのか、と続けなくても通じているだろう。高尾はすぐに笑顔で頷いた。
「相思相愛っスよ」
「のろけんなよ」
そう言いながらも、森山は少しずつ、高尾に親近感を覚え始めていた。
まさか近くに仲間がいたとは。
「森山さんはどなたと?」
森山が男と付き合っている、ということを前提に話を進めようとする高尾に思わず苦笑いを浮かべる。
まあ間違ってはないんだけど……遠慮ないなあ。
「……俺は、誠凛の伊月くんだよ」
それをきいた瞬間、高尾は作った表情ではない、心の底から驚いた、というような顔をして、感嘆の声をあげた。
「え、まじですか?!伊月さんって、黒髪の美人系の……」
「うん、そうだよ」
自分の恋人を褒められて悪い気はしない。むしろ、あのエース様好きの高尾の口から他のひとを褒める言葉が素で出てきているのだ。喜んでいいと思う。
目の前で、「そうかー、森山さんと伊月さんがねー」と一人で呟きながら頷く高尾は、こちらと目が合うと、にやりと小悪魔っぽく笑った。
「…じゃあ、もし俺とここにきた目的が同じだったら…」
「明日俺と全く同じことをするだろうね」
お互い顔を見合わせてくすり、と笑う。
絶対そうだ。俺と高尾の目的は絶対一緒だ。
そう、確信した。
「バレンタイン、って本当素晴らしいイベントですよね」
「ああ、明日の夜はもちろん…」
『チョコレートプレイ』
二人の声が重なり、また共に笑う。
まさか同じ考えを持つ人がこんな身近にいただなんて思わなかった。
「やっぱり男がこの時期っていうとそうですよねー」
あまりにも当たり前、というような口振りに思わず「だよな」と言いそうになった。
なるほど、これがうまい話し方か…。コミュ力高尾とか言われるだけあるな。詳しくは知らないけど。
「っていうか、森山さんわざわざ神奈川から東京まで出てきたってことは…」
期待するようにこちらを見る高尾。もちろん期待は裏切らない。
「今日は伊月くんの家に泊まりだよ」
「お〜、さっすが森山さん!」
やりますねー、と高尾は森山の肩の上に手を乗せた。そしてそのまま、森山の耳に唇を寄せる。
「…チョコレートプレイは明日やるんですよね?今日の夜はどうするんですか?」
高尾は小声で、でも弾んだ声で訊いてきた。これももちろん期待にそえて。
「今日は今日でそれなりに」
「きゃーもう森山さんったらお盛んなんだからー!」
裏声でキャッキャと話す高尾になぜか嫌な気持ちはしなかった。なんだろう、すごく高尾とは気が合う感じがするからだろうか……。
「でも、明日のチョコレートプレイは万全の状態でやらないと。せっかくのバレンタインなんですし」
「大丈夫、今日は激しくしないって」
「今日はって……いつもは激しいんスね」
高尾はそう言って笑った。
……そういえば、さっきから俺の話ばかりしてる気がするなあ。
恋人が男である、という男子に会うのはめったにないことだ。今日のうちに高尾の話もききたい。
「高尾はどうなんだ?なんとなく毎日激しそうな気がするけど」
森山のイメージでは、高尾のことだから毎日してそうだな、と思っていたのだが。
「まっさかー。エース様に無理はさせられないっスよ。毎日はしてないです」
その返答をきいて、納得。高尾はなにより緑間を一番に考えてるからな、さすがハイスペック彼氏…だったか。
「……ま、毎回激しいですけどね」
ボソッと呟いた言葉はきこえなかったことに。
「ところで、森山さんはどのチョコレート買うつもりなんですかー?」
高尾にそう振られ、そういえばチョコレートを買うためにこの店に寄ったんだ、と思い出す。危うく、ホモ話を交流しただけで終わるところだった、危ない危ない。
改めて目の前のチョコレートたちを見てみたが。
「いろいろ種類あるな……」
これは悩む。こういうのってどれを買ってもあまり変わらないようなものなのか……。
「森山さんたちはどんなプレイするんスか?」
「どんなって」
そんなことまできいてくるのか!ハイスペック彼氏恐るべし。
でも高尾に話したところで、別に悪いことはおこらないだろう、と考え、森山は口を開く。
「まぁ結構王道?かな。溶かしたチョコレートぬりつけて舐めたり」
伊月に対して自分がしている、ということを頭で思わず思い浮かべてしまい、頬が微かに紅潮する。落ち着け、俺……!!!
「なるほど…。だったらこのチョコレートとかどうです?レンジでチンしてあっためて溶かすっていうやつ」
高尾に手渡されたものを見て、確かにこれならやりやすいな、と考える。
さすが、気が利くな、高尾は。
「高尾はどんなことするんだ?」
今後の参考に、このいろいろ豊富そうな高尾にたずねてみた。すると、高尾は「知りたいですかー?」ともったいぶって笑う。そのノリにあわせて「知りたいなー」というと、待ってました、というように最高の笑顔を向けてきた。
「いやぁ、いろいろ考えたんスけど。真ちゃんってああ見えて結構ベッドの上ではもう可愛すぎて超天使なんですよー。あ、もちろん普段も可愛いですよ?でもベッドの上だとさらにその天使さが増す、というか……!真ちゃん自身、そういうことするの大好きらしくて。いや本人の口からはきいたことないんですけど。だから明日どんなプレイするのかなーってめっちゃそわそわしてると思うんですよね!真ちゃんのためにもすっごい盛大にやりたいなぁと思ってて…」
……なんだかすごい惚気話をきいてる気になってきた。いつ本題に入るんだ高尾よ。
高尾は周りなんて気にせず、興奮したようにつらつらと話している。しかも早口すぎて、だんだんと気が遠く……。
「あぁ、それでプレイについてなんですけど」
どうやらやっと本題に入ってくれるようだ。俺にとっては一時間くらい待たされた気分だよ、実際二分くらいしかたってないけど。いや二分って結構長い気がするけど。
ついに本題に入ってくれる、とのことで、高尾の声に耳を傾ける。
「とりあえず、森山さんと同じようにチョコをぬるっていうのをやりたいんですけど…俺の場合は、レンジで溶かすんじゃなくて、真ちゃんと一緒に溶かそうかなって」
「…………え?」
高尾の言っている意味がわからない。どういうことなんだ…?
そんな様子の森山に気付いたのか、高尾は付け加えた。
「真ちゃんとべろちゅーして板チョコの欠片を溶かすってことですよ」
「なっ……」
そこまで言われてやっと意味がわかった。
高尾…お前………。
「最高に頭いいな!!!」
親指をグッと上に突き立てる。これは素晴らしいアイディアだ。
じゃあ俺も板チョコ買うか!!
そう思って板チョコを手に取り、レジに向かおうとすると。
「…実は、他にもいろいろやりたいチョコレートプレイがあるんですけど…ききます?」
とりあえず、大量のチョコを買って、高尾とマジバで話し合うことが決定した。
[memo]
バレンタインネタ・2013