うたぷり短編 | ナノ


長期戦上等



俺、161。彼女、166。

身長差なんてどうにでもなると思っていた。さすがにまだ成長は止まってないはずだし、彼女は既に止まったとも聞いている。牛乳を毎朝必ず飲むことをノルマとし、雑誌に載っていた体操も実践している。いつかは効果が出るはずだ。…いつかは。

俺、16。彼女、18。

だが年の差ともなるとこれはどうしようもない。アイドルデビューを果たしたとはいっても、俺はまだまだ依然としてガキ扱いしかされていない。二歳差というのは、こんなにも大きいものなのか。彼女の性格も姉御肌であり、実際に彼女の実家では長女という立派な姉体質であるだけに、可愛い弟としか見られていないのだ。それがどれだけ悔しいことか。俺は弟じゃなくて、もっとこう、甘い雰囲気を共有できる無二の人になりたいんだよ。

「やあ、翔。仕事から帰る音がしたから来てみたのだが。どうだい、じゃがいもの煮付けだ。食べるか?」
「食べる」

ほら、今日も俺が帰るのを狙いすましておかずを持ってやってくる。166センチ。女にしたら高い部類に入るはずだ。18歳。結婚だってできる年齢。彼女はとても大人の風格を漂わせていて、可愛いというより格好いいと七海たちに憧れの目を向けられていた。俺とはまさに正反対。

玄関に立たせっぱなしも悪いので、中に入るよう促すと、「お邪魔します」と言って平然と入ってきた。今は夜で、仮にも男の部屋だ。危機感を持たないのかと非常に聞きたいところだが、それで「持っていない」と言われたら言われたでショックがでかいので、聞けない。情けない。いやでも不用心なのが悪いわけだから、無理矢理に俺のことを意識させてしまおうか。簡単だ。抑えている気持ちを暴発させるだけでよい。あのソファの前に誘導し、一気に押し倒す。何がなんだか分からない顔をする彼女に、無言で口付ける――考えるだけで、無理だ。俺にはできない。まず、心臓がもたないだろう。

はあ、と彼女に気づかれないようにため息をつき、貰った皿を机に置く。レンジで白米を暖め、茶碗に装った。

「名前は飯、」
「食べたよ、だから余り物を運んできたんだ」

そっか、と相づちを打って、箸を取り出して席に座る。向かいには名前が既に座っていた。
ぱん、と手を合わせる。

「いただき」
「あ、ストップ」

ます、まで言う前に、彼女がそう言ってこちらに手を伸ばした。え、え?何をされるのか分からず目をつぶると、頭が軽くなる感触。
目を開けると、帽子を指にひっかけて薄く笑んでいる彼女。

「部屋の中だ。外そうな、翔」

諭すような口調に、思わず反抗的な声を上げる。

「いや、返せよ」
「ダメだ」
「俺の家だし」
「関係ない」

人一倍礼儀を大切にする名前に反論したって無駄だとはわかっているけど、それでも今の俺には帽子が必要なのだ。
帽子があれば、背の低さを誤魔化せる。

「返せってば」

身を乗り出して帽子を奪い取ろうとする。しかしすんでの所でそれは上にあげられた。
ふっと笑って、名前は俺の頭にぽんと手を置く。

「…撫でんなよ」
「ふふ、いいじゃないか」
「嫌なんだよ。何かこう…」
「子供扱いされているようで、か?」

――!
胸中をズバリ当てられ、たまらず赤面する。
わかってんならやるなよな。
そう言おうとするけど、「だが、」という声にまたもや遮られる。

「私は好きなんだ」
「…っ!!」
「翔の頭を撫でるの」

勘違いだと分かっているけど、それでも「好き」とか言われたら心臓がばくばくして、もうどうしようもねえよ。
畜生、名前が好きだ。

「それにな?翔」
「…何だよ」
「私は、恋愛には年齢も身長も関係ないと思っているタイプの人間だ」
「…え」

間抜けな声を上げると、名前は「さーて」と立ち上がった。

「私はそろそろ部屋に戻る。食器はまた明日の朝取りにくるよ。何時にここを出る?」
「あ、えっと、七時過ぎ」
「では、その辺りに」

見送りはいらないぞ、しっかり食べてくれ。
そう言い残して玄関に向かう名前を、俺はただ見ていることしかできなかった。
恋愛に、年齢も身長も関係ない?
そんなこと、わざわざ俺の前で言うってことは。
ひょっとして、脈ありなんだろうか。

「…うん。よし、うん」

他人には理解されなさそうな頷きを何度もして、もう一度冷蔵庫に立った。牛乳を取り出して、コップに注ぐ。
背が伸びたら、告白だ。
そう心に決めて俺は牛乳を飲み干した。


長期戦上等


だから待っててくれよ、名前。

――――――――――――

アンケリク、「身長差彼女との日々」でした。
身長差ネタを書いてくださる方が多かったです。また別パターンも書こうかな…。
アンケリク、ありがとうございました!

2011.11.05






bkm



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