うたぷり短編 | ナノ


SK論争



「名前、いい加減はっきりさせなよ」
「え、えぇ…」
「そうだよ。あんたがはっきりしないから、みーんなやきもきしてんのよ?」
「そんなぁ…」

よく晴れた日のとある昼休み。
教室の後方で、女子の会話が聞こえてくる。
やってなかった宿題を急いで片づけていた俺はすぐに集中が続かなくなり、代わってそっちに耳を傾けていた。
はうぅ、と子犬みたいに困った声を出しているのは、幼稚園以前から知っている友人、名前。別に女子の会話に耳をそばだてる趣味はないが、あいつはなんつーか、その…特別、なんだよ。
何の話かは知らねーが、いつも以上にあたふたしている。

「んじゃ、もう一回聞くよ。名前はS、K?」
「ぅあ、えぇっと…えぇぇっと…」

S?K?何の話だろうか。
多分泣きそうに顔をゆがめて必死に頭を回転させているだろう名前を思い描く。若干の片思い補正を除いたって、多分かなり可愛い。…除けてないかも。
ちらりと、ほとんど無意識のうちに薫に視線を送る。するとまさしく薫もこちらを見ていたようで(さすが双子)ばちりと目があった。
ぺろ、と舌を出される。それは挑発じみた行為だった。俺はむっとして左目下の頬を指で引っ張り、あっかんべぇ。
薫は少し爽やかに(中身は割と黒く)笑った後、口ぱくで何かを伝えてきた。

(翔ちゃんには、渡さないよ)

確かにそう読み取れた。まず間違いはないだろう。密かな遣り取りの後、勉強の質問か何かはわからねーが、女子が薫の元へやってきた。俺の返事は伝えられなかったが、まあわかっているだろう。薫は賢いし。

(俺だって、渡さねー)

少しため息をついて、椅子に深く座り直した。
俺が名前の幼なじみだということは、つまり薫も名前の幼なじみだということ。ちなみに出会いは公園の砂場だったのだが、薫の方が早く声をかけて遊んでいた。あいつに向ける気持ちが恋だと気づいたのもほぼ同時だったが、やっぱり薫の方が早かった。俺が早かったのって何があるだろう。生まれる順番くらいなものか。いや、だからこそ渡せない。これ以上名前に関することで後れをとるのは、嫌だ。

(SとKって、何だろう)

もしかしたら薫はわかっていたのかもしれない。だからあんな風に、いつもはしないようなベロ出しまでして挑発してきた。挑発?じゃあその「SK」は何か俺たちに関わることだとでも言うのだろうか。
俺と薫と、名前。

「…あ」

誰にも聞こえないように、俺は呟きを漏らした。
そういえば何かの噂で聞いた。学年内で、来栖兄弟のどちら派かという議論が横行している、と。
そのときははた迷惑な話だとスルーしていたが、今になってちゃんと考えれば、…そりゃそうだよな。
名前が巻き込まれないはずがない。
あいつは俺たちの幼なじみという、とても近い関係だ。さらに近くなりたいとかそんなのは置いといて、名前の意見は女子の注目するところなんだろう。
だけど、俺がその噂を聞いたのは一ヶ月くらい前だぞ?まだ続いていたのかという若干の呆れもあるけれど、それ以上に一ヶ月以上も悩んでいただろう名前に驚いた。あいつの天秤では、きっと俺と薫は完全に釣り合っているんだろう。
天秤を俺の方に傾けさせたいという思いがむくむくと沸き起こってくる。

「あー、もうチャイム鳴っちゃうし、またねっ」
「こら名前!」

ばたばたと俺の隣を走り抜けて席に着いた名前。
確か今日は薫が委員会で、二人で帰る日だ。丁度いい。何かアクションを起こしてやろうと密かに決めたところでチャイムが鳴る。
…やべ、宿題進んでねえ。





帰り道。
二人で帰るのは久しぶりだねえと微笑む名前にそうだなと返しながら、俺はどう話を切り出そうかと頭を回転させていた。

「翔ちゃん?」
「え、あぁ」

俺の様子がおかしいと感じたのか、名前がひょこりと顔をのぞき込んできた。それにどきりとしながらも、大丈夫だと首を上下に振る。

「あのさ、昼休み」
「え」
「あれって、何話してたんだよ?」

ちょっと遠回りしてみる。名前は一気に顔を赤くして、その後首を振った。

「な、なんでもないよ」
「何でもないことはねーだろ、ほら、SとかKとか」
「そ、そこまで聞こえてたの?」

翔ちゃん地獄耳だよう、とうなだれた彼女はまさしく子犬。
その頭に手を置いて、優しく撫でてやった。
ちなみに、さっきまでのがジャブなら、これから入れるのは右ストレート。

「俺はさ」

撫でていた右手を下に降ろし、代わりに名前の左手に指を絡めた。
名前は俺の方を不思議そうに見ている。

「Sの方がいいと思うぜ」
「…翔ちゃん、え、わかって」
「そしたら!」

名前の戸惑う声を遮って、俺は声を張り上げた。名前の顔は、わざと見ないようにして。

「絶対、幸せにしてやる」


SK論争

「……はう」

放心したようにぽーっとする名前を見て、後から恥ずかしさがこみ上げてきた。
でも、それが本心だということは、言うまでもない。

――――――――――――
アンケリクを書いてるつもりがアンケに無かったというオチ。
薫verも読みたい方がいらっしゃれば、頑張って書きます。


2012.1.22






bkm



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