薄桜鬼中編 | ナノ


本当はそんなの関係なくて




「やっぱり千鶴もわかってたのか」
「そりゃあ、わかりやすいもの。平助くん」

俺たちの朝は早い。俺たちというのは、剣道組+名前のことだ。千鶴はマネージャーだ。剣道部には鬼の朝練があるせいで、早起きして学校に行く必要がある。名前は部活に入ってないから無理に早く行かなくてもいいんだけど、どうせならみんなで行きたいらしい。というか、千鶴と登校したいらしい。
俺としては名前と会える回数が増えるから嬉しい反面、喧嘩しそうになるから嬉しくないと、そんな感じ。

「え、わかりやすいのか?」
「ああ、心配しなくても名前ちゃんは気づいてないと思うよ」

俺と千鶴は一番家が近いから、待ち合わせ場所の駅まで一緒に行っている。その途中には総司の家もあるから、合流する。駅を挟んで逆方向に名前と一くんの家がある。何度か遊びに行ったのが懐かしい。

「ま、あれだけ喧嘩になってちゃ気づかれないよな」
「うーん、まあ、そうかな」

煮え切らない返事の千鶴。角を曲がれば総司の家だ。携帯を一度鳴らせば門前に出てくることになっている。

「おはよう二人とも。あれ、千鶴ちゃん何考え込んでんの?」
「え?ああ、ええと…」

駅まではあと五分といったところか。







「あ」
「む」

シャワーを浴びた頭をタオルでがしがしと拭きながら教室まで行っていると、名前が重そうな箱をかかえてよたよと歩いていた。

「何やってんの、名前ちゃん」

総司が声をかける。千鶴と一くんは片付けをしているからまだ下にいる。
名前は会話するために一旦箱をどさりとおろして、痛くなったのか腕をぷらぷらと振った。

「先生にホッチキス止め頼まれてさ。今終わったから持って行くところ」
「何人分あるんだよ、それ」
「ざっと百は越してるかな、多分」

うわ、大変だったな。お疲れさま。なんて素直な言葉は出てくるはずもなく、俺は「ふーん」と言うことしかできなかった。
隣で総司が小さくため息をついて、どんと俺を押す。

「わっ。何すんだよ」
「平助が手伝いたいってさ。こき使ってやりなよ名前ちゃん。それじゃ」
「そ、総司?」

名前が困ったように総司を呼ぶけど、あいつは妙に笑顔で手を振るだけで、自分のクラスに入っていった。

「………………」
「………………」

気まずい沈黙。いや、まあ、手伝うしかないんだけどさ。この場を作ったのが総司だってのが、なんとなくネックなのだ。
背中を押してくれたってのは、わかるんだけど。

「…あたし一人で大丈夫だから、平助は帰っていいよ」
「は?」

手を握ったり開いたりしながら、名前はもう一度箱を持ち上げようとする。俺はあわててその手を止めた。

「なに?」
「いや、俺が持つって。重いだろ」
「別に、平気だし」
「さっき手ぇ痛そうにしてたじゃん」
「あれは…別に違うもん、ひとりで大丈夫だって」
「いいから、貸せって!」

強がる名前にむかっときたから、腕をつかんで無理やり箱を奪い取る。やっぱり、ずっしりと重たい。女子にはいくら何でも運ぶのは厳しいだろう。

「か、返してよ!」
「運べないくせに、強がるんじゃねえよ」
「…っ、平助に運べるんだから、あたしにも運べるよ」
「意味わかんねー。お前、男女の体力差舐めてるだろ…いてっ」

がん、と背中に拳が飛んできた。

「男女とか関係ないし!」
「お前、この前は男女差擁護してたじゃねえか」
「今は今!」
「ったく…可愛げねーやつ…」
「可愛い担当は千鶴だ!いいから返してって」

俺がそうしたように名前も箱を奪おうとするけど、当然力で負けるはずがない。

「ま、とりあえず職員室だな。時間もないし」
「む、むかつく…」
「これからも重たい荷物があったら頼んできていいんだぜ?」
「さらにむかむか!」

それ運び終わったら殴ってやる、と名前もついてくる。今日はなんだか上手を取れたみたいだ。男女差か、またこういうことがあったら、素直に手伝ってやりたい。


本当はそんなの関係なくて

ただ、一緒にいたいだけ。

――――――――――

2011.09.25






bkm



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