うたぷり短編 | ナノ


もえ!



『好きな曲はキャラソンアニソン。二次元原理主義で生きてます。○っちゃんは俺の嫁。よろしく!』

あいつの自己紹介は、個性の強いSクラスの中でも殊更突飛だった。
世の中では紛れなく「オタク」と呼ばれる人種に部類される彼女がひょんなことからパートナーになってしまっているのが何故かは当人にもさっぱりわからない。
確かいつものように「俺様の家来になりたい奴募集中!」と言ったら、「何この子可愛い…はい、立候補!」的な流れだった気もする。そのまま採用しちまう俺も俺だが。
しかしこいつ、「もえ!」と抱きついてくる頻度は那月以上だし(何で燃えるんだよ)、変態だし(男の腹チラで喜びやがる)、よくわからない発言ばかりするし(だから、もえってなんだよ)、ド変態だし(アイドル科の女子を見て鼻の下をのばしている)、語り出したら止まらないし(固有結界とか言ってるけど、何のことだ)。
他にそっち系の趣味を話せる友達がいないのか、基本的に俺を相手にあれはどこがいいだのこれはあの人が素敵だのと身振りを交えてそりゃもう熱心に語る。
さっぱりわからんが。
あの剣幕は本当にすごい。案外、名前が魔女だと言われても、信じられそうな気がするくらいに。
…まあ、でも。
好きなものを語るときの笑顔を可愛いと思ったことがないと言えば、嘘になるかな。
それに、こいつの知識は、偏っているにしても深く面白い。ロボアニメなんかは、俺だって見ていたし。懐かしい記憶を引っ張り出しながら話を聞いていると、いつの間にか一緒になって話を楽しむ俺がいる。
だから俺は、結構名字のことが気に入っているのだ。
…口には出さないけどな。


そんな彼女は今現在、俺の部屋で横になり、漫画を読んでいる。四コマのあんそろじぃという奴らしく、吹き出すのをこらえられないこともしばしばだ。
何かおもしろいことでもあったのだろうか、たまにばんばんとベッドを叩きながら爆笑している。
俺は隣で雑誌を読んでいた。好きな雑誌はと聞いたことがあるが、即答で週間少年漫画雑誌と答えていたな。学園に入ってからは買いに行けないのでとても嘆いていた。
実に奇人である。

「ひー、面白かった」

目尻に涙をためるほど爆笑して、名字は本を閉じた。そして目を閉じて「かぁっこいいよぅー」と表紙に頬擦りを始める。
気持ち悪い。

「面白いんじゃなかったのかよ」
「面白いけど、キャラはかっこいいの。好みストライクなの」

俺が口を挟むと、名字は本を抱いたままこちらに目を向けてへにゃりと幸せそうに笑う。どんな奴なんだろう。少しだけ気になっている俺がいる。

「お前の好みって、どんなの?」
「なあに、気になる?」
「そ、んなんじゃなくて、興味があるだけだっ!」

…ってそれ、気になるってことだろ。
いや気になるってのはアレだオタクの好みってどんなもんなのかと気になるって意味だぞ、なんて弁解が頭をぐるぐるするけど、名字は全く意に介さない様子で「あたしの好みはねぇ」と言った。

「かわいい子だよ」

かわいい、の言葉に一瞬びくりとする。

「それも男女かまわず、とにかくかわいさがあればそれだけで萌えだね萌え。でもただかわいいんじゃなくて、女の子ならちゃんと心に一本筋の通ったかわいい子が好き。見た目だけじゃないんだぜ?まあ基本的に虹ガールはかわいい子ばっかりだから、少女に部類される子たちはみんな萌えるね。小物には留意しないけど、制服ってかわいくない?それから男の子だと、基本年齢は少年に置かれます。いい、あたしはショタコンじゃないの。ショタと少年はノットイコールなの。わかる?少年ってのは思春期入って大人になりかけだけどまだあどけなさが残ってるって言うか、見た目にかわいさだだ漏れな男の子ね。あたしはそういう人が好き。あ、でも大人の男性がその知的な見た目とは裏腹にかわいい弱点を持っていたらそれはそれで萌えるね。具体的なキャラ名は多分翔くんわかんないだろうから言わないけど、ざっとこんな感じよん。おけー?」

淀みねえ。
一遍も噛まなかったぞ。
七百字も使って何を言っているんだこいつは。…そりゃまあ、言えと言ったのは俺だけど。
ごくん。色々言いたいことを飲み込み、代わりに俺はこう言った。

「…つまり?」
「翔くんはあたしの好みドストライクってこと」

どっかの眼帯ウサギみたいな言い方だけどさ、と笑った名字の言葉は確かにシンプルでわかりやすかった(ウサギはわからないけど)。
…わかりやすかったけども!

「はあ!?」
「ぶい」
「いや、え、おまっ」

それはアレか、告白と受け取っていいのか。
いやでも今のこの名字の顔は告白後の顔じゃねえよな、どう見ても。得意げにピース突き出してやがる。

「いやあ、まさか三次元にこんなかわいい男子がいたなんてねえ」
「か、かわいいって、言うなよ」
「翔くんもえーっ!」

頭がさっきの名字の言葉でぐるぐるする中、当の本人はいつものように抱きついてきた。しかしこちらはいつも通りじゃない。ふわりと香った名字の匂いとか、背中に絡みついた腕の感触とか、絶妙な柔らかさとか…。
おい、ちょっと待てよ、何でこんなにどきどきしてんだよ!相手は名字だというのに、あの名字だというのに…だーくそっ!!

「どしたの翔くん顔赤いよ?かわいいよ?」
「うるせーっ!」


もえ!


その夜、『もえ』を調べてみると『萌える』というのが出てきた。

[@芽が出るA利息が付く]

「わかんねー!」


――――――――――――

整理中に出てきたもの二つ目。
あげようか迷ったけどやっぱりアップ。

2012.2.6






bkm



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