うたぷり短編 | ナノ


宿敵から始めよう



いきなりだけど、私にはライバルがいる。
宿敵と書いてライバルと読む感じの、あれ。
ただ、そう思っているのは私だけなんだけど。
競えるのは精々勉強だけ。それも負け越しているのだから始末に負えない。つまり向こうは私をまったく意識してないんだろうなあってことだ。
将来は東京で高度な医療に携わりたいからって、中学でちょっと周りより頭が良かったからって、反対を押して田舎から出てきたつけが回ってきたのかも。
…ああ、自信にあふれてたあのころが懐かしいなあ。
なんて回顧にひたってもしょうがない。
私は一人西日の射す廊下を歩いていた。目的地は教室。勉強しようと寮で鞄を開くと、案の定筆箱がなかったのだ。まったく馬鹿としか言いようがない。

「…あ」
「ん?」

しかし私は教室の扉を開けた瞬間思わず固まった。うわあ、よりによって、この人に会ってしまうなんて。今日はとことんついてない。
言い忘れていたけど、私のライバルは来栖薫という。
ぺたんとした真面目な明るい金髪は茜色に照らされ、かわいげを残した面持ちはしばらくしてこくんと首を傾げた。

「どうしたの?」
「えっ」
「あ、あれ?よかった、気になってたんだよね」

来栖くんは穏やかに笑って、私の机にぽつんと置かれた筆箱を指差した。

「名字さんが筆箱忘れるなんて、珍しいね」
「う、うん、そうかな」

私は戸惑いを隠しながら笑みを浮かべ、教室に入る。
実は、来栖くんと話すのはこれがほとんど初めてみたいなものだ。
勝手にライバルだと思ってる以外に接点なんてないし。いや、それは接点とは言わないかな。
基本的に、私は人見知りなのだ。
筆箱を掴み、そのまま出ようとすると、「あ、ねえ」と声をかけられた。

「なに?」
「明日の数学の予習、もうやった?」
「う、うん。まあ」

丁度いいや、と来栖くんは笑顔を深めた。

「ここ、計算が合わないんだよね」
「どれ?」

――人見知りだけど、話の種があればひとまず平気。
私は来栖くんの机に近寄り、ノートを覗いた。

「うわ、綺麗」
「そんなことないよ」

ノートには几帳面そうに綺麗な図や文字が整列していた。少なくとも、私のよりは数倍綺麗だ。

「で、ここなんだけど」
「んー」

指で示された計算を一行ずつゆっくりと目で追い、私の頭の中でも計算を実行する。

「あ」
「ん?」
「ここ、プラマイ逆じゃない?」
「あ、本当だ」

素早く消して、新たに数式を書き込んでいくと、正解にたどり着いた。

「わあ、ケアレスミスすぎたなあ」
「来栖くんがそんなミス、珍しいね」
「あ、さっきのお返し?」

そりゃ人間だもの。明るく笑う来栖くん。
なんだかこの数分だけで、来栖くんと仲良くなれた気がする。
来栖くん、いい人だ。
こんないい人を勝手にライバル視していたなんて、なんだか恥ずかしい。

「ごめんね」
「え、何いきなり」
「私、来栖くんのことライバルだと思ってた。勝手に、ごめん」
「ライバル?」

来栖くんは再び小首を傾げた。そして私をじいっと見た後、にっこりと、見る人を安心させるような笑顔を浮かべた。

「いいんじゃない?」
「へ?」
「ライバルから始まる関係ってのもありかもなあって」
「なにそれ」

来栖くんはそれに答えず、「今日は帰ろう」と呟いて勉強道具を仕舞い始めた。
成り行きに任せて、しばらく片づけを見守る私。
…他人が見たら、驚くことだろう。私と来栖くんが一緒にいるってことに。
あ、でもさっきライバル公認されたから、ちゃんと相関図には矢印が通ったことになるのか。
来栖くんの片付けが終わった。「帰ろっか」と言われ、こくんとうなずく。

「告白したときに、『まずはお友達から』っていうの、あるじゃん」
「あるね」

いきなり話が明後日を向いた気がした。来栖くんは微笑んで「そういうことだよ」と言う。
なんだか手前勝手に解釈してしまいそうになって、慌ててぶんぶんと首を振った。


宿敵から始めよう


「多分それ、勘違いじゃないよ」

来栖くんの言葉が想像通りなら、私たちがもっと仲良くなるのも時間の問題かもしれない。

――――――――――――
アンケリクより、薫くんでした。正直口調迷子。設定もちょいあやふや。
だけど薫くんも少年、大好物です。

アンケリク、ありがとうございました!

2011.12.3






bkm



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