ギフト | ナノ


こぼれたミルク



恋愛ってのは、自由なもんだ。そのはずだろ?

「何、しょ…っ!?」

だったら、好きな奴に好きだって言っても、構わないよな。

「ちょ、翔くん、なに」

だけど現実には、やっぱり校則に縛られたままで。

「なになになに、なんのドッキリなの」
「違う」

夢の欲望の間を、さんざんさまよった。

「な、なっちゃん、は」
「しばらく帰ってこねえよ」

だけど、いざこいつを目の前にすれば、周りのしがらみが一切見えなくなっちまう。

「しょ、しょーちゃん、校則を思い出すんだ」
「忘れるわけないだろ。けど、それ以上に」

ベッドに仰向けで横たわる名前の体には、上から多い被さる俺の陰が投影されている。
切った言葉の先は何も続けず、俺はそっと顔を名前に近づけていく。

「だ、だめ」
「うるせーよ」

手を伸ばして拒絶してくるのがやけにむかついて、ちょっと乱暴に両手を名前の頭上で束ね、片手で押さえつけた。

「ひ…」
「こっち、向けよ」

たまらず顔を背けた名前の頬をもう片方の手で掴み、無理にこっちを向かせる。

「いっ、た…」
「そっか、悪いな」
「…っ、なら止めよーよ…っ」
「それは、無理」

まるで俺が俺じゃないみたいに、のどの奥から楽しそうな笑いが漏れた。
そう。もう、止まらないのだ。
顔をぎりぎりまで近づけ、ふう、と熱の籠もった息を名前の唇に吹きかけた。湿った唇を親指でゆっくりとなぞると、名前の顔が紅潮してくる。
もぞり、と名前の足が動いた。

「気持ちいいのか?」
「ちが…っ、離して、よ」
「だから、駄目だって」

ほとんど囁くようにそう言って、俺はさらに、体を沈み込ませた。

音は、無かった。
目を閉じていたから、何を見ることもなかった。
そうして俺は、名前の柔らかな唇の感触を、ようやく手に入れた。

抗議をしようとしてか、名前は何度もそれを動かしてじっとしてくれない。
ならば、と一端口づけをやめ、静かに、しかし深く息を吸い込んだ。
名前の目尻に涙が浮かんでいるのを見て、

(…構うか)

乱暴にそれを拭い、口に運ぶ。

「美味いよ、名前」
「なん、で、こんなことっ」

それには答えず、再び唇をふさぐ。今度は少し舌をのばして、ちろりと合わさった部分を舐めてやる。

「ぅ…っ」

面白いように体が反応した。さらに体重をかけて、舌で強引に唇を割る。
頭を左右に振って拒絶されたが、そんなのは知った事じゃない。唇の裏側や歯茎を舐めてやれば、抵抗を見せていた歯の力が弱まった。すかさず舌をねじ込んで、名前のそれに触れ合わせる。
今までで一番強く、名前の肩が跳ねた。
逃げようとするそれを巻き込んで少し引っ張り上げる。そろそろ息が続かなくなってきたのか、名前の力が弱まってきた。
掴んでいた両手を離し、しゅるりと制服のリボンを抜き取った。
口内に流れ込んだ名前の唾液を飲み込み、最後にもう一度唇を舐めてから顔を離す。

「……っ」

名前は泣いていた。荒い呼吸をしながら、口の端から唾液を一筋垂らしながら、その目尻から、涙の線が伝っていた。

「なん、だよ」

大きく息をしながら、涙を流す顔を両腕で隠す名前。

「泣くほど、嫌なのかよ…っ」

むかつく。
なんで泣くんだよ。
名前の真横に拳を振り下ろすと、ぼふ、という音と衝撃に反応して、また名前の肩が跳ねた。
今はもう、面白いなんて思えない。

「くそっ!」

やり場のない怒りが込みあがり、壁に思い切り手を叩きつけた。
その痛みでようやく、自分がしでかしたことに気づいた――が、もう遅い。
名前は泣いている。俺のせいで、泣いている。俺が好きな名前の笑顔は、もうそこにはない。
俺が、消し去った。

「…ちく、しょう…っ!」

俺はベッドから降りて、そこから逃げ出した。傷つけてしまった少女から、それでもまだ大好きだと思ってしまう相手から逃げて、外に出た。
外はひどく雨が降っていた。どこに向かうでもなく、雨に体温を奪われながら、苦しくなってもお構いなしに、ただひたすらに走った。
それでもすぐに、「後悔」という名の重りに体を押しつぶされることになるのだろう。



こぼれたミルク


取り戻せない、昨日までの日々。

――――――――――――

こちらの終わり方を切なくしたものになります。こっちの方が先にできていたのですが、やっぱ甘い方がいいのかなあと思って直しました。
千晴様、お好きな方をキリリク作品と思ってくださいね。

2012.1.29






bkm



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