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発展途上少年



「嫉妬」とかいう言葉より、「ヤキモチ」っていう方が正しい気がする。

俺はむっつり顔のトキヤに飽きもせず話しかけるパートナーを見て、自分でもわかるくらいに口をへの字に曲げた。
いいなあ。
そう思ってしまうことは、俺自身では止めようもないのだ。そもそもあいつを好きだと思う、その恋心を止めることから叶わないのだから。

はあ、と息を吐き出して、ぱたりと机に顔を伏せた。あんな風に笑う彼女は見たくない。俺と話しているときとは全然違う名前なんて。

初めは好きになるつもりなんてなかった。パートナーになったのだって、自己紹介であいつが披露した曲が俺の好みとぴったり一致していたからだ。つまり、音楽性が合うかだけで選んだパートナー。それ以外には気を払わなかったし、それまでなんとなく心に描いていた理想の女の子とは全然違ったから、好きになるなんてありえないと思っていた。――いや、名前が可愛くないとかそういうんじゃない。ただ、この学校には恋愛禁止令もあるし、好みから外れた奴と組めたことにむしろ安堵を感じていたほどだったのだ。
俺が女子を見る観点の第一は、背丈だ。そして名前は見事に俺より背が高い。悔しいくらいに背が高い。悔しいから数値は聞いていない。話すときは少し距離を取って、見上げることも見下ろされることも無いように気を付ける。周りから見て明らかに差があるなんて思われないよう、帽子は携帯必須。まあ、そんな影の努力なんてお構いなしにあいつは俺に対してまるで弟のように接してくるんだけど。

それが嫌だと思い始めたのは、いつからだったろうか。

恋心はいつも突然やってくるものだけど、少なくとも俺はその経緯を自覚できていない。気づいたときには後の祭りで、独占欲とか、他の男へのヤキモチとか、およそ『恋愛』に分類されるような気持ちが胸の内に湧き上がっていた。

けど、いつ好きになったかとか、そんなのどうでもいいだろ?
大切なことは俺があいつに恋してるということ、そしてそれを絶対に悟られてはいけないということだ。
ばれたら、退学。
どうでもいいとは思うけど、こんな状況でどうして好きになってしまったのかはやっぱりわからない。

(…突然やってくるものだからな)

恋とは、まったく難しいものだ。
と、腕に顔をうずめたまま目を閉じたとき。

「くーるーすっ」
「いてっ」

突如頭頂部に軽い衝撃。驚いて頭を起こすと、目の前には楽しそうな笑顔を浮かべた名前がいる。

「どうしたー?おねむ?」
「またガキ扱いしやがって」
「ガキじゃないとでも言うのかい」

頭のてっぺんをさすりながら文句を垂れるけど、名前はまったく意に介さない様子でからからと笑う。

「それよりさあ」
「流すなっ」
「そーれーよーりっ。『せすじ』ってさ、『はいきん』とも読めるんだよね!」

俺の机の前でひょこりと屈み、両腕を机に乗せる。目線はほとんど同じか、俺の方が若干高いぐらい。
…この角度、いいな。
なんて阿呆なことを考えていたから、名前の言葉を聞き逃してしまった。

「は?」
「だから、ほら」

名前はささっと俺の筆記用具を漁ってシャーペンを取出し、机に何かを書く。

「…はいきん?」
「もしくはせすじ。字が一緒なんだよね、さっき気づいた」
「それで?」
「そんで、トキヤに報告したわけよ。トキヤの背筋…ていうかすべての筋肉っていうか肉付きっていうか、あのボディバランスはもはや尊敬を通り越して萌えの域にまで達しちゃってるから」
「その理由はわからねえけど」

冷静にツッコみながら、俺の心はまたひとつ嫌な音を立てる。
…トキヤ、か。
このもやもや感の名は、ヤキモチ。俺の表情に影が差したことにはお構いなく、名前はふうとため息をつく。

「だけどトキヤったらつれない返事しかよこさないんだよ」
「……」
「『そうですかアリガトウゴザイマス』ってもう完全にカタカナじゃんね」

まったくトキヤはさー、と続ける名前に、今度は無性に腹が立ってきた。どうして俺にトキヤの話をするんだよ。俺と話すときは、俺の話をしてくれよ、なんて考えは確かにガキだと言われても仕方のないものだった。
単なるヤキモチだってことは、俺が一番わかってるけど。

「俺が知るかよ」

抑えきれなくなった苛立ちは、そんな言葉になって喉から飛び出した。

「寝てたんだから邪魔すんなよな。そんなにトキヤがよけりゃトキヤんとこに戻りゃいいじゃねえか。俺、関係ねーし」
「来栖…」

しまったと思ったってもう遅い。すらすらと口をついたそんな八つ当たりの言葉は、名前の笑顔を奪う。たまらず再び顔を伏せた。
くそ、カッコ悪い。
気まずい空気が流れる。周りはいつも通りざわついているのに、俺と名前の間だけまるで切り取られたみたいに違和感がある。
この沈黙に耐えることは難しかった。だけどそれ以上に、こちらから謝ることもちっぽけなプライドが邪魔をしてできなかった。
だって、悪いと思う傍らで、やっぱりまだヤキモチが、苛立ちが残っている。
とにかく今は名前がここから離れてくれることを期待して、俺は再び腕に顔をうずめる。
だけどそれは叶わなかった。再び頭のてっぺんに衝撃。さっきより少し強めだ。

「ばか。何拗ねてんの」
「…んなこと、ねえよ」
「何かあったならちゃんとあたしに言いなさい!パートナーだろー水臭いぞー」

また頭をさすりながら顔を起こすと、名前の手が伸びてきてぐいと頬を引っ張られる。
こいつ、動じてねえ。
少し拍子抜けした俺の心から、毒が抜けていく。

「拗ねた来栖も可愛いけど、やっぱりあたしはいつもの来栖がいいよ。ほら、笑って笑って」

ぐにぐにと好きなように頬をいじくる名前は、まるで姉が手本を示すようににっこりと笑ってみせた。
ああ、もう。こいつはでかいなあ。
それは身長だけじゃなく、心の広さという点でも。
馬鹿みたいににこにこと笑顔のままの名前を見ていると、悩んでいたことがすうっと消えていく気がした。
俺はこいつに敵わない。そしてそれが、不思議と心地よい。
ああもう、ただもう、好きだ。

「ひゃわいいって」
「んー?」

頬が引っ張られたままでは言葉にならない。俺は名前の腕をつかんで手を離させ、いつものように言った。

「可愛いって、言うんじゃねえっ!」


発展途上少年


「いいか、お前は俺様だけのパートナーだからな。よく肝に命じておけよ」
「あいあい、王子様」

不器用な俺は、ヤキモチだってたくさん妬くんだろうけど。
それでもこの笑顔があれば、何とかなる気がするから不思議だよな。

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『ストイシズム』あおい様に捧げます!完成が遅れてしまって申し訳ありません…><
「翔ちゃんがコンプレックスに悶々しててヒロインは翔ちゃんよりも身長高くてトキヤの背筋萌えとか言い出して八つ当たりする」とのリクエストでしたが、あんまり悶々してない気も…。最初は八つ当たり部分を忘れていて、一度完成した後で途中から書き直しました。わたしのばか。

あおい様、相互リンク本当にありがとうございました!これからも仲良くしてやってください>ω<

あおい様のみお持ち帰り可です。






bkm



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