うたぷり短編 | ナノ


微睡む二人



「むぅ…」

名前の唇からそんな吐息が漏れ、俺は忍び足を更に忍ばせる。起きたかと心配したが、すうすうという可愛い寝息以外は聞こえてこなかった。
予定より早く収録が済んだ俺は、サプライズとして名前の部屋にやってきていた。時刻は午前二時、当然名前は熟睡中だ。そんなこと承知でこいつに会いに来たのは、ここ一カ月ほど会えていなかったため名前不足だったから。
今すぐ起こしてこっちを向かせたいけど、さすがに寝ているところを邪魔することはできない。俺も眠いし、こっそり布団に潜り込ませてもらおう。
できるだけ静かに毛布を持ち上げ、体を滑り込ませる。奥で壁側に丸まっている名前には触れないように、そっと。
あったかい。
夜の空気に冷えた体に、じんわりと熱が染み通る。

…名前、こっち向かねえかなあ…

丸い背中にむかって、そう思ったところ、名前がぶるりと身を震わせ、

「んぅ…」

ころんと寝返りをひとつうち、布団へ更に潜った。かたかたと震えているので、更に密着させるように名前を抱き寄せる。

か、可愛すぎる。

腰に手を回してお互いに熱を分け合い、こつんと額を合わせる。

…起きないな。

無防備に目を瞑り、時折唇をぴくりと動かすその寝顔を見ていると、何というか、き、キス、したくなった。
いや、でも、寝込みを襲うのはさすがに。
…でも、こんなに近いんだし。
い、いやでも!
名前の唇を間近にして、一人悶々と悩む俺。

「んー…?」

すると、知らず知らず腰に回した手に力が入っていたのか、名前の目が、薄く開いた。
焦点の合わない瞳と、視線が交わる。数秒、俺たちは見つめ合った。

「しょーくん?」

そして名前は、まるでとろけるような甘い声で俺を呼び、にへらと表情を崩した。

不意打ちだ、それ。

胸を射抜かれたみたいにぎゅっと収縮する感覚。
意識が吹っ飛びそうになるくらい、可愛かった。

「へへ、しょーくんだぁ…」

嬉しそうな声を出しながら、名前は俺の首に手を回し、ぎゅうと抱きついてきた。寝ぼけたままだから、大して苦しくはない。
体全体で名前の柔らかさを受け止める。布団の中で上昇した体温と、ふにっとした感触。そして香ってくるシャンプーの匂い。
ほんの数時間前までは、あんなに寒かったのに。
今では、体も心も熱を帯びている。

「…名前」

たまらず俺も強い力で抱きしめた。口元に垂れた黒髪を一房、梳くようにして後ろに流す。
呼吸も、心音も。
俺たちは、一つになっていた。

「翔くん」

胸の中で呟く吐息がくすぐったい。ああもう、なんでこんなに可愛いんだろう。頭を撫でると、気持ちよさそうに声を漏らした。

「ずっと会えなくて、悪かった」
「ん…も、いいよ」
「寂しかった」
「わたし、も」
「名前」
「翔くん」

交わす蜜言も、感じる体温も、全て夢みたいな出来事だ。
俺の胸にぐりぐりと顔をこすりつけ、「翔くん、翔くん」と何度も名を呼ばれる。

「すき」
「…っ、うん。俺も」

また不意打ちを食らった。まだ寝ぼけてんのかわかんないけど、例のとろけるような声で今度は「すき」と連呼し始めた。
俺も、すき。
大好きだ、名前。
つい数時間前まではあんなに寂しかったのに、心はすでに名前で満たされていた。
これが、俺の幸せだ。

「ん…しょ…く…」
「名前?」
「…………」

だんだんと声が小さくなっていって、同時に腕の力も弱まった。また寝たみたいだ。息が詰まってしまうからそっと胸から名前を引き離し、再び顔を向かい合わせる。
心なしか、さっきよりも安らかな顔をしているようだった。
…俺も、眠い。
くああと欠伸を一つして、寝ることにする。
ちゅ、と目の前の額に口付けて、「おやすみ」と小さくつぶやいてから、俺も目を閉じた。


微睡む二人


「ええええ翔くんなんでいるの!?いつ来たの!?」
「…覚えてねえのかよ、昨日あんなことやこんなこと」
「は、ちょ、何それどういうこと!?」
「可愛かったなー、昨日の名前」
「ええええ!?」


――――――――――――

『この作品を書くのに、一週間かかった。』
ごめんなさい黙ります。ていうかネタわかる人あんまいないですかね…

最近甘いのばっかなので、ハロウィンとリクエスト処理したらギャグ書きたいです。

リクエスト「添い寝」より。

2011.1024






bkm



top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -