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一寸先は恋



「あ」

ぱっと顔をあげると、視線の先には翔君と那月君の二人がいた。中庭を取り巻いた円形の廊下で何やら会話をしている様子。反対側にいた私は彼らに見つからないようそっと柱の陰に隠れた。
きゅん、と胸の琴線が音を鳴らす。
翔君は少しずつ後ろに下がりながら、ひきつった笑顔で首を振っている。何だろうと思って那月君を見てみると、彼の手にあるのはどうやらクッキーのようである。満面の笑みで翔君に差し出していた。私のパートナーはどうにかして逃げようとちらちら目線を動かす。
そのとき、後ずさっていた翔君の踵が何か――ここからでは見えなかった――に躓いた。翔君の顔がさらに引きつる。あっと私が声をあげるより早く、

「危ないです!」

那月君が長い手を差し伸べて翔君を抱きとめた。それはまるで王子様とお姫様のようで、普段からあの二人の仲の良さに妄想を禁じえなかった私としては、思わず「はううっ!!」と声を出してしまう。
ぱっと口に手を当てた時にはもう遅かった。翔君と那月君が同時にこちらを振り返る。いつの間にかあの萌えポジションを解いていた二人は、それぞれ違う意味を含めた笑みを向けた。

「名前!」と翔君は助かったような笑顔で。
「名前ちゃん〜」と那月君は名案を思い付いたような笑顔で。

あまりにきゅんきゅんしすぎた、私は口に手をあてたまま小さく手を振ってみた。
笑顔のまま那月君は翔君に向き直り、手元のクッキーを差し出す。
そしてそのまま身をかがめて、顔をしかめる翔君の耳元で何かを囁いた。

「…!!」
「那月君GJっ!!」

その光景に私が叫んでしまったのは、翔君がぽっと顔を赤らめたせいだ。私の萌えメーターは振りきれた。もういいよくっついちゃってくださいよ二人とも!
翔君は照れたように頬をかき、軽く那月君に手をあげてからこっちへやってくる。那月君は嬉しそうに笑い、その場から去って行った。

「名前」
「翔君、よかったね」
「…何が?」
「主に私が幸せでした」

はう、と頬に手を当てて溜息をつくと、翔君は怪訝そうな顔をした。

「というか翔君、どうして那月君は向こうへ行っちゃったの?」
「え、あー、その、だな」

とたんにうろたえている。二人でこっちに来てくれればそれだけでもう胸が熱くなっていたこと間違いなしなのに。もったいないチャンスだった。

「残念だな…」
「なっ」

そっと呟くと、今度は慌てる翔君。私はあまり気にしない。ところでさっき那月君は何を囁いたんだろう?よし、翔君がわちゃわちゃやってる間にちょっと考えてみようか。
那月君は背をかがめた。身長差をぐっと縮めて、翔君の可愛い耳に一言。そこで自分のネクタイに手をかけていたりなんかしたらさらに萌え度が急上昇だ。

『寮で待ってますよ』

そしてその言葉に翔君は頬を赤らめるのだ。

イイネ!と心の中でガッツポーズをする。内側にいるもう一人の自分がじたばたとはしゃぎまわり、萌えを伝えてくる。本当に素敵な組み合わせだ。掛け算ここに極まれり、といった感じ。どっちを先に配置するかはいろいろと議論の余地がある部分ではあるけれど、個人的には那月君が前のほうが好きだ。というか、パートナーとして一緒に生活してわかったけど、翔君は受け要員としての素質が高いのだ。全受け狙えるんじゃないかなと勝手に思っている。
なんてほくほくと妄想に励んでいる。どうせ日常ですすみません。

「…那月がいた方がよかったか?」
「え?あ、うん」

急な質問だったけど即答した。すると翔君はさらに肩を落とす。どうしたんだろう。
ひょいと顔を覗き込む。「翔君?」名前を呼ぶと、俯いた彼の眼と視線が絡んだ。
あ、きれい。

「……っ!」

とたん、ばっと飛び退く翔君。あれ?顔が真っ赤に染まっている。口元に手の甲を当てて、目線がきょどきょどとせわしなく動き回っていた。
おかしいな。ここに那月君はいない。そんなに動揺することもなくないですか。というか、さっき那月君に頬を染められたときよりもかなり赤みが増していた。周りに人はいない。それって私相手にそうなっているのかな。

「……え」

熱でもあるんだろうか、なんて呑気に考えるほど純粋な心ではないと自負している。なんせ腐っている。腐った女の子は、そんな動作一つからも妄想を展開するという特殊能力を持っている。そこから導き出されるこの状況の答えはといえば。
え、あの、もしかしてもしかしたら、なんだけど。
私、翔君に意識されてる、とか?

「……」

笑い飛ばすにしては翔君の反応が真に迫りすぎていた。空いた手で胸のあたりをぎゅっと握っているのはどうしてだろう?
とたん、私の頬まで熱くなる。いや、そんな。でも、まさか。
鼓動が速い。どきどきしてきた。これは萌えだろうか。萌えで生じるきゅんきゅんなのだろうか。
いや、違う。このどきどきは、萌えとは別種の何かだ。そう、既存の名で呼ぶならば、多分、いやきっとこれは。

「た、確かに、那月君がいたらよかったかもだけど――」

喉がからからに乾いたまま、斜めを向いて私は声をあげた。翔君がこっちを見る。目が合った。どきどきがさらに進行する。しかしできるだけいつも通りを保って、なんとか平調な声を保つ。

「翔君だけでも、私的には十分です」
「…お、おうっ」

咳払いをしてそう告げると、さっきまでおろおろしたり赤くなったりしていた彼は、顔は赤いままだけど、なんだか嬉しそうに笑った。


一寸先は恋


「クッキー貰ったけど、食べるか?」
「あ、うん。それじゃ紅茶でも飲みながら」
「俺は――…いや、まあ、お前いるし、行くか」
「え」

那月×翔もいいけれど、きっとこれからは私が翔君の横にいたいと思うようになるんだろうな、なんて二人で食堂に向かう道中に思ってしまった。


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「ながれ星」の美柑さまへ捧げます!遅れてしまって申し訳ありませんでした><
「日々なっちゃんと翔ちゃんのCPで妄想しているのが顔に出ちゃう腐女子主と翔ちゃんの絡み」とのことでしたが、見事に逸れました。あれれ?
そもそも私が腐ってないので腐女子レベルもわからず撃沈!あんなに素敵な小説頂いたにも関わらず…。

とにもかくにも、相互リンク本当にありがとうございました!!これからも美柑さまのご活躍を応援しております!!

美柑様以外お持ち帰り禁止です。






bkm



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