うたぷり短編 | ナノ


虹恋



「帰るのは夜になります」

そう言ってトキヤが出て行った後、何もする事がない俺はギターのチューニングをしていた。チューナーはあるけど、基本は自分の耳を頼りに音を合わせていく。
そういや最近、ギターを弾いていなかったなあ。
それは多分、パートナーとの時間を持ちすぎたせい。もちろん、俺が望んで名前と一緒にいたんだけどね

今日は一緒にいないのかと聞かれれば、名前は今学園にいないのだと答えるね。なんでも、親類のお葬式だとか。お昼過ぎに帰ってくるらしいから、それまで曲でも考えようかなあ、なんて。
チューニングを終え、軽く弦を弾いてみる。運指の確認。うん、きちんと動くね。

『あー、似合うわー』

初めて名前にギター姿を見せたとき、彼女はしきりに頷いていた。

『ね、ね、何か弾いてみてよ』
『うん』

あの時の思い出をなぞるかのように、俺はそっと指を動かした。ピックが和音を生み出す。気持ちの良い瞬間は、今ここに。

どうしてギターが好きなのかと、昔も今もよく聞かれてきた。ギターはメジャーな楽器だ。バンドをやるなら欠かせないし、その中でも花形に位置する。弾きながら歌ったりするのは、見ていてとてもかっこいい。いや、俺もできるけどね。
だけどその中でも、俺はこの和音が好きなんだよね。ギターはピアノみたいに旋律を奏でる楽器じゃないんだ。もちろんそういう楽譜もあるけど、和音で拍子を取る方が好き。
ギターの一音一音は、なんともない普通の音。だけどそれが集まれば、とっても素敵な音楽になる。
ギターって、いいよね。
なんだか楽しさが増していって、俺はしばらく、ギターを弾くのに熱中していた。

それが止まったのは、不意にこんこんとドアがノックされたからだ。

「音也、いる?」
「名前?」

ベッドにギターを置いて立ち上がり、ドアを開ける。

「うわっ、どしたの!?」
「さむ…」

名前はびしょ濡れだった。気づかないうちに雨になっていたみたいだ。髪の毛も私服もぐっしょりと濡らした名前に入るよう促し、バスタオルを取ってくる。

「ほら、中まで入りなよ」
「いや、濡れちゃうし」
「今更。後で拭けばすむでしょ」

それより名前が風邪引かないかが心配だ。そろそろと入ってきた名前を椅子に座らせ、バスタオルをかぶせた上からぎゅっと抱きしめた。

「うわ、冷たいよ名前」
「まあね」

早くお風呂に入りたい、と名前は身を震わせた。彼女の前で組んだ手がそっと握られる。その手も、とても冷たかった。

「気分落ちてたのに、雨まで降ってくるなんてね」
「ちゃんとお別れしてきた?」
「…うん。ちょっと泣いちゃった」

雨でわかんなくなったから、そこはよかったよ。なんて強がって笑う彼女に、俺は腕の力を強めた。

「名前」
「ん?」
「好きだよ」

ストレートに伝えた言葉は、「ありがと」の一言で受け止められた。
お互いに好き合っている、と思う。だけどここは早乙女学園だから、その恋心を交換することはできないのだ。
わかっているからこその、「ありがと」だ。
触れあった部分から、きっとこのもどかしさは伝わっているだろう。

「ギター、弾いてたの?」
「うん、久しぶりに」
「音也のギター、聞きたいな」

俺の温もりが段々名前にも移り、震えが止まった。
いいよ、と答えて名前を離すと、寂寞の思いに胸を支配された。
そのとき、頭にすっと浮かんできたフレーズがあった。ギターを手に取り、名前を見て笑う。

「今作ったんだけど、聞いてくれる?」
「うん」

彼女の瞳に後押しされて、俺はそっとピックを弦におろした。


――弾き語りを終える。
名前は泣きそうな笑顔を見せて、立ち上がった。

「おいで、名前」
「…うん」

何がしたいのかなんて、すぐにわかった。
俺は再度ギターを置き、手を広げて声をかける。
甘えるように抱きついてきた名前の首筋に、そっと口づけを送った。

「名前」
「ん?」
「虹、見えるといいね」
「…うん」




虹恋






寂しくなったら 悲しくなったら
僕のところに おいでよ
その雨あがって できた虹は
僕の愛が 重なったものだから

苦しくなったら つらくなったら
僕のところに おいでよ
こぼれそうな 「大好き」の気持ち
虹の橋渡って 君に届けよう





雨が上がったら、もう一度好きだと伝えよう。

――――――――――――

アンケリクより、「音也弾き語り」でした。
灰色部分が作中歌(?)となっています。
作詞とか全然かじったこともないんで、作法がどうとかあったらごめんなさい。

アンケリク、ありがとうございました!

2011.11.23






bkm



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