自覚してないホモな三人組と忘年会


「よし、じゃあ今日は忘年会だな!!」


 年末に集まろうぜ、という森山の呼びかけにより、今日は三人で森山の家に集まっていた。最初は、森山と宮地が伊月の家に行きたいと言い出したため、伊月の家に集まる予定だったのだが。伊月が「こたつ、まだ出してませんけど」と言った瞬間に、森山宅に変更となった。やはり、冬にこたつは必須だ、ということか。

「忘年会って……具体的にどんなことするんですか?」

 三人揃ってこたつに足を突っ込み、ぐだーっとした時間を過ごしていたその時、突然森山が表情を輝かせて言った言葉に対し、伊月はぐだーっとしたテンションのまま問いかけた。そんな伊月とは反対に森山は楽しげに言葉を弾ませた。

「例えばー、カラオケ行ったりとかー、ゲームしたりとかー、外食したりとか!!!」
「は……?お前、このメンツでわざわざそんなことしたいとか思うわけ……??」

 寒さのせいもあってか、宮地はいつも以上に眉間に深く皺を刻んだ。どうやらとにかくこのこたつから出たくないらしい。こたつの中にできるだけ体が入るように、こたつ掛けをくいっと引っ張っていた。

「んー……まあ確かにそういうことをするには可愛い女の子が必須かもしれない」
「だろ、男三人だけでそんなこと忘年会としてやったって虚しくなるだけだろ」

 意外にも宮地の言葉にあっさりと納得した森山は、うんうんと唸ってなにかを考え始める。
 少しして、如何にも「閃いた!」というように表情をぱっと明るくすると、伊月と宮地にとてもいい笑顔を向けてきた。


「鍋やろうよ、鍋!!!」


 外に出なくても良くて、男三人でも楽しめるもの。その条件から導き出したものは、鍋、だったようだ。森山さんにしては随分とまともな意見が出たな、と思ったのは、言わないでおくことにする。

「鍋ですか、俺は賛成です」
「まあこたつから出なくて済むし……いいんじゃね?」

 伊月に続き、宮地も森山の案に賛成の声をあげる。その様子を見て、森山は嬉しそうに微笑んで、「決まりだな!」と言った。

 ここで平和的に鍋を皆で作り始めることができればよかったのだが。先程まで怠そうな空気を纏っていた宮地が、唐突にいい表情をした。……俺は知っている、宮地さんがこの表情をしたあとは、何かしらよろしくないことを言い出す、ということを。


「どうせなら闇鍋やろうぜ」


 闇鍋。
 暗い部屋で各々が持ち寄った食材を鍋に投入し、何が入っているのかわからない状態の鍋を食べようぜ、というような遊び。
 なんだか、スリルがあり、ドキドキとしてとても楽しそうな響きなのだが。

 このメンツでやるのはちょっとなあぁぁぁ……!!!

 変なものを入れそうなメンツが複数いる時点で怖すぎる。家に帰って普通の鍋を平和に食べたい。

「闇鍋いいね!!やろうやろう!!」

 もちろんこういうことが大好きであろう森山が断るわけもなく。むしろノリノリで肯定されしまった。ああもう絶対まともな鍋できない。
 しかし、そんなノリノリな森山の表情が、「あ」という声とともに凍りついた。

「森山さん?どうかしたんですか?」

 何があったのか尋ねると、森山は視線を泳がせる。

「いやぁ……鍋やるーとか言ったけど……俺んちそんなに今食材揃ってないなあ、と……」

 こちらの様子を伺うように視線をちらりと寄こす。なんだか少し可愛い。
 しかし、宮地は何を言っているんだと言わんばかりに顔を顰めた。

「森山が買ってくればいいじゃん。俺パイナップル」
「あ、じゃあ俺はコーヒーゼリーで」
「なに入れるか他の人に言っちゃったらもうそれ闇鍋じゃないよね?つかこれってもしかして俺パシリ??」
「もしかしなくてもお前がパシリ」

 森山はうわあああっと叫んで頭を抱えた。
 まあ森山さんをパシリにするのは……一応先輩だし、気が引けるけど。
 伊月は肩をぶるりと震わせて、こたつの温もりを求めるようにもぞもぞ動く。

「……だって、寒いですし」
「いや、寒いのは俺も同じだからね……?」

 森山はこちらに近づいてきて、皆で行こうよねえねえと服の裾を引っ張ってきた。
 でもなあ……わざわざ寒い外に自分から出ていくのも……。

「伊月……今度好きなだけコーヒーゼリー奢るから」
「上にクリームとか乗ってる奴ですからね!!」

 宮地も某アイドルのライブチケットを今度手に入れたらあげる、という条件で簡単に釣られてしまった。
 ……あれ、森山さん、もしかして俺と宮地さんの扱いがわかってきてる……??



 こうして、伊月たちはそれぞれ違うお店で各々好きなものをいくつか購入することとなった。



***



「よし、じゃあ闇鍋始めようか!!」

 伊月が買い物を終えて、森山の家へと戻ると、すでに他の二人はこたつに入っていて、鍋の準備も整っていた。食材によっては、洗ったり切ったりしなくてはいけないため、順番に台所で準備をしたあと、ソワソワとしながらこたつに入り、まだ何も入っていない鍋を見つめる。

「……念のため確認するけど、食べ物だよな?宮地、ちゃんと口に入れても大丈夫なもの買ってきたよな??」
「それはフリか??鋏とかでも入れればいいのか??」
「いやガチのほうだよ!?つか鋏とか怖いからやめよう!?キセキの赤いひと思い出すから!!」

 一応、皆口に入れても大丈夫なものを用意してきている、ということで、森山はリモコンで部屋の電気を真っ暗にした。

「じゃあ伊月から入れてってー」
「あ、はい!」

 伊月が買ってきたのは、白菜、豆腐、人参といった、鍋としては極定番のもの。他の二人がどんな変なものを入れるかわからないので、自分くらいは普通のものを用意しなくてはできあがった鍋が食べれるものではなくなってしまうだろう、と考えたからだ。
 ここで俺まで変なものを入れちゃったらかなり悲惨なことになりそうだからな……。
 心の中で乾いた笑いを零す。

「伊月ー?もう入れた?」
「あっすいませんすぐ入れます!!」

 火傷に気をつけてねーという森山の声をききながら、伊月は近くに隠して置いておいた自分の食材を手探りで見つけ出そうとした。その時。

 太腿になにか違和感を感じた。



 あれ……な、なんか……。






 撫でられている、気が、する。







「え、あ、あのちょっと……」
「伊月?どしたー?」

 遠くの方から森山の声が聞こえてくる。少なくとも、その位置からこっちまで手を伸ばすことは不可能だろう。ということは。

 み、宮地、さん……?!

 そういえば、部屋を暗くする前、妙にこっちに近づいてきてるなーと思っていた。まさか、こういうこと……?!
 太腿を撫でる手は結構際どいところまできては離れていく。それの繰り返し。腰のあたりからゾワゾワとしたものがあがってくる。
 っていうかなんか手つきがいやらしいんですけどこの人……!!
 真っ暗な状況でこんなことをされているのかと思うと恥ずかしくなってくる。体中がぶわっと熱くなる。きっと、今顔は真っ赤になっている。

「あ……の、宮地、さん……?」
「ああ?」
「ひぁっ……?!」


 ぱっ、と電気が明るくなった。



「……なんか卑猥な声が聴こえてきたんだけど」
「………………」

 隣を見れば、すぐ近くに宮地がいた。一瞬目が合ったが、もの凄い勢いで逸らされる。

「暗くなった途端にそういうことし始めるとか……お前らそういう関係だったの……?」
「違います!!宮地さんが!!」
「人のせいにすんなよ勝手に卑猥な声あげといて」
「ひ……ひわっ……!」

 宮地さんのせいなのに!!絶対に宮地さんのせいなのに……!!!
 きっ、と睨みつけると、宮地はべーっと舌を出してきた。
 本当にもう……この人は……!!

「はあ……もうホモみたいなことすんのはやめてよ?」

 そう言って森山は再び電気を消した。宮地は先ほどので満足したらしく、もう絡んでくる気配はない。
 よし、入れるか……。
 音を立てて食材が何かバレてしまわないように、ゆっくりと鍋の中に入れていく。……とは言っても伊月の用意したものは全て普通のものであるのだが。

「はい、入れ終わりましたよ」
「んじゃあ次宮地な」
「おう」

 宮地がなにかを入れている気配がする。トポトポと微かに音が聞こえてきた。しかし、何を入れているのか想像はつかない。

「じゃあ俺も入れるねー」

 最後、森山が中に何かを投入した。一度、大きくボトッという音がしたのは聞かなかったことにしたい。絶対切るべき固形物をそのまま切らずにいれてた気がする。どうやって食べるつもりなんだ。




***



 全ての食材を入れ終わって少ししたころ。

「それじゃあ!!そろそろ食べてみようか!!!」

 楽しげな森山の声が部屋の中に響いた。
 まあ一応皆、食べ物を入れてるわけだし……なんとか食べれる、よね??
 暗い中で、森山が出来上がったものを全員分よそっていく。
 ……なんだか甘い香りが微かに……いや、かなりしてくるんだけど、宮地さんと森山さんは一体なにを入れたんだろう。
 ぶっちゃけ嫌な予感しかしない。

「皆の分よそったよね?よし、じゃあいただきまーす」
「い、いただきます」
「……いただきます」

 そう言ったあと、箸を動かす音がきこえてきた。少し遠くから聞こえてくることから、森山が食べようとしているのだろう。
 伊月はと言えば、まわりの反応を見てからにしようと、いただきますと言った状態から少しも動いていない。隣からも物音一つ聞こえてこないので、恐らく宮地も同じことを考えているのだろう。
 森山の反応を静かに待つ。


「…………っうぉえ!?!」


 ……どうやら食べなくて正解だったようだ。
 森山が激しく咳き込む。

「ちょっ……うぇっほっっなに、これ?!」

 再び明かりがつけられ、目の前がよく見えるようになった。目の前の鍋を見てみると。

「……うわぁ……」
「こ、これは……」

 宮地と伊月は、揃って顔を顰めた。
 これは、駄目だ、絶対駄目。

「言葉じゃ言い表せないような色してるんですけど……」
「やべえ……見てるだけで胸焼けが……」
「ちょっつか二人とも食べてないじゃん!!」

 ずっと咳込んでいた森山が復活してきたようで、涙目のままこちらに怒鳴りつけてきた。

「だって俺、こんなん食って死にたくねえし」
「いや俺だって死因が闇鍋とか嫌だからね?!」

 一体なにを入れたらこんなことになるのだろうか。とりあえず、少なくとも伊月以外の二人のどっちかが原因であることはわかっている。

「あの……お二人とも何入れたんですか?」

 恐る恐る訊いてみると、二人は気まずそうに視線を彷徨わせた。なるほど二人ともなにかやばいものを入れたのか。

「えーっと、俺はちょっと面倒だったからじゃがいもを切らずにいれたりしただけだよ?あっ芽はちゃんととったから!!」

 鍋を覗いてみると、確かに切られていないじゃがいもや、ばきばきに折って小さくしたと考えられるごぼうなどが入っていることがわかった。色々と雑だが、食材じたいはだいぶまともな気がする。少なくとも、鍋の色がここまでおかしくなる原因ではないだろう。
 ……ってことは。
 宮地に視線が集まる。


「……いちご牛乳とかパイナップルジュースとかカルピス原液いれた上にケーキぶっ込んだ」
「宮地さんなに入れてんですかあああああ!!!」
「ねえ、宮地ってなんなの?食べ物とか飲み物のありがたみがわからないの??」

 液体類を大量にいれたからか、少しでも揺らせば恐ろしい色の液体が零れてしまうほどなみなみと……。


「ま、あとは森山に全部食わせて俺と伊月はおでん食おうぜ」

 そう言って、コンビニで買ってきたらしいおでんの入った袋を掲げる宮地さんがすごく輝いて見えた。そうか、救世主って宮地さんのことだったんだ……。

「さすが宮地さん先を考えて行動する男……!!」
「待って、俺の分のおでんはないの?マジでないの??」
「は?あるわけねえだろ」

 宮地はおでんを取り出し、伊月に分けてくれた。ありがとうございます、とお礼を言いながら、それを食べる。おいしい。本当においしい。目の前の謎の食べ物のことなんか綺麗さっぱり忘れて、このおでんを食べ続けたい。

「え、ちょ、まじで?宮地と伊月ずるくない?俺本当にこの鍋食べなきゃいけない流れだよね??」

 森山に「頑張れー」と笑顔で応援する宮地は本当に恐ろしいと感じた。
 森山も諦めを感じたようで、静かに箸を持つ。しかし、よほど口に運びたくないのだろう。器によそったものを箸の先で弄んでいる。

「伊月、お前この大根もう一個いるか?」
「あ、ぜひいただきます!」

 こんなやりとりを森山の前で見せつけるようにすれば、森山は羨ましげに視線をこちらに向けてきた。しかし、それにも気づかないふりをしていると、さすがの森山も完全に諦めて、変色した人参を箸で掴んだ。そして、それを口元に……。




「ほら、お前のぶん」
「え?」


 突然話しかけられて驚く森山に、宮地はコンビニの袋を押し付けた。

「用意してなかったんじゃ……」

 呆然としたまま、森山は押し付けられたコンビニの袋を抱える。その様子を見た宮地は照れ臭くなったのか、森山からふい、と視線を外した。

「このメンツで闇鍋なんてしたらまともに食えるもんが出来上がるわけないだろ。全員分買ってきたに決まってる」
「宮地……イケメン抱いて……」
「ごめん俺ホモじゃないから」


 こうして、森山にも笑顔が戻ったのだった。






 結局、食べ物を粗末にしてはいけないということで、おでんを口直しに出来上がった恐ろしい色の鍋を皆でつつくこととなった。






[memo]
2013年最後の日ということで。

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