私は嫉妬深い人間だが、スカビオールはそれ以上に嫉妬深い人間だった。
あの頃はダンブルドアが死に、例のあの人の力が更に増してきた頃だった。
スカビオールは血統もしっかりしていて、腕も立つため人さらいのリーダーとして暗躍して魔法省からも重宝されていた。
打って変わって私は小さい頃に両親が死んで親戚中をたらい回しにされていたため血統書も発行してもらうことはおろか、尋問に出廷しない魔女として指名手配されてしまった。
それからは同棲している家に閉じこもる日々を過ごした。
そんな中でもスカビオールは暢気なもので、気が詰まるような生活をしている私をよそに毎回違う女を連れ込んでは行為に及んでいた。
それも私よりも美人な女ならまだしも中途半端な物ばかり。
品がなく、美しくもない、厚化粧の女たち。
殺してしまいたいと思うほどだった。
自分への当てつけだとわかっていても気が滅入っていた私は、そんな日々から逃げ出すように少ない荷物を持って家を飛び出した。
行く宛が在るはずもなく、思いついた場所に姿現ししてはカフェで時間をつぶしていた。
マグルは愚かなもので、命の危機がすぐそこにあるのに気が付こうともしない。
私は何ヶ月も家から出ずに辛い生活をしていたのがバカバカしくなった。
夜は適当に男を捕まえて泊めてもらった。
マグルなんて錯乱魔法をかけてしまえばすべてこちらの物だ。
そんな生活が1ヶ月ほど過ぎたある日、夜中に来客があった。
午前三時を廻った頃だ。
時間も時間だ。
怪しいと思って泊めてもらっていた家の男がドアを開けに行った。
刹那、緑の閃光がはしりソレは横たわっていた。
ドアの向こうに見えたのは大層ご立腹の様子のスカビオールとお仲間の面々。
怒ったスカビオールが何だかとても滑稽で私はつい笑ってしまった。
彼は怪訝そうに惨い隈の目で睨んだ。
「あの男は誰だ」
「さぁ?」
はぐらかすように言った。
実際、私はあの男のことをよく知らない。
冬の寒さをしのげる場所が在れば良いだけだったので、名前なんて聞かずにすぐに錯乱魔法をかけていたからだ。
どうやらスカビオールは私の返答が気に入らなかったらしく、腕をつかんで自分の元に引き寄せた。
喉に突きつけられた杖にゴクリと唾を飲む。
杖が触れた場所からはまるでナイフがあたったかのように血が流れ出していた。
ペロリとその血を舐めとると息が掛かるほどの距離で耳元に話しかけた。
「もう一度聞く、あの男は誰だ?」
「本当に知らないわよ、そんなの。ただ泊まる場所借りてただけなんだから」
そう言って意地悪く微笑んで見せた。
スカビオールは長い髪をいじって考えを巡らせているようだ。
どうやら私と男が深い関係にあったと思っていたらしい。
夜にベッドをともにすれば誰だってそう考えるかもしれないが、私は当てつけの為に身を汚すほど馬鹿じゃない。
よく考えればスカビオールだってわかっていたはずだ。
そんな事にすら気が付けないほど頭に血が上っていたなんて。
彼も相当嫉妬深そうだ。
「じゃあ、私も聞かせてもらうけど今までの女たちは誰でこの赤いスカーフは何?」
「さあね。覚えてないな」
「どれだけ私が嫉妬したか解ってるの?」
「まあ、相当だろうね」
「殺してしまいたいぐらいだわ」
「俺はうっかり手が滑って殺しちゃったけど」
グレイバックはやれやれと言った様子でため息を吐いて姿くらましをした。
それに習ったかのように仲間の面々が次々に消えていった。
「わかってるよ全部」
「何が?」
「連れ込んだ女は全員私への当てつけでしょ」
「それを言うならあの男は俺への当てつけだろ」
「まあね」
「少しは反省しろ」
「やっぱり私って愛されてたんだね」
「お前が気付くのが遅いだけだ」
今もなお喉を伝う血を指にとって、スカビオールは私の唇に塗った。
彼はまるで全てを舐め取るようにキスをする。
哀れな犠牲者の横で見つめあった私たちはクスクスと笑い続けた。
逃げることないだろ?
(あなたの愛がわかった今では、その理由すらない)