以前は何事にも無関心な彼が嫌だった。
告白したのは私からで、それを彼が受けてくれて、そうして関係が始まって、なのに彼は全く私に無関心で。私の思う交際とは全然違う。
例えば私から誘わないと彼からは全く声すらかけてくれなくて、私が他の男の子といようと知らんぷりで。
「もうちょっとくらい私に興味持ってくれたっていいんじゃないの。私のこと好きなら少しくらい態度に出してよ」
好きじゃないなら、それはそれでもうかまわないから。痺れを切らした私は、もう別れると言われたって構わないくらい自棄になっていた。
こんなふうに扱われるくらいなら、付き合う前のほうがずっとまし。面倒だと言われようが構わない、別れるならいっそ別れてしまえばいいと、そんなつもりで。
「……いいの?」
微笑んだ彼の表情はどこか恐ろしくて、返って言葉はいまいち意味が掴めなくて。
黙ってしまった私を肯定と受け止めたのか、彼は私をきつく抱きしめた。初めての抱擁は苦しくて少し痛いくらいだった。
それはそれからの私たちを暗示していたのかもしれない。別れる覚悟ができていたなら、いっそ、あの時に終わらせてしまえばよかった。
それからの彼は私の行動を何もかも制限するようになった。ひょっとしたら思考すらも。
僕以外のことを考えちゃダメだなんて言って、私が誰かにうっかりぶつかりでもしようものならナマエが汚れたとすら言う。もちろん私が自分から誰かに触れるなど以っての外だ。
「私、こんなのを望んでたわけじゃない」
もうノイローゼになりそう。頭がおかしくなりそう。
「わがままだね、ナマエは。でもそんなところも愛しくてたまらないよ」
その言葉も一緒に贈られた頬への口づけも、以前だったならどんなに嬉しかったろう。
けれど今では、彼からの愛情と呼ぶべきか迷うほどの重苦しい感情が、怖くて仕方ない。
「もうやめてよ」
「僕が、嫌い?」
「好きだよ。好き、だけど、私」
「好き?好き、ねぇ。ほんとに?僕はこんなにもナマエを想っているのに、ちっとも感情が釣り合わないね。以前だってどれだけ僕が我慢していたことか、ねぇ、知らないだろう?」
私に対して無関心を装っていたのは、それでだって言うの。おかしい。そんなのおかしいよ。
「ナマエは僕を自分だけのものにしたいとは思わないの?僕を殺したいと思ったことはないの?」
「そんな、こと……」
口ごもる私に、彼は微笑んだ。
「無いだろうね。あーあ、僕はこんなにナマエを愛してるのに」
「……そんなの、愛じゃない」
「酷いな」
喉を鳴らすように笑って、私を抱きしめた。彼の抱擁はいつだってきつすぎる。
「ナマエにとってそうでなくても、それでも僕の愛はこういう形なんだ。僕の愛を望んだのはナマエだろう?もう離さないよ」
愛してる。
唇への口づけはまるで死刑宣告みたいに冷たかった。
それでも僕は好きだからね