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Child Love
『ったく、平助はガキだなぁ』
左之さんの言葉。
『何で平助ってそんなにがきんちょなのさ』
総司の言葉。
『大人になれ、平助』
一くんの言葉。
言われるたびにむきになって否定してきたその言葉が、今になって鋭く胸に突き刺さる。
俺はガキだった。何も考えていないバカなガキだった。感情に任せて声を荒げ、名前に癇癪をぶつけてしまった。
「畜生…」
誰もいない部室の隅にもたれて、俺は頭を抱える。
どうして、もっと素直になることができないのだろう。どうして俺は、こんなにも未熟なんだろう。
肉体面でも精神面でも、ここ剣道部でしっかり鍛えてきたつもりだった。現に、総司や一くんは俺より数段先を行っている。
――小学生から、抱き続けたこの思い。
変わらないあいつへの気持ちが、それを阻害しているとでもいうのか。
「…っ、アホかよ俺は…」
違う。変わらなかったのは俺自身だったのだ。成長しているようで結局同じ場所を踏み続け、どこにも進めなかったのだ。
「…いや…」
それも、違うか。
俺は、変わりたくなかったんだ。
名前への恋心を実らせるよりもむしろ、あいつとの関係を壊さないことを選んだために、あえて変わらなかったのだ。
告白しなかったのは、そんなくだらない理由で。
唯一にならなくてもいいから、ただ名前の隣にいたかった。
名前だけじゃない。総司も、一くんも、千鶴も、――俺は、ずっとあいつらと一緒に過ごしたかった。
『何物も、変わらずにはいられない』
それでも俺は、変わりたくなかったのだ。
自嘲気味に笑みをこぼすと、涙が一筋、頬を伝った。
なあ、まだ俺は、やり直せるのかな。
変わってやるよ。俺は、長すぎた子供時代に、終わりを告げてやる。
そのためには、名前に好きだと伝えなければならない。
涙を拭い、立ち上がったところに、誰かが道場に入ってくる音が聞こえた。
遠慮がちなその足音は、部室の前までゆっくりと歩き、止まった。
「…平助、いる…?」
「――名前」
いつものあいつらしくない弱々しい声に驚いて扉を開けようとするけれど、「そのままで聞いて」という言葉に動きを止めた。
こつり、と扉に響いた小さな音。
「あのね、平助」
俺は、動けない。
名前がこれから言う言葉は、何かとても大切なもののような気がしたからだ。
名前が息を吸う音が、かすかに聞こえた。
「――好き」
その瞬間、名前の声以外の音は、すべて消失した。
「平助は気付いてないだろうけどさ、
「あたし、小学校のころから平助が好きだった。
「だけどいつの間にかあたしたち、喧嘩ばっかりになっちゃって、
「本当はすごく仲良くしたかった。
「だけど、その喧嘩友達って距離はあまりに心地よくて、
「あたし、変わりたくなかったんだ。
「下手に告白なんかして玉砕するより、
「ずっと、隣にいたかった。」
吐露される名前の心情は、俺のものとまったく一緒だ。
「――だけど、言われちゃった。
「『そんなんじゃ、お前は大人になれねえ』…って。
「あたしも、変わらなくちゃいけないときが来たんだ。
「だから平助――ごめんね、ずっと、
「好きでした。」
その告白をぼーっと聞いていた俺は、「…それ、じゃ」と立ち去ろうとする名前の声に、はっと感覚を蘇らせた。
悔しいけど、名前の方が先に大人への階段を登り始めたみたいだ。
だけど、俺だって――
「名前っ!」
ドアを開けると、立ち去ろうとしていた名前が驚いたようにこっちを振り返った。
突進さながらの勢いで、名前をぎゅっと抱きしめる。勢いがつきすぎて、二人で床にしりもちをついた。
それでも、抱き込んだその肩は離さない。
「――平助」
「好きだ」
前振りなんて、もう必要ないだろ。
抱きしめた名前の顔をのぞき込んで、俺はその言葉を告げた。
「お前も、俺も、ずっとがきんちょのまんまだったんだ」
「……っ」
「変わろうぜ、二人で。…一緒に、大人になろう」
「うん…っ」
名前の手も、背中に回る。
やっと、捕まえた。
いつか望んだこの感触は、関係を変化させて、ようやく手に入った苦労の証。
これから先、この間柄も変わってしまうのかもしれない。
だけど俺は、それでも、名前を好きでいようと、そう思った。
◇
「はあ?絶対俺の方が先だって!」
「何さ、あたしの方が早いって何回言えば分かるの!」
「あーはいはい、仲がいいのは分かったから、痴話喧嘩は向こうでやってね」
総司の言葉に名前と目を見交わして、ふんとそっぽを向く。
依然として喧嘩の絶えない俺たちだけど、――だけど、『恋人』って関係は、目に見えて示されていた。
繋いだ手に力を込めると、お返しとばかりに間接を狙って握り返される。
痛みもあるけど、そんなのお構いなしに、俺は威勢良く声を張り上げた。
「何度も言うけど、絶対俺の方が先に好きになったから!」
Child Love
HAPPY END!
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ということで、突発中編「Child Love」完結です!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
とか言って、番外続編とか書いちゃうかも。
2011.11.03
bkm
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