「リドル、痛いわ」
あたりは薄暗くて、とても息のしづらい空間だった。本当なら居心地のいい自宅のはずなのに。
私の右手からは血が流れ、その血が徐々に彼の足元を埋めてゆく。この血も全て彼のせいだ。彼が私に流させた血なのだ。その彼を見上げると、杖をポケットにしまい、もう何もしないと言わんばかりの笑顔だった。
遠くで両親が倒れている姿が視界に入る。皆で食べるはずだったケーキも、傍にあった。
「ナマエは、綺麗だよね」
彼はそう言うと肩膝をつき、こつんと額をあわす。こんな可愛い仕草も、状況のせいで台無しだ。きっとこの状況じゃなければ、青春のように素敵だっただろう。
青春なんて歳じゃないか。
近距離で視線が交わると、血を指ですくい、私の唇へと運んだ。ああ、なんて血なまぐさい。
「おかしいわ…」
掠れた声をあげると、赤い目はさらに狂喜に染まった。私は死んでしまうかもしれない。こんな関係、止めてしまいたいのに。普通に愛していたいのに。もう普通には愛せない。
貴方が止めればすむことなのに。
でも、普通になんて彼にはできなかった。愛を知らないから。受け入れていないから。
前までの私なら、彼を変えられるかも、なんて馬鹿なことを考えてたものね。結果がこれよ、遠めに見える亡骸をよく見て御覧なさい。…変わってしまったのは自分だわ。だって、今も、
「こういう愛情表現嫌いじゃないだろ?」
「悪趣味」
「じゃあ君も悪趣味なんだよ」
ああ、彼に隠しごとはできない。胸にずしん、と鉛がおちるような感覚。図星というやつだ。
だって、ちょっとだけ嬉しい自分がいるの。心地いいの、優越感に浸れるの。こんなことするのも、私だけでしょう?貴方からの痛みなら私は嬉しいのよ。それがただの自己満足だとしても。
そんな中にも普通を望む自分がいて、苦しいけど。
私が病めればすむことなのね。
「誕生日おめでとう」
「…有難う」
「プレゼントは楽しんでもらえた?」
赤い目は部屋を見渡し、倒れてる両親に目をむける。
バースデーケーキはまだ手つかずだ。
私は小さく頷いた。
ああ、この狂喜で私が
早く病めればいいのに
(20回目の)(今日は真っ赤でした)