自覚してないホモな三人組と黒子誕



「何したらいいですかね…」

 大きなため息とともに、項垂れて机の上に頭を置く伊月。そして、そんな伊月のことを悩み顔で見つめる宮地と森山…。

 三人は今、いつしかのようにミスドに来ていた。珍しく伊月が相談がある、ということで、この二人を呼び出したのだ。そして、その悩みとは…。

 「何したらって言われてもなぁ…明日なんだろ、黒子君の誕生日」
 森山の言葉に、「はい…」と返事をして、再びため息をつく。
 
 黒子の誕生日は知っていた。ずいぶん前から。そして、なにかしてあげなくては、ともずっと考えていた。しかし、これといってぴんと来るものが見つからないまま、黒子の誕生日の前日まで来てしまったのだ。

 「誠凛のほかのメンバーとかもなんか黒子にあげたりするんだろ?」
 なんか誠凛って家族みたいな感じだし、と宮地は言って、ドーナツに噛り付いた。
 「はい…。日向とか木吉とか…少なくとも二年生組は、それぞれ違うものをプレゼントするみたいなんですよ。今日、皆各自買いに行くらしいんですけど…マフラーとか、手袋とか」
 「…なんかあげるものがすっげえ彼女とかがあげそうなものだな」
 宮地はひきつった笑みを浮かべる。まぁ、確かにマフラーとかそういうイメージが高いけど。手編みではないから、単純に体を冷やすなよ、という心遣いなのかもしれない。
 「誠凛だから許される感じだねー。もし俺んところで笠松から黄瀬とかにあげてたらなんか…」
 「それ完璧ホモだろ、絶対手作りだろ」
 「だよなぁ、まじ怖い」
 目の前で二人もため息をつく。
 …なんだかとても暗い空気になってしまった。なにか明るくなるような話題は…。
 机の上から頭を離し、上体を起こす。そして、なにか話題がないか、と頭を巡らしていると、宮地が口を開く。
 「っていうか、そこまで誠凛のメンバーみんなが黒子祝いたいって気持ちがあんなら、一気に部活全員でパーティーとかして終わりでよかったんじゃねーの?わざわざ一人ひとりでプレゼントって…」
 確かに、一人ひとりプレゼントを渡す、というのを考えると出費が多い。まだ、皆でパーティーの準備をして、その準備代は二年生だけでも割り勘をしたほうが、一人ひとりの出費は少なくて済む。それに、みんなでわいわいやるのも楽しそう、なのだが。

 「できればそうしたかったんですけど……黒子と火神が用事あるらしくて」
 「それ絶対黒子と火神…」
 そこまで言ったところで森山は口をつぐんだ。…そんな「おっと危ない」みたいな顔してももう遅いですよ森山さんの言いたいことすっごくよく伝わりましたよ。

 「…とにかく、パーティーは無理そうなので、各自でプレゼントを用意することになったんです」
 やはりパーティーをするなら当日の方がいいに決まっている。違う日にわざわざパーティーをするより、その日のうちにプレゼントを形として渡した方が喜んでもらえるだろう。
 「まぁプレゼントってことなら無難に相手の好きなものをあげればいいんじゃないか?」
 森山に言われ、黒子の好きなものを思い浮かべてみたが…。
 「バニラ…シェイク……?」
 「…部活の先輩から、プレゼントって渡されるのがバニラシェイクってなんかシュールだなおい」
 なんというか自分がそんなことをしているのを想像したくない。いや、決してバニラシェイクが駄目ってわけではない、むしろ黒子なら喜んでもらってくれそうなのだが…。
 日向達、マフラーとかだもんなぁ…。
 他の二年生組が、結構お金のかかるプレゼントを渡す中、一人バニラシェイクってどうなのだろうか、と考えてしまう。
 「それに、バニラシェイクなら、なんとなく火神があげてそう…」
 伊月がぽつりというと、他二人は「あー…」と納得の声をあげた。
 「マジバ寄ったあと二人で火神の家直行しそうだな」
 宮地は笑って言うが、笑いごとじゃない。事実だったらどうしよう、と思い、再び机の上に項垂れる。
 「うー…本当にどうしましょう…」
 若干泣きそうになりながら唸っていると、宮地がいつものように頭を撫でてくれた。心地よくて、目を閉じる。と、

 「あっ!!!」

 突然の森山の声に、宮地も伊月も驚き、一瞬固まった。
 そのあとすぐ宮地は伊月の頭の上から手を離し、腕を組んだ。そして、どうせ大したことないんだろ、とでも言いたげに森山を横目で見る。その視線に気づいた森山は、自身ありげな笑みを浮かべた。

 「いいこと思いついちゃった」






 「悪い、ちょっと先に行くわ」
 黒子の誕生日当日。部活が終わって、みんな更衣室で雑談をしながらゆっくり着替えをしている中、伊月一人はいそいそと帰りの支度を進めていた。まだ着替えている部員に申し訳なさげに謝りつつ、急いで更衣室を出た。後ろから、日向や木吉の声がきこえてきたが、今はなにより急がなくてはならない。
 伊月は全速力で走って、校門へと向かった。


 校門に着くと、そこには二つの人影が。
 「す…すいません…待たせてしまいました…」
 呼吸を整えながら、その人影を見上げる。
 「ったく…今日は部活早めに終わったからよかったけどよ…」
 「そう睨むなよ宮地ー」
 宮地と森山はいつもの調子で話していた。
 …なんというか新鮮だな、誠凛の前でこの二人と一緒に待ち合わせって。
 「お忙しい中すいません…」
 伊月がぺこりと謝ると、「いいよいいよ」と森山が笑った。
 「海常は今日部活なかったし。まぁ、もし宮地が部活でこれなかったら、俺と伊月、二人だけでやろうと思ってたんだけどねー?」
 そう言って森山は伊月に抱き着く。さすがに先輩だから反抗はできず、そのまま大人しく森山の腕の中に収まった。
 「…………森山と伊月…お前らやっぱり…」
 「宮地さん変な勘違いやめてください」
 宮地があまりにも目を見開き明らか驚いてます、みたいな表情を向けてきたため、とっさに言い返す。ついでに、「森山さんも離してください」と言って、森山の胸板を軽く押すと、笑って謝りながら離れてくれた。
 「つか、そろそろ行かないとやばくねーか?」
 誠凛の体育館付近を見ながら、宮地はぼそりと呟くように言った。…確かに、微かににぎやかな声が聞こえてきた。もしかしたら、もう更衣室から出てきたのかもしれない。
 「じゃあ、移動しよっか!」
 森山を先頭に、三人は目的地へと歩き出した。





 「なぁ…きたか?」
 「宮地声でかいよ!……たぶんまだ」
 「…まだっていうか、来るかどうかもわからないじゃないですか…」
 小さい声でボソボソとしゃべっているのは、宮地、森山、伊月の三人。
 火神と黒子行きつけのマジバで、テーブル席に座っている。端っこの方で、入口のほうからだと死角になっている。
そして、三人は隠れるようにしながら、入口を見続けた。…とは言っても、主に入口の様子を確認しているのは森山だけだったが。
 「っていうか、なんで俺にだけ見張り任せて、二人はそんな端っこで縮こまってるわけ?!」
 訴えるように言われるが…なんというか。
 「当たり前だろ!!こんな格好でこそこそと不審な動きしてたら目立つだろ!!」
 宮地はそういうが。
 宮地さん、不審な動きしなくてもこの格好してる時点で目立ちますよ…。
 恥ずかしさで涙が出てきそうだ。近くのお客さんからの視線が刺さる。とにかく近くに小さな子供がいなかったことに安心する。子供に大きな声で指指されたりなんかしたら…大注目を浴びること間違いなしだ。
 
 伊月は改めて自分の格好を見る。…見る限り黒のもこもこ。そして、自分の腰あたりを見れば、黒くて長い、しっぽのようなものが…。
 今伊月が着ているのは、女の子が着るような、動物風のパジャマだ。ちなみに、伊月は黒猫である。頭にフードもかぶっていて、それには猫耳もついている。
 なんていうか…知り合いに見られたくない…。
 そう思って椅子の上に体育座りをする。本当に恥ずかしい…。

 横をチラリと見れば、猫耳つきの黄土色に包まれる宮地も、190を超えるその体をなんとか縮こませていた。知り合いに見られたくないという気持ちは同じらしい。
 …っていうかノリノリなのって森山さんだけじゃん!
 森山を見ると、たまたま目が合ってしまった。とても素敵な笑顔で手を振られた。やっぱりノリノリだこの人…。
 
 そんな森山の格好は、というと、白い猫。伊月と宮地は自分の髪の毛の色に近いものを着ているのに対し、森山はなぜ白を着ているのか…。それを尋ねると「俺の心が真っ白だからね」という謎の回答が返ってきた。全く意味がわからない。


 「あ、入ってくるよ!」

 森山の突然の報告に緊張が走る。伊月は机の上の、綺麗に包装されたものを手に取った。
 喜んでくれる、かな…。
 不安に思い、それを軽く抱き締める。
 中には、今伊月たちが着ているような、動物風パジャマ、白いうさぎのパジャマが入っている。
 昨日、三人で一緒にプレゼントを選ぶとき、黒子のイメージに一番合う、ということでうさぎが選ばれたのだ。…その時、森山が「絶対火神、うさぎな黒子のこと…」と笑っていたが、きかなかったことに。

 「…二人とも席に着いたね。そろそろ行くか」

 楽しそうな笑みを浮かべる森山に半ば呆れつつ、椅子から立ち上がる。隣の宮地も立ち上がり、その顔を見ればなにか吹っ切れたような表情をしていることがわかった。…なんだか宮地さん、吹っ切れると逆にいろいろやりだしそうで怖い。
 宮地に「頑張りましょうね」と小声で言うと、「おう!」と張り切った声が返ってきた。なんだこの元気さは。怖いです宮地さん。


 森山を先頭に、屈みながら黒子たちの席に近づく。
 火神は、山ほどのハンバーガーを前に、次々とそれを頬張っていった。そして、それを見ながら静かにバニラシェイクを吸う黒子…。
 なんだかいつもと同じ感じだなあ…。
 まあ二人らしいけど、と二人の様子を見ていて思わず笑みがこぼれる。

 「じゃあ3、2、1でいくぞ」
 黒子たちのすぐ近くまでくると、森山がさっき以上に小さい声で言ってきた。その言葉に、伊月と宮地は無言で頷く。森山がもう一度頷いたところで、カウントダウンが始まる。

 3…2…1…!!




 「黒子、誕生日おめでとう!!」



 三人で、黒子たちの座る席の前に来て、声をそろえてそう言った。
 …まあ予想はしていたが、黒子と、さらに火神までもがこちらを見てぽかーんと口を開けたまま固まる。
 …なんというか…この沈黙耐えられない…!
 リアクションがないときつい。
 しばらく静かな時間が過ぎた。

 と、火神が。
 「どうしたんだ、ですか…?先輩…それに、海常と秀徳の…」
 「えと、黒子の誕生日を祝おうかな…みたいな」
 そう答えたが火神の訊きたいのはそんなことではないだろう。恐らく、なぜそんな格好をしているのか、ということを…。
 
 「伊月、なんかサービスは?」
 隣からボソッと森山が耳元で囁く。サービスってなんだ。
 「せっかく猫の格好してんだから」
 な?と宮地までのってきた。二人ともこういうときだけ息合うんだから…!
 もはや諦めつつ、サービスについて考える。
 うーん…一個思いついたけど…これがサービスになるかはわからない。
 隣を見れば、森山が「いっちゃえいっちゃえ!」と言ってくる。
 あーもう…!!


 「黒子、誕生日プレゼント、よかったら、家で着てみてほしい…………にゃー…?」



 プレゼントを固まったままの黒子に差し出しながら、そう、言った。
 両わきにいる森山と宮地が肩を震わせて、笑いをこらえようとしているのが見えた。…しょうがないじゃんかこれしか浮かばなかったんだから…!!
 サービス、というより、自分が恥ずかしい思いをしただけのような気もするが…。


 「…ありがとうございます、先輩」



 …まあ黒子の笑顔が見れたし、森山さんたちには感謝しないとな。








 「先輩方三人でそこに並んでいただけますか?」
 「…黒子なんで携帯構えてるんだ」
 「あれ先輩、にゃー、は?」
 「…………」
 「伊月の後輩鬼畜」






[memo]
黒子誕2013

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