自覚してないホモな三人組


「ひやひんひっへはあ」

「人語しゃべってくれますか森山さん」
 そう言うと森山はゆっくり口のなかに残っていたみかんを飲み込んだ。

「あのさ、宮地ん家ってこたつないの?」
 森山の言葉に、みかんをたくさん口に入れた宮地の動きが止まる。っていうか宮地さんどんだけ口のなかにつめてるんだ?リスみたいになってる…。

「ほうひえあ」
「宮地さんも落ち着いて食べ終わってからしゃべってください」
 全く…森山さんも宮地さんも似た者同士だなあ…。
 微笑ましく感じながら、みかんをもきゅもきゅと食べる宮地の様子を見つめる。

 今、伊月と森山は、宮地の家に来ている。三人でいつものようにネットの掲示板で話していたら、話の流れで、宮地の家に行こう、ということになったのだ。宮地も最初は乗り気ではなかったが、森山の強い押しに負け、オーケーをだしてくれた。
 …たぶん森山があまりにも可愛い顔文字をたくさん使ってきたからだと思うが。文末に泣いた顔の顔文字が毎回ついていて、それがあまりに可愛らしくて憎めない。良心が痛む、というか。恐らく宮地はそれが理由で折れたのだろう。

「そういえば出してなかったな、こたつ」
 みかんを全て飲み込んだらしき宮地はぼそりと答えた。
「え、なんでださないんだよ!」
 森山は「もったいない!」と机をばんっとたたく。それに対し宮地は眉間にしわを寄せた。
「森山ん家はあるのか?こたつ」
「ないよー。あったら宮地の家に来てないし。自分の家でこたつでぬくぬくしてるー」
 森山さんは一体宮地さんをなんだと思って…。
 どうやら森山が宮地の家に来た目的はこたつだったようだ。

「あ、そういえば、俺の家も出してないかも」
 ふと思い出した。そういえば今年は出してない。
「あれ、伊月ってお姉さんとかいるよね?」
「はい、あと妹もいます」
 そう答えると森山は深刻そうな顔をした。…なにかやばいことでもしたのか俺。

「女の人が多いなら、体冷やしたらよくないし、こたつ出したほうがいいんじゃないの?」
 …真剣な顔でなにを言うのかと思ったら。
 女性が関わると、途端に真剣に話し出す森山。これだから残念なイケメンだと言われるのだろう。顔はかっこいいのに。

 伊月はため息を一つついて、「俺はこたつだしたかったんですよ」ともらした。
「でも女性陣全員がなぜか今年は出したくないって」
 とは言っても、理由は知っている。単に去年の冬休み、こたつを出したら、みんなこたつの中で毎日過ごしてしまって。冬休みの最後あたりに課題をやっていなかったことに気付き、徹夜で課題を終わらせる…ということがあったのだ。そのことに対し、母親も、そして姉、妹さえも「こたつはよくない」と口を揃えて言うようになったのだ。
 俺はこたつ使いたいのになあ…。
 伊月じたいは課題も早めにこなし、部活にも必死に取り組んでいたので、全く関係なかった。
 伊月はもう一度、深くため息をつく。

「詳しいことはわかんねーけど…なんかあったみたいだな」
 落ち込む伊月の頭をぽんぽんと優しく撫でる宮地。伊月は「うー…」と唸る。と、

「なんて可哀想な伊月くんなんだ!!」

 突然森山が大声でそう言い、立ち上がった。…若干棒読みっぽかったが、まあ気にしないでおこう。
 森山の突然の行動に、伊月も宮地も呆気にとられた。

「…は?なんだよ突然」
「だから、こたつ出そう!なっ、宮地!!」

 今からピクニックにでも行くのかと訊きたくなるくらいのハイテンションで森山は宮地の肩をぽんとたたいた。一方宮地はぽかーんとしていたが。
 
 しばしの間があったあと、宮地ははっとする。
「なんでそうなったんだよおい!」
「だから伊月が可哀想だから…」
「いやいやなんでそれが俺の家のこたつを出すことに繋がるんだよ!?」
 宮地は「めんどくせーから嫌だ!」と強く言う。
 あー、また始まったなぁ、二人の喧嘩。
 伊月は二人の様子をぼーっと見ながら、新しくみかんに手をつける。いつものことだから、喧嘩を止めようとは思わない。

「つか宮地、今年ずっと出さないの?こたつ」
「あ?今年は去年ほど寒くねーだろ」
 確かに去年のこの時期はすでに寒かった。マフラーと手袋なしでは外に出られないほどに。しかし、今はまだそれらなしにも家を出られるほどの寒さだ。
 …でもさすがに来週とかには少しずつ寒くなってくるんじゃないかな…。
 伊月はふとそう考えた。

「宮地さん、よければこたつ出すの手伝いましょうか?」
「え?」

 伊月がそう言うと、ずっとギャーギャー言い合っていた二人の動きが止まる。
 決して森山さんの味方をしたいとかそういうことじゃなくて、自分の家ではこたつを堪能できないから宮地さんの家で堪能しようと思っただけだ!!
 そこまで心の中で呟いて、これでは森山と似た者同士だと感じ、苦笑したくなる。

「伊月ナイスアイディア!!」
 森山は舌をぺろりとだして、手をグーにしてその親指を上にたてる、というポーズでこちらを見てきた。なんかすごく親指をへし折ってやりたくなるくらいのうざさだ。

 ちなみに、「ナイスじゃないっすか!」って言おうとしたら、宮地からじと目で見られた。ダジャレを言おうとしているのを先読みされたらしい。言いたかったのに…。

「きっと森山さんも手伝ってくれるでしょうし…どうですかね?」
 森山が「え」と声をあげたのはきこえなかったことにしておくとして。
 宮地を控えめぎみに見上げると、その表情が固まる。その後、ぱっと目をそらされ。
「ったく、しょーがねーな…」
 宮地の言葉を聞き、伊月と森山は小さく二人でハイタッチをした。







「あれ、森山さんは?」
 こたつの準備が終わり、電源も入れ、中が温まるのを待っていたのだが。気付けば森山が姿を消していた。
「つかあいつ、こたつの準備始めたときにはすでにいなかったような…」
 え、森山さんまさか逃げた…!?
 どんだけこたつの準備やりたくなかったんだ…。
 森山の行動に少し呆れた。もしや最初から準備するつもりはなかったのか、とため息をつく。

「まぁ、しばらくすればでてくんだろ。そん時はぜってー刺す」
 宮地の言葉に現実味が帯びていて怖い。今いるのが宮地の家だからだろうか。笑顔で恐ろしいものを取り出してきてもおかしくない…気がする。
 背筋がゾッとするのを感じながら、「落ち着いてください」と声をかける。本当に落ち着いてほしい。

「あー、じゃあお茶かなんかいれてくるわ。伊月はこたつに足突っ込んでていいぞ」
 まだ温まってないと思うけど、と付け足す宮地の背中に返事をして、改めてこたつを見る。

 …宮地さんいつも冬はこのこたつに入ってるのか…。
 なんというか、見た目がもこもこしていて可愛らしいこたつ。これに入って宮地もぬくぬくと温まっているのかと思うと、その姿が可愛く思えてきて、つい笑いそうになる。


 じゃあ宮地さんには悪いけど、先に失礼させていただこうかな。
 伊月はその場に座り、足をこたつの中にいれた。
 …確かにまだ完璧には温まってないけど、少しずつ温まってきて…。

「うわああっ?!」

 足を伸ばそうとしたら、何かとぶつかった。
 こたつの中になにかいる…!
 ほぼ反射的にこたつの中をのぞきこむと。

「森山さんなにやってるんですか!!」
 丸くなってこたつの中に収まる森山がいた。
 …いや、なんとなく足入れた瞬間にまさかなとは思っていたけど!
 
「んー?…伊月かぁー」
 森山が顔をあげて、にこりと笑った。

「なんか伊月と宮地がめっちゃイチャイチャしながらこたつの準備してたからさー。邪魔しちゃ悪いかなって」
「イチャイチャってなんですかそんなことしてないです」
 申し訳なさそうな表情で森山は言ってくるが、言っていることがよくわからない。人語をしゃべってくれ人語を。
「えーしてたじゃんかー」とぶつぶつ言いながら、のそのそとこたつの中から森山が出てきた。そして、伊月の隣にピタリとくっつき、伊月をニヤニヤとした顔で見てきた。
「で?実際のところは?」
「そろそろ殴っていいですか?」
 笑顔で言うと森山は「宮地みたいになってきてるよ!」と爆笑してくる。森山さんの笑いのツボがわからない。

「森山の声が聞こえてきたから刺そうかと思ったんだけど…お前らなんでそんなにくっついてんの?ホモ?」
「宮地さんまでやめてください」
 突然現れた宮地を見ると、宮地の手にはおぼんがあった。そしてその上にはしっかり湯のみが3つ置いてある。 刺すとか言っておいて、しっかり森山さんのぶんまで用意しているあたりが宮地さんらしい。

「森山いつからこたつん中いたんだよ…」
 そう言いながら宮地は湯のみを机の上に置いてくれた。森山には「伊月がせまくなるだろ」と言って、伊月から少し離れたところに森山のための湯のみを置く。ありがとうございます宮地さん…!

 宮地は伊月のちょうど向かい側に座り、お茶をすすった。
「宮地達、こたつの準備してるとき、めっちゃ爽やかに笑い合ってたじゃん」
「爽やかってなんだよ」
 宮地は意味わかんねー、と面倒くさそうにつぶやく。

「…森山さん、ぼっちになったから不貞腐れてこたつの中に入ってたんですか?」
「ぼっち言わないでよ傷つく」

 だって事実じゃないですか。

 そう口に出そうとすると、突然足にひやっとしたものが触れた。
 思わず身体中を一度びくりと震わせると、正面にいた宮地が「あ」と声をもらした。
「わりぃ、足あたった」
「あ、大丈夫です!」
 どうやら宮地の足だったらしい。それにしても冷たすぎる。

「…足冷えてますね」
 大丈夫ですか?と尋ねれば、こたつでまあなんとか、と返答してきた。


 そんな宮地が、突然、なにか思い付いたとでも言うように、楽しげな笑みを浮かべた。
 …嫌な予感がする。
 とっさに自分の足をこたつの中から出そうとしたが間に合わず。

「ひゃっ…!」

 足が冷たいものに包まれる。どうやら宮地が自らの足を伊月の足に思いっきり押し付けているらしい。
 冷たい冷たい冷たい…!

「宮地さんっ!ちょっ…」

 やめてください、と言おうとすると、隣から「うわー」という声がした。
 …忘れてた。森山さんが隣に…。

 
「こたつの中でなにやってんの?卑猥だよ」

 


 
 そのあと、森山の叫び声が宮地の家中に響き渡った。






[memo]
こたつの時期だったので。

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