薄桜鬼中編 | ナノ


いちごミルクみたいな



「お前ら、ホントに仲いいよなぁ」
「仲良くねーし!」
「誰がこんな奴と!」

左之さんの言葉に、俺は名前と口を揃えてそう怒鳴った。そのせいで一旦中断した口喧嘩も、またすぐに再開される。

「こんな奴とはなんだよ!」
「チビガキ怒りんぼの平助さんのことですが?」
「お前俺より小さいじゃん!」
「男女で体を比べるとか無いわーやっぱりおバカですねー」
「男女平等だろーが!」
「ほら怒りんぼじゃん!ガキ!」
「同い年だしお前も怒ってるし!」

ぎゃあぎゃあとうるさく騒ぐ俺たちに、左之さんがため息をついていた。
何でちょっと笑ってるんだよ。







稽古が終わったら、購買の自販機までジュースを買いに行くのが俺たちの習慣だ。
どれにしようかと迷いながら、財布から硬貨を取り出す。

「平助ってさ」
「んー?」

既に紙パックを買って飲んでいる総司が声をかけてきた。

「名前ちゃんのこと好きでしょ」
「んな…!?」

びっくりして百円玉を落としてしまう。一くんが拾って渡してくれた。

「やはりか。俺もそんな気はしていた」
「ちょ、一くんまで!」

嫌な汗が垂れてくる。にやにやとむかつく笑みを浮かべる総司に、それでも声を張り上げてみる。

「べ、別に好きじゃないって!あんな奴」
「顔真っ赤だよ?」

バレてないと思ってたんだ、とかぬかす総司。一くんまでうんうんと頷いているもんだから、俺はたまらずその場にしゃがみこんだ。
絶対今の俺、顔赤いよ。

「…いつから気づいてたのさ」
「僕は中学にあがってすぐかな。一くんは?」
「俺は高校だ。中学とは…いつから好きだったんだ、平助」
「…小五…くらいから」
「早熟だな」
「むしろ純情でしょ。四年間喧嘩友達兼片思い相手とか、すごいよ平助」

誉められたって全然嬉しくない。というか、総司の言葉からは言外にこう読みとれる。
『四年間ずっと好きなのに告白もできない意気地なし』と。
名前とは幼稚園からずっと一緒の仲だ。というのは総司や一くん、千鶴も同じ。俺たちはみんな剣道教室に通っていて、すごく仲が良かった。…名前とも、昔は喧嘩とかあんまりしなかった。
小学五年生のとき、クラス分けで俺と名前だけが同じクラスになった。当然クラスで一番仲が良かったのは名前だから男子よりも名前と話すばかりしていたら、…小学生らしく、ある日の朝黒板にはどでかい相合い傘が描かれていたのだ。
そこで躍起になって否定していたときに、初めてはっきり気づいたんだ。
俺は名前が好きなんだって。
ただ、その噂を消すために必死になりすぎて、いつの間にか喧嘩友達になっちゃって、以後恋心は膠着状態…というわけだ。
俺、情けない。

「ふうん。そんな経緯だったんだ、あれ」
「小学生か。懐かしい話だな」
「短パンはいてたガキの気持ちが、今もまだ残ってんだな」

第三者の声がしたのでそっちを見れば、片手をあげて左之さんがこちらに歩いてきていた。

「左之さん、今日なんでいなかったのさ」
「先生に呼ばれてたんだよ。新八もな」

左之さんと新八っつぁんは隣町から同じ剣道場に通っていた、昔からの知り合いだ。

「…左之さんも気付いてたの?」
「まあ、高校で二人を見たら、一発だったな」

そんなにわかりやすいのかーっと再び頭を抱える。左之さんはくつくつと笑って、自販機で缶コーヒーを買う。ブラックだ。

「俺も何か買おう…」

手早くコインを入れて、ボタンを押す。
あっ、と総司が声を上げた。

「それ、名前ちゃんの好きなやつだ」
「知ってるよ」

だから俺も好きなんだ、というのは心の中に留めておいた。


いちごミルクみたいな

甘い恋心は、いつ届くだろうか。


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2011.09.25






bkm



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