text | ナノ


愛してる、愛してるよ。

呪文のように私の耳元で囁く彼の声が、確実に私の精神を蝕んでいく。そんな言葉、適当に頭の隅から引っ張り出してきただけのくせに。色情をも周囲への好感度を上げる為の道具にするなんて、本当に歪んでいる。


「ええ、私もよ」


私が彼の頬にキスを落とせば、彼は私の髪を愛おしそうに、本当に愛おしそうに撫でるのだ。

これが演技だなんて、一体どれくらいの人間が気付くのだろうか。こうして彼の小芝居に付き合わされている私でさえ、不意に彼の言葉に惑わされる事が少なくないのに。


「ミョウジさんはリドル君に好かれていて、本当に羨ましいわ」


この役回りが欲しいのならば、喜んで譲ってみせよう。彼に触れる事も儘ならぬその微妙な距離が彼女自身を救っている事に気付いていないとは、なんと滑稽な事だろうか。

表面だけの彼を慕い尊び慈しみ、家柄と成績が割と良いという理由だけで彼の傍に立つ事を許される私を憎む事が、どれ程恵まれているのかを気付いていないのだ。






「ミョウジ、僕と付き合ってくれないかな」


あの時、肯定以外の返事は許さない、と暗に明言しているような彼の口調に、私はしっかり頷いた。

それは決して彼の瞳の赤い光に怖じけづいただとか、彼がローブの下でひっそりと杖を構えていたのに気付いたからだとかそういった理由ではなくて、


「私はずっと、リドル君が、好きでした」


他の女子と同じように、私も彼に淡いコイゴコロとかいうやつを抱いていたからだった。




彼の隣で甘い言葉を囁きあう私達は、さながら仲の良い恋人同士のように見えるのだろう。私を恨めしそうに見つめる女子の視線が幾つも幾つも突き刺さる。


(この役回りが欲しいのならば、喜んで譲ってみせよう。彼に触れる事も儘ならぬその微妙な距離が彼女自身を救っている事に気付いていないとは、なんと滑稽な事だろうか。)


心の内で何度も彼女達を羨みながら私は彼女達に向かって幸せそうに、ふわりと微笑んでやる。

彼とのこの歪んだ関係が体裁を保つだけのものだとしても、私がそこいらの少女達に勝利し、選ばれた事は事実なのだ。


言葉の矛と笑顔の盾