うたぷり短編 | ナノ


SK論争



「名前、いい加減はっきりさせなよ」
「え、えぇ…」
「そうだよ。あんたがはっきりしないから、みーんなやきもきしてんのよ?」
「そんなぁ…」

よく晴れたとある昼休み。
教室の後ろで、女子がそんな会話を繰り広げていた。
僕はといえば、今日は翔ちゃんが宿題をしなくちゃいけないからお目付役としてサッカーを観戦することもなく、自分の席で読みかけの本を読んでいた。だけどどうにも集中できないのは、名前たちの会話のせいだろうか。

「んじゃ、もう一回聞くよ。名前はS、K?」
「ぅあ、えぇっと…えぇぇっと…」

わたわたと狼狽する名前の声。ああ、可愛いなあ。名前は僕の初恋の人で、それは翔ちゃんも同じ。双子だからって好きになる相手まで同じでなくたっていいのにとは思うけど、そうなっちゃったんだから仕方ない。
昔、翔ちゃんがまだ名前への恋心を自覚してないときは大変だったなあ。翔ちゃんはツンデレの気があるから名前にしょーもないいじわるばかりしていつも落ち込んでたし。
にしても、SとKって何のことだろう。そう考え出してすぐ、僕は正解らしき答えにたどり着いた。多分それは、僕と翔ちゃんのことだ。
ちらりと翔ちゃんの方を見ると、丁度翔ちゃんもこっちに目を向けたところだった(さすが双子)。
きっと翔ちゃんも後ろの話、聞いてたんだろうな。だから僕はぺろりと舌を出す。それは挑発じみた行動だった。翔ちゃんは顔をしかめたけど、すぐに左目であっかんべえ。両者譲らず、って奴だ。
だけど、こればっかりは翔ちゃんに取られちゃうわけにはいかない。だから僕はそういう気持ちを込めながら、声を出さないで口を動かした。

(翔ちゃんには、渡さないよ)

まず間違いなく伝わったはずだ。翔ちゃんが僕のメッセージを読み違えた事なんて無い。

「ねえ来栖くん、この問題さ…」
「あ、うん。どうしたの?」

するとその後、同じクラスの子がノートを持ってやってきたから、僕たちの密かな遣り取りは終わりになった。翔ちゃんの答えは聞けてないけど、おおかた予想は付く。翔ちゃん、負けず嫌いだからね。
その子に数学を教えてあげながら、僕はぼんやりとあの論争について考えていた。
僕か翔ちゃん。他の女子の評価はあんまり気にならないけど、名前の答えは超気になる。だって仕方ない、好きな人なんだから。

「あー、もうチャイム鳴っちゃうし、またねっ」
「こら名前!」

そうこうしている内に予鈴が鳴り、名前が小走りに僕の斜め前の横の席に着席した。
名前の中の天秤では、きっと僕と翔ちゃんは釣り合っている状態なんだろう。それを僕の方に傾けさせるためには、どうすればいいか。
今日の放課後は確か、僕も名前も入っている委員会が集まる日だ。そこが、きっとチャンスになるだろう。







「薫ちゃーん、これで全部?」
「うん、おっけー」

放課後、僕たちは委員会のある部屋の掃除を命じられ、夕焼けが見え始める時間になるまでその作業を続けていた。
やっと終わったぁ、と背伸びをする名前。その僕より少し低い位置にある頭をぽんぽんと軽く叩いて労をねぎらった。

「へへ」

にまにまと嬉しそうに笑む名前。名前の頭に触れる機会は翔ちゃんの方が多い。だからいつも羨ましがりながらその光景を見ていたのだ。
確かに、これは何度だって撫でたくなる。

「何か買って食べようか、アイスとか」
「いいね!でも、薫ちゃんが買い食いなんて、珍しい」
「たまには僕だってするよー」

笑いながら名前の頭から手を離し、荷物を整え始める。
先に出るためにドアに手をかけた名前に、僕は「そーいやさ」と声をかけた。

「ん?」
「SとKって、何?」

直接尋ねてやれば、名前は驚いたのか何もない場所で躓き、ドアに頭をぶつけた。

「いたぁ…」
「大丈夫?」

うぃ、と頭をさすりながらこっちを見た名前の顔は、真っ赤だった。

「なぜそれを?」
「昼休み、話してたでしょ」
「あう…」
「僕はさ、名前」

鞄を肩に掛けて、僕は名前に一歩近づいた。

「Kがいい、なんて言ってほしくないなあ」
「え、…?」
「だってさ、Kって『来栖』のKでもあるじゃん」

そして僕はもう一歩近づいて、にこりと微笑んだ。

「だから僕は、ちゃんと『薫がいい』って言ってほしいんだ」
「は、はう…」

口をぱくぱくさせて目を丸くする名前の右手を捉え、そっと握った。
天秤は、傾いてくれるだろうか。


SK論争


心ここにあらずといった風に大人しく手を引かれる名前に、後から恥ずかしさがこみ上げてくる。
でも、それが本心だということは、言うまでもない。


――――――――――――
ということで薫verでした。
「書いて!」と言ってくださった方々、ありがとうございました!

薫ちゃんマジ迷子。

2012.1.24






bkm



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