自覚してないホモな三人組


 「あれ、森山さん、まだきてないんですか?」

 伊月は驚いたように目を見開いた。それもそのはず。なんて言ったって、あの彼女常時募集の森山だ。女の子との待ち合わせなら少なくとも一時間前には来ていそうだ。…まあ悪魔で伊月の勝手なイメージだが。
 なにかあったのかな…一応待ち合わせの時間までまだあと2分はあるけど。
 少し心配になって、時計を見つめていると、頭をぽかりと軽く叩かれた。ちょっと痛い。
 「お前がそわそわしたってしかたねーよ。時間過ぎたらメールでもなんでもやり取りすればなんとかなるだろ」
 そう言ってため息をついたのは宮地。宮地はポケットに手を突っ込みながら、目の前を通りすぎていく人混みを見つめる。
 まあ、宮地さんの言う通りか…。
 伊月は「そうですね」と言って、宮地と同じように人の流れを見つめる。
 
 「そういえば、」
 しばしあった沈黙が宮地によって破られた。
 「今日用事あるって最初言ってた気がするけど…大丈夫だったのか?」
 宮地は視線だけ伊月に向け、そう問いかけた。
 そう、最初に森山と宮地に遊びの話を持ちかけられたとき、すでに別の用事が入っていたのだ。…さすがに部活ではない。もともとあった用事とは、日向やリコと一緒に買い物に行くことだった。まあ、わかるだろうが、バスケに必要な用品を買うだけだ。
 「あぁ、大丈夫ですよ。むしろ行ってこいって言われちゃいましたよ」
 伊月は笑いながらそう答える。
 カントクなんか、めっちゃにこやかに「役に立ちそうな情報手に入れてきてね」なんて、最後にハートマークがつきそうなくらいの元気さで言ってきた。
 全く、カントクは人をなんだと…。
 思い出して苦笑する。もちろん今日伊月は純粋に三人で遊ぶためにきた。なんの情報もなしに手ぶらで帰ったらカントクに怒られそうだが…なにか情報はないかと観察しながら遊ぶのも二人に失礼だ。まあ、普段のメニューが2倍になるだけだから我慢を…。
 あれが2倍になると思うと寒気が。
 「…伊月顔色悪くね?大丈夫か?」
 「あ、いえ!大丈夫です…ありがとうございます」
 少しの変化にも気がついてくれる宮地に、にこりと微笑みかける。宮地さんはたまに口が悪いけど…根はすごくいい人だ。

 「あー、そろそろ電話でもかけるか?もしかしたら待ち合わせ場所勘違いしてんのかもしんねーし」
 宮地はそう言って携帯を開いた。
 時計を見ると、針は待ち合わせの時間を過ぎたことを示している。
 …まあ確かに…すごく中途半端な場所だもんなあ、ここ。
 待ち合わせ場所を決めたのは宮地で、場所についてのメールを送ったのも宮地だ。しかし場所じたいの説明が短く、情報も少なすぎた。
 俺がここで宮地さんと会えたのもある意味奇跡みたいなものだし。
 会えてよかったと安堵のため息をつく。

 ちなみに、宮地からの一斉送信のメールは。「東京駅の近くのコンビニに一時に集合」というとてもシンプルなものだった。
 まずこのメールの指すコンビニがどこか全く伝わってこない。駅の近くにコンビニなんてたくさんあるだろう。
 これは森山さんが迷っていても仕方ないよな…。
 そう思いながら、携帯を耳に当てる宮地の様子を見つめる。少ししたあと、宮地は「もしもし、森山?」と口を開いた。どうやらちゃんと電話が繋がったようだ。伊月が宮地の電話の様子をじっと見ていると、それに気付いた宮地は「あんまり見るな」とでも言いたげに伊月の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 宮地はしばらくすると「わかった、伊月と行くわ」と言って通話終了ボタンを押す。
 「森山さん、なんて言ってました?」
 そう訊くと、はあ、とため息をつき、心底面倒くさそうな顔をした。
 なんだか面倒なことになってそう…。
 「なんか知んねーけど、今、ミスドにいるんだってよ」
 「なにをどうしたらそうなったんですか」
 他のコンビニにいるとかならわかる。なんでミスドなんだ。全然ものが違うじゃんか!
 「…それで、俺達がそこに向かう、と?」
 「あぁ、なんかすでに買って食べてるらしい」
 なんで森山さん一人でのんきに食べてるんですか最初に心配した俺が馬鹿みたいだ…。
 横で「森山のやつあとでぜってー轢く」とイライラしている宮地を宥めながら、森山のいるミスドへと向かった。



 「あぁ、待ったよ二人とも」
 ミスドの一番端っこの四人席のところで森山が爽やかな笑みを浮かべながら手を振ってきた。…そして、それを見て宮地の口の端がヒクヒクしているのがわかった。
 宮地さん相当イライラしてる…。
 思わず苦笑。
 「ハッハー。人をわざわざこっちまで呼んでおいてその態度はないだろオーイ?」
 その表情は笑顔だが…なんというか、怖い。
 「だって宮地の言うコンビニよくわからなかったんだもん」
 「もん、じゃねーよ、もん、じゃ。可愛くねーつかキモい」
 宮地はそう言いながら、森山の向かい側の椅子を引いて座る。それに続いて伊月も宮地の隣に座った。
 
 「でも森山さん、もし相手が女の子だったら、突然待ち合わせ場所変更したりしませんよね?」
 相手が男だから、別にいっか、と思って勝手に変えたのでは、と伊月は考える。森山さんならありえなくもない話だ。
 「いや、俺だったら一番最初の待ち合わせ場所を提供する時点で、わかりやすく説明して…」
 「わかりにくい説明で悪かったなあ森山君よぉ?」
 今にも喧嘩に発展しそうな二人にため息をつき、伊月は席を立ち上がる。
 
 「とりあえずなにかドーナツ買ってきます」
 そう言うと宮地も「あ、俺も」と立ち上がり、二人でドーナツを選びにいく。
 席に残された森山を振り替えると、あらかじめ買っていたドーナツを食べ始めていた。…森山さん何個ドーナツ買ったんだろう、すごいたくさん置いてある…。

 伊月と宮地はそれぞれ好きな種類のドーナツを3つずつトレーに乗せ、会計を済ませた。
 「あ、宮地さん、チョコのやつ買ったんですか?」
 宮地の購入したドーナツを見ると、チョコレートでコーティングされたものがあった。伊月が食べようか悩んでいたものである。
 宮地は伊月の気持ちに気付いたのか、少し笑った。
 「あとで一口食べるか?」
 「いいんですか!?ありがとうございます!」
 二人でそんな会話をしながら席に戻ると、森山がこちらをじっと見つめてきた。

 「…なんなのお前らホモなの?」
 
 ポツリと発せられた森山の言葉は、二人の耳にしっかり入っていた。

 「森山くんはなに言ってんのかなあ?あまりふざけたことばっか言ってっと轢くぞ」
 「ドーナツ一口もらう約束のどこにそんな要素があったんですか!」
 宮地と伊月でそう反論すると、森山は手に持っていた食べかけのドーナツを皿に置いた。
 「俺の気持ちになってみろよ?一人席に置いてかれて、二人で仲良くドーナツ買いに行ったと思ったらさ」
 ふう、とため息をついて、呆れたような笑みを浮かべる。
 「二人肩が触れ合う距離で笑い合って?ドーナツ一口あげる約束?ただのホモじゃん」
 「お前の目が腐ってんだろパイナップル投げんぞ?」
 そう言って森山の頭をガシりと手のひらでつかむ宮地。「痛い痛い」と喚く森山に楽しそうな笑みを向けている。
 むしろ森山さんと宮地さんのほうがホモってる…てか喧嘩ップルみたいな。
 伊月はそう思ったが、口に出したら自分も被害に合うと感じて、心の中にしまった。
 っていうか…俺と宮地さん…そんなに距離近かったっけ…?
 ふと思い出して考えると、確かに、と思ってしまう。森山さんだけじゃなくてほかの人にもそう思われてたらなんか…。
 少し顔が熱くなったが、自分になんとか「そんなことはない」と言い聞かせて、熱をひかせた。

 「…二人とも、店内で騒がしくしすぎると追い出されますよ?」
 とりあえずこれ以上喧嘩がひどくならないように声をかける。するとさすがの二人も少しは冷静になり、椅子に座って、ドーナツに手をつけ始めた。
 まったく…もし森山さんと宮地さんが同じ学校だったら、ずっと喧嘩してそう…。
 毎回喧嘩止めるのは大変そうだろうなあ、と考えながら、ドーナツにかじりつく。

 「…伊月、ほらよ」
 さっきの森山の発言があってか、ちょっとぶっきらぼうにドーナツを一欠片隣から差し出してきた宮地。その様子を見て、クスッと笑ってから「ありがとうございます」とそれを受け取った。
 あんなこと言われても、ちゃんと約束通りにくれるのも宮地さんのいいところだよなあ。
 
 そんなことを思っていると、また森山から視線を感じる。もうなんなんだ森山さんはっ!

 「今度はなんですか、森山さん?」
 宮地からもらったドーナツを口の中に放り込みながら尋ねると、森山はムスッとしたまま机に顎を乗せた。

 「……伊月、そのドーナツ一口」
 伊月の買ったイチゴチョコレートのかかったドーナツが指差される。
 そんな森山を見て、つい笑いそうになってしまう。
 本当は森山さんも交換とかしたかったのか…なんか可愛い。

 「良いですよ」
そう言って森山の希望するドーナツを一口大に千切る。すると隣の宮地がここぞとばかりにニヤニヤして森山をからかいだした。
 「あっれー森山くん、そんなにたくさんドーナツ買ったのに人のも食べるのかよー?」
 森山の目の前の皿に乗る、十数個のドーナツを見てからそう言うと森山は余裕そうに鼻で笑った。
 「伊月の買った種類は買わなかったから一口味見するだけだろ?それに余ったら持ち帰るから大丈夫だ」
 ドヤ顔で言う森山に宮地はチッと舌打ち。宮地さん…なんというかドンマイです…。

 「はい、森山さん」
 森山に一口大に千切ったドーナツを持った右手を近づける。
 「ありがとう、伊月」
 森山はそう微笑むと。


 「うぁっ…!ちょ、森山さん!?」

 ドーナツと共に、伊月の親指と人差し指も口に含んだ。

 「んっ…ちょっ…!!」

 やわらかくて温かい感覚が指に。びくりと肩が震える。
 
 が、そのまま指を一舐めして、すぐに指が解放された。


 
 「ごちそうさま」

 森山はそう言ってニヤりと笑う。

 「え、あ、ちょ、へっ!?」

 混乱した伊月の横で宮地はボソリと呟いた。
 





 「…なんなのお前らホモなの?」








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