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ロマンスより早く




ラブロマンスを借りてきたのは、そういう雰囲気を期待してのことだった。
奥手というのもはばかられるほどに恥ずかしがり屋な彼女。学園を出て寮暮らしとなった俺たちは、正式に交際を始めた…のだが、彼女のそんな気性のせいで、恋人らしいことなんて一つもできやしなかった。
だからいっそ雰囲気から作ってやろうと思ってラブロマンス映画を借りて彼女の部屋に押し掛けたのだが。

こっくり、こっくり。

隣で一緒にDVDを見ている彼女が、船をこぎだした。

「名前?」
「はっ…あ、ごめん…」

声をかけると、ぱっと顔を上げてふるふると頭を揺すり、膝に抱えたクッションをぐっと抱きしめた。
ちなみに、俺たちの距離は約30センチ。
俺は間近に座ろうとするんだけど、いつの間にか名前が横へずれていくんだよね。
…嫌われてることは、ないと思うんだけど。
映画に視線を戻す。おおっと、主人公とヒロインが戦争で離れ離れになっちゃったよ。ああ、ヒロインが泣いてる。

「ん…」

こっくり。

再び、名前の顔が斜めに傾いだ。

「名前、眠いの?」
「う…音也くん、ごめん…」
「いや、眠いんならいいからさ。まだラストまで時間あるし」

ラストでは何が何でも名前といい雰囲気になりたい。ってのが偽りない本音。

「ん…」
「ほら、こっちおいで」

そのためには、まず名前に接触しなければならない。俺は手を伸ばして名前をぐいと引き寄せた。

「ひゃっ…!!?」
「へへ、捕まえた」

後ろから包み込むように優しく抱きしめてやると、傍目から見ても分かるくらいに名前はかちこちに固まってしまった。顔も一気に赤くなり、口をぱくぱくさせるだけ。

「どうしたの?寝ていいんだよ?」
「ぁ…ぁぅ…」

絞り出した声は、言葉になっていない。
いやあ、可愛い。
こういう、羞恥に身を染めた名前の可愛さは、きっと俺しか知らない。

「ね、ね、…ねら、寝らんない…」
「うん、だよね」

冗談だよ、と腕をゆるめると、名前はすぐさま逃げだそうとする。
しかし、もちろんそうはさせない。

「ほら、膝枕」
「あわわっ」

ちょっとわき腹をくすぐれば力の抜けた名前を、そっと床に横たえた。頭は俺の膝の上。
上からまっすぐ名前の顔をのぞき込むと、最早涙ぐんでいた。
だけど、俺は知っている。

「名前」
「ひゃいっ」
「俺に触られるの、いや?」

切なげな表情を作ってそう聞くと、ぶんぶんと頭を振って否定の意が返ってきた。
ほら、嫌なわけじゃないんだ。
悪戯心は、むくむくと鎌首をもたげてゆく。

「じゃ、何で逃げるんだよ」
「ふぁっ、あ、ああああのねっ」
「うん」
「は、はは、はず…か、しい…」
「知ってる」

へっ!?と声を上げる名前に、今度はにこりと笑みを見せる。
そして、右手全体で、名前の顔の上半分を覆い隠した。
突然視界をふさがれて、戸惑う名前。

「恥ずかしいならさ、隠してあげるよ」
「おっ、音也、くん」
「どう、ちょっとはマシ?」

うん、と呟くその唇は、まだそこに触れたことのない俺にとって、非常に魅惑的だった。
画面の中の女性は、主人公が生還するという知らせを受け取って、涙を流して喜んでいる。
悪いね、お先。

「じゃ、俺のしたいことも、してくれる?」
「む?」
「そのままでいいよ、名前」

自由な方の手で頬に手を滑らせ、顎を少し持ち上げる。
結局雰囲気作りなんて関係なかったな。
そう思いながら、何も分かっていないであろう可愛い名前の唇に、自分のそれをそっと押しつけた。


ロマンスより早く



――――――――――――

8888を踏まれたミライ様に捧げます。
「積極的音也と恥ずかしがり屋ヒロイン」とのことでしたが、いかがでしたでしょうか。
あまり攻めさせられなかった気も…。

遅くなってしまったこと、まことに申し訳ありませんでした。
ミライ様、ありがとうございました!

2011.11.03






bkm



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