うたぷり短編 | ナノ


等号の行方



友達以上恋人未満。

あたしたちの関係を、友達はそう評価する。そしてあたしも、あいつも、確かにそんな感じだと納得して、ただ毎日を一緒に過ごしてた。
あたしと翔くんは幼稚園のころからずっと同じクラスで今日まで育ってきた、男女合わせても一番の友達だ。むしろ親友とさえいえるのかもしれないし、そこまでではないのかもしれなかった。
何にせよあたしたちがとても仲がいいのは周知の事実で、そしてカップルにはほど遠いということもまたそうだった。

友達以上恋人未満。

だからあたしたちには、その表現がぴったりなんだ。

「名前は来栖兄のこと、好きなんじゃないの?」
「そりゃ好きだよ」
「名前の『好き』は友達としてでしょー?」
「そりゃそうでしょ」

昼休み、教室の一角で繰り広げられるのは、お馴染みの話題。一ヶ月に一度はこの話が出てくる。だけど、向かう路線はいつも同じだった。彼女たちが軽くため息をついて、お終い。

「もー、この話何回目?小学校一緒の子にあたしたちのこと聞いてみなよ、納得するから」
「小学校と中学校は違うでしょ」
「そうかなあ」
「そうだって!ほら、中学校に入ったら男子って急にかっこよくなるじゃん」

ほらほら、と友人たちはこっそりクラスの男子を指さす。運動部の子で、高校生だと言っても通用しそうな体格をしている。同小だったから、昔の小ささと比較すると…確かに。

「けど、翔くんは変わんないよ。変わんなくチビ」
「いやまあ、そうかもしれないけど」

ちなみに今翔くんは、校庭に飛び出してサッカーに熱をあげているところだ。ぶっ倒れる危険性もあるので、薫くんがついている。その辺の配慮、本当に抜かりがない。
友達はうーんと唸り、それでもまだ反論しようとしてくる。

「けど、翔くんは…」
「ちょ、それはだめだって」
「あ、そっか」
「?」

翔くんは、なんなんだろ。

「ともかく!いい加減うちらも中三だし、小学生とは気持ちが違うでしょ」
「まあね」
「だから、もっとよく考えてみなよ。来栖兄のこと」

丁度予鈴が鳴り、あたしたちは自分の席に戻った。外から男子が帰ってくる。翔くんもちょっと汗をかいて教室に入ってきた。

「勝った?」
「負けた」
「どんまい」

おー、とおざなりな返事をして、あたしの机の前を通り過ぎる。

あたしは、翔くんのことをどう思っているんだろう。
そりゃ好きだ。嫌いな訳ない。喧嘩も何度かしたけど、基本的にあたしたちは仲良しだ。
じゃあその『好き』っていうのは、特別か、そうじゃないか。
特別…だよね。だって翔くんはすっごく長い付き合いだし。それを言うなら薫くんもなんだけど、薫くんはあたしと遊ぶよりもあたしと遊んでる翔くんを見てたからなあ。翔くんほど仲良くしてた記憶はない。もちろん友達なんだけど。
じゃあ、やっぱり翔くんは特別だ。
でもなあ…それがいわゆる恋って奴なのか、わかんない。恋って何?どうなれば恋なの?

このことを考え出すと頭がぐるぐるしちゃうから、あたしはぺたりと机に伏せた。
後ろで翔くんがあたしの友達に話しかけられてるのが聞こえる。声がひそひそ話になった。何話してんだろ。気になるな。…気になる?何で?
関係ないよね、うん。

「さあ、午後もしゃきっと行くぞー」

先生が入ってきた。身を起こして、起立、礼。狙い澄ましたかのようなチャイムと共に、再び椅子に座った。
授業は数学だった。数学は好きだ。ごちゃごちゃ考えるよりもずっとシンプル。ただ目の前の問題を、解けるか解けないか。解けたときの快感もひとしおだ。

こつん。

先生が黒板を向いている隙をねらって、折り畳まれた紙切れが後ろから投げ込まれた。後ろの席は、翔くんだ。手紙なんて、翔くんもなかなか女の子らしいことをする。開くと、いかにもノートの端を破りましたという不格好な紙に、

――――――――――
俺は、

友達≦俺ら<恋人

よりも

友達<俺ら≦恋人

の方がいい
――――――――――

と走り書きされていた。
上と下の違いは、イコールの位置。

「……え」

思わず声が漏れる。小さな呟きだったから、多分誰も気づいてない…けど、これ。
イコールが、友達から恋人に移った、ってことは。

「………………」

あたしは考えた。だけどそれは難問だったから、解答のヒントを得るためにそっと紙切れにシャーペンを走らせた。

下側の≦、その=に丸をつける。
矢印を引っ張り、こう書き加えた。
『好きって気持ち、教えてくれる?』


等号の行方


後ろ手に返した後少しして、また紙が投げ込まれる。

『当たり前だろ!』

次の休み時間、どうやって顔を合わせればいいのかな。

――――――――――――
突発短編でした。
意味、わかりましたかね。ややこしかったかな…

中学生の翔くんって、何センチだったんだろう。

2011.11.27






bkm



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