「おかえりなさい」
「おう。ただいま」
インターホンが鳴るのをきき、ドアを開ければ、愛しい人の姿が現れた。いつもと同じやりとりを笑顔で交わす。
「んじゃ、早く寝ろよ」
「うん、おやすみなさい。」
寝室へ向かうために花宮に一度背を向ける。そして、少し振り返り。
「花宮、愛してるよ」
「俺も愛してる……なぁんて言うわけねぇだろバァカ」
早く寝ろ、と背中を軽く押されて、笑いながら足を進めるのもいつものことである。
彼は付き合い始めてから一度もこちらに向けて「好き」や「愛してる」と言ってくれたことがない。言ったとしても最後にはお決まりの「なんて言うわけねえだろバァカ」。その最後の一言で愛の言葉はいとも簡単に否定されてしまう。
それが悲しくなかったと言えば嘘になる。
もちろん、こうして同棲することができている、ということは、少なからず好意は持ってくれているのだろう。
でも。例え、そうだと頭ではわかっていても。
言葉が欲しい。
そう思ってしまうのは女々し過ぎるだろうか。
そんなことを考えながら最初過ごしていたわけだが。
今は。
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